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広葉樹は草? 針葉樹とはまったく違う植物だった

田中淳夫森林ジャーナリスト
広葉樹のクロガネモチと針葉樹のカヤが抱き合っている……。(著者撮影)

 樹木、あるいは木材の世界で、針葉樹(材)と広葉樹(材)の違いは何かと聞かれたら、何と答えられるだろうか。

 実は、某セミナーに参加して演者から驚愕の真実?を聞かされた。

「針葉樹と広葉樹は、まったく別の生き物」「広葉樹は草に近い」

 一般的には、葉の先がとがり細いのが針葉樹、扁平な形の葉が広葉樹と区別するだろう。(イチョウなど平たい葉を持つ針葉樹もあるが。)幹は、針葉樹が比較的まっすぐ伸びるのに対し、広葉樹は曲がりくねったり枝分かれしていることが多い。

 外見だけではない。針葉樹の組織は90%以上が仮道管で占められて、細胞の構成は非常に単純、配列も整然としている。そして材質は柔らかめ。だから木材関係者は針葉樹のことをソフトウッドと呼ぶ。一方、広葉樹の組織は複雑で、細胞の種類も多いうえに機能も分業・専門化している。水分の通り道は主に道管が担い、木を支えるのは主に木部繊維だ。複雑な分、多様な性質を持つ。材質は多様だが、硬いものが多いのでハードウッドと呼ぶこともある。

ちなみに針葉樹の樹種は540種程度だが、広葉樹は約20万種もある。多様性が全然違うのだ。

針葉樹(トガサワラ)
針葉樹(トガサワラ)
広葉樹(クヌギ)
広葉樹(クヌギ)

 さらに成分を見ると、木材を構成しているのはどちらもセルロース、ヘミセルロース、リグニンの3つが主要な成分で、全体の9割を占める。ところがセルロースは針葉樹も広葉樹もほとんど変わらないが、ヘミセルロースとリグニンは両者の間にかなり違いがあるのだそうだ。ヘミセルロースの場合は、構成する糖の種類や組み合わせが針葉樹と広葉樹では異なったところがある。

 リグニンにいたっては、構造がまったく違っている。針葉樹はG型リグニン、広葉樹はSG混合型リグニンというそうだが、その意味はともかく(私もよくわからない)リグニンには無数のバリエーションがあって、物質名というより「タンパク質」「炭水化物」というような大雑把な括りにすぎないそうだ。

 そして、この細胞構造の違いから言えば、広葉樹は双子葉植物・単子葉植物といった分類に入り草本類に近く、針葉樹とは距離があるというのであった。

 これを似姿違質(じしいしつ)というそうだ。いわゆる相似形である。サメとイルカは姿形はよく似ているが、かたや魚類、かたや哺乳類とまったく分類学上は違う生き物だ。それと同じぐらい違っているという。たまたま幹があって、枝があって葉をつける……といった形が似ているだけなのか。

 なんだかショックを受けて改めて調べたのだが、そもそも発生・進化の系統樹からして両者はまったく違うのだということを知る。

 植物全体の分類で言えば、両者は維管束植物に属するのだが、針葉樹が登場したのは、ざっと3億年前の石炭紀とされる。ところが広葉樹はジュラ紀の終わり、1億5000万年前だ。なんと1億5000万年もの時間の差があるのだから、当然進化の過程も違ってくるだろう。

 しかも針葉樹(裸子植物)はシダ植物から進化したと推定されているが、広葉樹(被子植物)はどこから姿を現したのか(何から進化して広葉樹になったのか)謎なのだという。

維管束植物の系統樹 多様性の植物学2(東大出版会)より引用
維管束植物の系統樹 多様性の植物学2(東大出版会)より引用

 私は、どちらも同じ樹木だから、その差を動物にたとえると、イヌ科とネコ科ぐらいの違い……ぐらいに思っていた。だが発生時期からすると、両生類と哺乳類ぐらい差があると思った方がよいのかもしれない。(無茶なたとえだが。)

 森林の植物という括りでは、どうしても針葉樹と広葉樹を一緒に捉えて、その樹下に草が生えているというイメージだが、分類学的には「針葉樹-シダ植物」と「広葉樹-草花」の混ざった空間と思って見た方が正確なのだろう。

 とはいえ、自然界からすると、どうでもいいことなんだろうなあ。トップ写真のように、針葉樹と広葉樹が抱き合って融合したかのような姿を見ると、違っていて何が悪い? と問われるかのようだ。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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