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嵐はなぜ堤幸彦監督と相性が良いのか、初のライブ映画『ARASHI 5×20 FILM』で感じた親和性

田辺ユウキ芸能ライター
(C)2021 J Storm Inc.

嵐にとって初のライブ映画『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM“Record of Memories”』(以下『ARASHI 5×20 FILM』)が11月3日にドルビーシネマ限定で先行公開、11月26日より全国公開される。

同作は2019年12月23日、映画を撮影するために東京ドームでおこなわれた「シューティング・ライブ」をおさめたもの。あらゆる場所に仕掛けられた125台のカメラで、嵐のメンバーである相葉雅紀、松本潤、二宮和也、大野智、櫻井翔の姿はもちろんのこと、観客の反応など会場にいるすべての人の表情や仕草を撮影。息遣いが伝わってくる内容となっている。

そんな『ARASHI 5×20 FILM』のポイントのひとつは、堤幸彦監督がメガホンをとったこと。2002年公開の嵐の主演映画『ピカ☆ンチ LIFE IS HARDだけどHAPPY』、2004年公開の続編『ピカ☆☆ンチ LIFE IS HARDだからHAPPY』を手がけたことでも知られる堤監督。今回の『ARASHI 5×20 FILM』を鑑賞すると、嵐と堤監督は相性が抜群であるとあらためて思える。

松本潤の汗、全員の指先など「どアップ」で大胆撮影

堤作品の大きな特徴は、被写体の顔を「どアップ」で大胆に映す点である。代表作『トリック』シリーズでは、仲間由紀恵演じる山田奈緒子が決めポーズを見せたり、動揺したり、コロコロと変わる表情をクローズアップでとらえた。その顔の変化で物語にテンポ感を生み出していた。同じく監督作『ケイゾク』シリーズでは、1999年放送の第1話『死者からの電話』の開始1分で早くも主演・中谷美紀の顔に大接近。物語が示そうとしている奇怪さを表現した。

『ARASHI 5×20 FILM』でも、ライブ映像の幕開けはメンバーの顔からだ。ゴンドラで降りてくる5人。ドローンなのか、それとも手持ちカメラなのかは判別がつかないが、斜めの角度から松本の顔をどアップで映す。そして彼がカメラに目線を配ってから、パフォーマンスが始まる。メンバーときわめて近い距離感からスタートを切るやり方は、堤作品の真骨頂である。

堤監督の書籍『堤っ』(2002年/角川書店)には、2001年制作のグリコ『ムースカプリコ』のCMの絵コンテが掲載されている。この絵コンテにも、「どアップ」という表記で主演・窪塚洋介に近づいて撮るように指示を飛ばしている。同書では「(堤監督の)得意のアップ多用画面が、食品の美味しさを強調するのにピッタリ」と明記。被写体の魅力を際立たせるためにアップを多用したのだ。

同書内のインタビューで、堤監督は「ド・ド・ド・ド・ドアップが好き」と語っている。「何億円かけたセットより目と口のアップが説得力あるんですよ。基本的に人間を見せるものであれば、一番愛すべきものもコワイものも人間の顔。ホントにピクッとした人間の眉や口や口のはしがどんなものよりも明快な主張を持つんです」と、クローズアップを好む理由を口にした。

さらにこのインタビューではかなり重要な話があった。ドラマや映画で被写体に寄って撮ることについて「ライブ撮影に近いかな。ライブは寄るから。歌っているアーティストの汗まみれな姿。ギターの弦とか、それを弾く指先のアップとか、靴のアップとか。これは顔に限ったことではないですが」と明かしているのだ。

実はこのコメントは『ARASHI 5×20 FILM』にも繋がっている。演奏曲『言葉よりも大切なもの』の場面では松本の首筋に光る汗を撮り、『Find The Answer』では指先や靴のつま先を鮮明に映して5人の息がぴったりと合っている様に気づかせるのだ。前述の言葉をあらわした場面が、今回のライブ映画にまさに登場する。

あと、やはり嵐はクローズアップがよく似合う。犬童一心監督の映画『黄色い涙』(2007年)でも5人の顔の近距離描写が出てくる。そこからはキャラクターの心の機微を受け取ることもできるし、なによりも男性アイドルとしての美しさや清潔さが感じられる。嵐は画面いっぱいに映しても成り立つ美貌の持ち主であり、作り手として「寄って撮りたい」と衝動に駆られるのではないか。

相葉雅紀が『ピカ☆ンチ』で感じたテンポの良さ

『ARASHI 5×20 FILM』は、嵐のメンバーの一挙手一投足を余すことなくとらえている。「爺孫」コンビ(大野と松本)が恋人繋ぎで手を握る様子。「櫻葉」コンビ(櫻井と相葉)のじゃれあい。「大宮SK」コンビ(大野と二宮)が自分たちの着ているシャツでおどける光景。呼吸の仕方から緊張が伝わってくる櫻井のピアノソロ。

とにかく映像作品としてぜいたくだ。カメラが125台ということで、記録映像量は膨大だったはず。そのなかから厳選したワケだが、「あれも入れたい、これも入れたい」と迷いがあったと想像できる。もちろん、ファンとしてはできるだけ多くの映像が観たい。そこで生かされたのが、堤監督の持ち味であるワンカットの切り替わりの早さである。スピーディーに映像を編集・構成することで、ワンカットでも多く、メンバーの姿が収録されることになった。

堤監督特有のスピード感あふれる映像の効果として、全編がハイライトと思える内容になった。書籍『ピカ☆☆ンチ A to Z 嵐のピカンチダブルな日々』(2004年/角川書店)で、相葉は『ピカ☆ンチ』について「単純に笑えるシーンが多くて楽しかった。とにかくおもしろいなあって。それから、テンポのよさにびっくりした。山場もいっぱいあるし」という感想を持った。

