深津絵里が二代目ヒロインを演じる藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の第12週では、るい(深津)の恋人「ジョー」こと大月錠一郎(オダギリジョー)の人生が描かれた。

そんな中、SNSの一部で盛り上がっていたのは、ジョーに関する少々意外な「考察」である。それは、るいと錠一郎の間に溝を生む「手紙」に関する様々な憶測だ。

錠一郎は、関西一のトランぺッターを決めるコンテストで優勝を果たす。優勝したら東京へ一緒に来てほしいと錠一郎に言われていたるいは、家族のように自分を可愛がってくれている竹村クリーニング店の平助(村田雄浩)、和子(濱田マリ)夫妻にそれを言い出せずにいたが、錠一郎が突然店に来て、「サッチモちゃん(るい)を僕に下さい」と切り出したことで、夫妻に背中を押されるかたちに。

しかし、3カ月間のレコーディングのために単身上京した錠一郎が、笹川社長(佐川満男)のもとで居候しながら準備を進める中、雲行きが怪しくなってくる。

錠一郎は、トランペットを吹けなくなってしまい、レコーディングもコンサートも延期に。その理由は、錠一郎が笹川社長の娘・奈々(佐々木希)と交際していて、それを社長が怒ったためだと噂されるが、るいは錠一郎を信じて、手紙を書き続ける。しかし、錠一郎からは、手紙も電話も一切ない。

そして、とうとうデビューの話がなくなった錠一郎は、ジャズ喫茶「ナイト&デイ」の木暮(近藤芳正)にだけ事情を話すため、大阪に戻り、るいと偶然再会。そこに錠一郎を心配して追いかけてきた奈々が登場する。るいは、奈々との噂のことを話すが、錠一郎はそれを肯定し、るいにこんな思いがけない言葉をぶつけるのだ。

「ほんまや。奈々のことが好きになった。お前とは終わりや」

多くの視聴者が憤慨したのは、「錠一郎がるいの気持ちを全く理解していない」こと。トランペットだけがるいと自分をつなぐものと思い込んでいる錠一郎は、トランペットが吹けなくなったことで、自分の存在そのものを否定し、るいへの愛情から、るいを諦めようとしたのだろう。だが、るいが惹かれたのは、「トランぺッターとしての錠一郎」ではないし、二人をつなぐものもトランペットだけではない。

「ジョー、もしかして字が読めない・書けないんじゃ?」

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート
写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

こうした思いのすれ違いについて、SNSの一部で飛び交っていたのが、「ジョーが手紙を返さないのは、実は字が読めない・書けないからではないか」という、以下のような憶測だ。

「もしかしてジョー、字が読めないんじゃ?」

「ジョーは戦災孤児で学校にも行っていなかったから、字の読み書きができないのかも」

「ジョーから手紙が来ないのは、字が読めない・書けないからでは?」

しかし、振り返ってみると、錠一郎はジャズの雑誌をるいに貸してくれていたのだから、字は当然読める。さらに、トランペットのコンテストで優勝した後には、竹村夫妻と、るい&ジョーがそれぞれ映画デートをした“モモケン”こと「桃から生まれた剣之介」のポスターの裏に、フルネームの名前とトランペットの絵とともに第一号のサインをし、それが竹村クリーニング店に飾られていた。

決して達筆ではなく、線も細いが、個性的で味のある、錠一郎らしい文字だ。このサインが公式Twitterで投稿されると、「本人の直筆ですか」といったリプが何件も来ていたが、確かにネット上で確認される本人の筆跡によく似ている。

ちなみに、おそらくこのサインの日付「1963年8月11日」は何かの伏線となり、後にどこかで回収されそうではある。

ジョーの優しさの裏にある自己肯定感の低さ

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート
写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

では、文字が読めない・書けないわけではないのに、なぜ錠一郎は返事を書かなかったのか。本人が奈々に尋ねられた際に語った「心配させたくない」が一番の理由だろうが、そこには錠一郎の自己肯定感の低さ・自信のなさが影響しているのではないか。

他者の痛みには敏感なのに、自分自身のこととなると、トランペット以外何をやっても不器用な錠一郎。るいは、母・安子(上白石萌音)との思い出により、額の傷と共に心に深い傷を負っているものの、「地味にしててもあふれる気品……ただもんではないと思ってたけど」とトミー北沢(早乙女太一)に言われていたように、雉真家で当たり前に与えられてきた環境・土台が恵まれている。また、お嬢様短大生のベリー(市川実日子)や、「恵まれた環境で育ったゆえの苦労が多い」トミーも、様々な知識・常識があるのに対し、トランペットが唯一の拠り所である錠一郎にとって、それを失うことは、命を失うに等しい痛みなのだろう。

この状況は、るいの母・安子が、事故により、るいとの二人暮らしを諦めざるを得なくなり、さらに雉真家を出て生きていくため、実家の「たちばな」再建のために貯めてきたお金を兄・算太(濱田岳)に持ち逃げされたときにも似ている。本来、一番言葉を尽くして説明すべき相手に対し、独りよがりの愛情と、失うことへの恐れから、コミュニケーションを放棄し、全て一人でしょい込んで暴走してしまうのが、余裕のなさ・自信のなさの表れなのだろう。

そんな錠一郎の喪失感を埋める鍵は、かつて暴走の末の誤解により、離れ離れになった母・安子との思い出が握っているのだろうか。いよいよ初代ヒロイン・二代目ヒロインの何らかのかたちでの邂逅が期待される展開になってきた。

(田幸和歌子)