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長野は新潟にほぼ全敗!? 仲良しすぎる長野と新潟のローカル局がコラボ&対決を続ける理由

田幸和歌子エンタメライター/編集者
画像提供:TeNYテレビ新潟  テレビ信州

民放ローカル局の強みといえば、その土地ならではの身近な情報を届けられること。身近だからこそ、視聴者側も「身内ネタ」のような感覚で楽しめること。

一方、そうしたローカルにおいて、隣県と言えば、ライバルか、なんならいがみ合う存在というイメージもある。

しかし、そうしたローカル局の「お隣さん」同士が定期的にコラボし、ときに競い合っていることを知った。テレビ信州とTeNY(テニー)テレビ新潟、両県の人気情報番組『ゆうがたGet!』『夕方ワイド新潟一番』がタッグを組む、年1回の生放送特番だ。

しかも、今年3月には『一番Get! 勝ったら看板番組いただきますSP』と題し、それぞれの番組をかけて対決したと聞いた。ジャッジするのは藤岡弘、。

なんだかカオスで濃い内容になりそうだが、両県コラボ企画は今年で8回目という。そもそもなぜそんなことに? 実は『ゆうがたGet!』は月1回リモートでお邪魔しているご縁があるため、問い合わせたところ、番組プロデューサーの高木真一郎氏とディレクターの岩下啓介氏が回答してくれた。

コラボのルーツは日テレ系列名物「情報番組責任者会議」だった

「第1回目は、2017年3月3日放送で、両番組の看板アナウンサーたちが東京ロケに行き、東京のアンテナショップなどをめぐってお互いどっちが秀でているのかを競う対決企画でした。当時では珍しい形だったんですが、日本テレビのシステムを使い、『いいね』のボタンをホームページ上に作って、それをクリックする形でどちらが良かったのか、視聴者のいいねの数で競い合うという企画でした。その他に、タレントさんにそれぞれ長野と新潟を歩いてもらい、地元の面白い人を探すVTRを出し合って、どちらが面白かったか、どちらの魅力がより大きかったかを競い合う形でスタートしたんですね」(高木氏)

毎年3月第1週目金曜日に設定し、午後6時40分から7時56分まで1時間20分ほどの番組で両県の魅力を発信。初回の対決は長野が勝利したが、以降、勝敗を決めていない回を除き、第2回、第3回、第5回、第6回、第8回と全て新潟が勝利している。

ちなみに、第4回には両県のすごい人を探し、紹介した中から、スタジオMCのナイツが”ベストオブスゴイ人”を選出。「長野のうさぎ肩乗せおじさん」が選ばれているそうだ。

勝敗においては新潟に苦杯を嘗めているわけだが、そもそもなぜ新潟とコラボを?

「実を言うと制作主導の番組じゃなく、最初はいわゆる東京の営業主導で、局をまたいだワイド(枠)を使う大きな番組ができないかということでスタートしたんですね。隣県のTeNYさんとはもともと制作も営業も仲が良かったんですけれども、情報交換という形で、当時仲良かった担当プロデューサー同士が飲みながら『ゴールデン番組やりたいね』と話をしたのがきっかけで。2つの力で1個セールスをすると、各県の人口200万人×2で、およそ400万人にリーチできるということで、大きな金額で動かすことができるんです」(高木氏)

「仲良し」になったきっかけは、実は日本テレビ系列局ならではの会議だったと言う。

「全国のワイド番組が一堂に会する『情報番組責任者会議』というのが、年間2回、1泊2日で行われるんですね。いろんなエリアの責任者が会議をしながら、飲みながら、親睦を深めていく中で、後発的に局をまたいだ番組や企画が持ち上がるんです。当初は各地でいろいろなコラボ番組が作られ、宮城と熊本が一緒に番組を作るなど、会議で仲良くなって一緒にコラボレーションしているんですよ」(高木氏)

画像提供:TeNYテレビ新潟  テレビ信州
画像提供:TeNYテレビ新潟  テレビ信州

その会議きっかけで仲良くなり、2009年10月からは偶数週水曜日に、TeNYとテレビ信州がワイド枠で「新潟信州共同企画」と題し、共同中継をスタート。幹事局を交互とし、現在まで続いている。

ちなみに、TeNYでは奇数週の水曜に、福島県とコラボを行っているそうだ。

「もともと日本テレビ系列は、『ズームイン‼』をやっていたことから、毎日全国ネットの系列で番組を作る感覚があるんですよね。そういう意味で知り合いも多いし、やり取りも多い、局をまたいだ結束力が強いというのが日本テレビ系列ならではの現象かもしれないです」(高木氏)