確かに堤作品はいずれもボリュームを感じる。それは『ARASHI 5×20 FILM』も同様だ。素早い編集でワンカットを短くした分、作品のなかに入れ込める映像数が増え、そのおかげで5人のより多彩な姿が楽しめるようになっている。だから148分の上映時間があっという間ながら、「全部が山場」と思える満腹感がある。

嵐と堤監督と東京の関係性

『ARASHI 5×20 FILM』で印象に残るのはファンの歓声だ。全編にわたって、まさに嵐のような声援が巻き起こる。同映画には、東京を発信地として、熱狂的な声が世界中に響き渡っているかのような演出がなされている。またライブ中、メンバーは何度も「東京」と叫ぶ。映像演出でも東京のある場所が出てくる。

嵐にとって「東京」はキーワードだった。1999年「世界中に嵐を巻き起こす」という夢を掲げて始まった、5人のストーリー。「2020年をもって活動休止」と発表されたとき、休止前の大仕事として「2020年東京オリンピック・パラリンピック」が挙げられていた。『NHK東京2020オリンピック・パラリンピック放送』でナビゲーターも決まっていたが、新型コロナの影響により2021年に開催が延期したことで、嵐と世界が東京で結びつく瞬間は幻となった。

振り返れば2008年、初めて旧国立競技場でコンサート(『ARASHI AROUND ASIA 2008 in TOKYO』)をおこなった際、1964年の東京オリンピックをオマージュして聖火台に火を灯した。以降は、6年連続で旧国立競技場公演を実現。2010年には4日連続公演を開催するなど、旧国立競技場でもっとも多く単独公演を開いたアーティストとしてその名を刻んだ。嵐にとって「国立競技場」は特別な場所だった。そして2013年、東京でのオリンピック、パラリンピック開催が正式決定。世界を席巻するため結成され、日本を代表するアーティストになっていた嵐の見据える先のひとつには、きっと「2020年東京」があったはず。

書籍『嵐という生き方 〜1999年―2020年までのキセキ〜』(2019年/辰巳出版)では、櫻井翔が日本テレビ系で2008年北京から2018年平昌までオリンピックの司会を担当していたことから、NHKとの間で争奪戦になった裏話を挙げ、「最終的には櫻井自身が、自分はメンバーと一緒に司会をしたい、ということで『嵐』としてNHK出演が決まったのです」とのテレビ関係者の証言を記している。このエピソードからも、嵐というグループにとって「東京五輪」の存在がいかに大きかったかがうかがえる。

2020年9月にリリースされた楽曲『Whenever You Call』のミュージックビデオでも、冒頭とエンディングは東京の街を映し出している。そういう意味で東京の街の空撮場面からスタートする『ARASHI 5×20 FILM』は、嵐の世界観とマッチしている気がした。

そして『ARASHI 5×20 FILM』の冒頭シーンを観て、思い出したことがあった。堤監督の人気作『SPEC 〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』シリーズも、2010年10月放送の第1話が東京上空から街を見下ろす形で始まるのだ。

堤監督は、長瀬智也主演のドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(2000年)でも東京のストリートに生きる若者たちとそのカルチャーを活写し、映画『20世紀少年』3部作(2008年〜2009年)では万博開催などをモチーフにしながら現代東京の崩壊を描いた。映画『MY HOUSE』(2012年)は、坂口恭平の『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(2008年河出書房)を原作としている。2021年には東京の芸術都市としての魅力を伝えるプロジェクト「Tokyo Tokyo FESTIVAL」に参加し、伊豆大島という場所から東京の側面を見せる『Trinity』も制作。

堤監督は書籍『堤っ』の音楽評論家・萩原健太との対談のなかで、東京について「悩める個が有象無象として溢れているという状況も含め、とにかく東京へ行かねばっていう思いだったんです」と三重県から上京した経緯を語り、さらに「(東京には)壊れゆくものがあると思ってましたね。なにかがパワーとしてあるのではなく、パワーが分散して壊れていくものがそこにある。そこにいたいと思ったんですね」と東京に引きつけられたのだという。それから東京は、堤監督の作品にとって切り離せないものとなった。

『ARASHI 5×20 FILM』で東京がキーワードになっている理由は、嵐と堤監督の親和性の高さからきているのではないか。

大野智「5人集まっての仕事はずっとやっていきたい」

『ARASHI 5×20 FILM』を観終わって、書籍『ピカ☆☆ンチ A to Z』のなかの大野智のコメントを思い出した。

「嵐としては、こうやって5人集まっての仕事はずっとやっていきたいね。芝居でも、映画でも、うん、こんな感じでやっていきたい。ライブもどんどんやっていきたい。みんなで一緒に成長したいなって思う」

『ARASHI 5×20 FILM』で撮影されたコンサートには、5人のこれまでの歩みも分かる演出が多数ある。5人が変わったところ、まったく変わっていないところが伝わってくる。ひとつ言えることは、相葉雅紀、松本潤、二宮和也、大野智、櫻井翔、この5人が揃ったからこそ最高のグループになったのだ。

活動休止中の嵐。だけど、5人の物語の続きが早く見たい。世界中に響き渡って鳴り止まない、嵐のような歓声を聴いてそんな欲が掻き立てられた。

『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM“Record of Memories”』

2021年11月3日(水・祝)ドルビーシネマ限定先行公開

2021年11月26日(金)全国公開

配給:松竹

(C)2021 J Storm Inc.

公式サイト:『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM“Record of Memories”』

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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