ところで、これまでチョコレートプラネットやチュートリアル福田、友近、空気階段など、様々な芸人が登場してきたが、第8回(3月1日放送)では先述の通り、各県のゲストによるおもてなしを藤岡弘、がジャッジするという流れだった。

「『ゆうがたGet!』も『夕方ワイド新潟一番』も共に25年以上やっている看板番組なので、番組自体をかけて、今回はバチバチの本気の対決をやろうと、2本の対決を軸に据えました」(岩下氏)

1本目は「藤岡弘、が行く!最強おもてなしツアー対決」として、両県にゆかりのある芸人(新潟:タイムマシーン3号、長野:鬼越トマホーク)がおもてなし。でも、なぜ藤岡弘、を?

「藤岡弘、さんは世界中駆け回り、俳優さんとしてご活躍されているので、モノの良し悪しがわかる、本質を見抜く力がある方だろうと。そこで、各県担当の芸人さんからおもてなしを施し、どちらにより感動したのかをフラットな目線でジャッジしてもらおうということでお願いしました」(岩下氏)

看板番組をかけているだけに、制作側に忖度しない大御所俳優を、という人選だった。

画像提供:TeNYテレビ新潟  テレビ信州
画像提供:TeNYテレビ新潟  テレビ信州

「当初の予定では、心拍数やストレスレベルなどを測定できるスマートウォッチ機能を使用し、藤岡さんに装着していただいて、おもてなしでどんどん興奮してもらい、どちらの方が高い数値が出たかで競えば、心の底からより興奮してくれた方が勝ちとしたかったんです。でも、藤岡弘、さんを含めた事前の事務所打ち合わせをしてみて、藤岡さんが大切にされている『おもてなしの心』や『情』といった部分は機械では測れないので、おもてなしの勝ち負けはご本人に決めてもらおうと思いました。実際にロケがスタートすると、藤岡さんはスマートウォッチの数値に一喜一憂、最終的にはロケに同行していた長女・天翔愛さんに『(スマートウォッチ)見過ぎだよ、やめなよ』とたしなめられていましたし、最終ジャッジはまさかの『どっちも良くて選べないよ』と(笑)。とてもチャーミングな方だと思いましたし、最終的に引き分けになりました。ちなみに、心拍数などの客観的データは、長野の方が圧勝していたんですけどね(笑)」(岩下氏)

その後、もう1つの柱「夢のコラボ!パフォーマンス対決」として、新潟、長野それぞれゆかりのある一流パフォーマーの異種同士の一夜限りのコラボパフォーマンスを生中継し、視聴者の投票により、新潟の勝利となった。

その後、『ゆうがたGet!』3月14日放送分では、『夕方ワイド新潟一番』の看板アナが乱入、クイズコーナーの司会をしたり、新潟の情報を流したり、料理コーナーに参加したりと、やりたい放題。さらに、その様子を3月21日の『夕方ワイド新潟一番』で放送。無事、「乗っ取り・乗っ取られ」の区切りがついたと言う。

画像提供:TeNYテレビ新潟  テレビ信州
画像提供:TeNYテレビ新潟  テレビ信州

「TeNYさんとはほぼ親戚だと昔からお互いに言っているので、言いづらいことはほとんどない。お互いが面白いか面白くないかの感覚も演出同士でしっかり話し合い、本音で作ることができました」と高木氏は語るが、看板番組をかけて、隣接する群馬や埼玉、富山、山梨、静岡、岐阜、愛知などと戦ってみようという思いは?

「機会があれば、隣県だけでなく、そこら中とやりたい。逆に勝負を挑みたいですよ。そういうきっかけを作るためにも仲良くしていかないといけない。系列がみんな一生懸命になって取り組んでいるのが、全国放送でバラエティ番組を出すこと。全国で商売できるような環境をローカル発で作っていくため、良質なコンテンツを作っていくことと、エリアを広げていくことは今後も取り組んでいかなければいけない課題です。これは全国に出ていくための第1歩。こうしたコラボによって、自分たちが当たり前だと思っていたこと、普段気づかないことに長野の魅力があることを再発見する機会にもなります」(高木氏)

今後、生き残りをかけたローカル局のこうしたコラボや対決がどんどん広まっていくかもしれない。

(田幸和歌子)

エンタメライター/編集者

1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌・web等で俳優・脚本家・プロデューサーなどのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。エンタメ記事は毎日2本程度執筆。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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