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「麒麟がくる」長谷川博己さんと鈴木京香さんが「事実婚」を選択か~なぜ「婚姻」ではなく「事実婚」なのか

竹内豊行政書士
長谷川博己さんと鈴木京香さんが「事実婚」という形で同居を始めると報じられました。(写真:ロイター/アフロ)

2月7日に最終回を迎えたNHK大河ドラマ『麒麟がくる』で主人公・明智光秀を演じた長谷川博己さんが、長年お付き合いしている鈴木京香さんと同居を始めるのではないかということが報じられました(長谷川博己選んだ事実婚…京香と200万円新居へ極秘引っ越し。以下引用も同じ)

ただ、長谷川さんの知人によると、次のように、婚姻届は出さず、「事実婚」を選択するようです。

「京香さんと付き合い始めたころの長谷川さんはブレークしたばかりで、“格差カップル”と言われたことも。“京香さんにふさわしい男になるまでは結婚しない”という気持ちで役者業に全力投球していたそうです。京香さんもそんな長谷川さんの気持ちを尊重して、応援し続けていました。そして、大河の主演を務めるまでの役者に。 そこで10年間寄り添い続けてくれた京香さんへのケジメとして新居での2人暮らしを決断したそうです。事実婚という形になると聞いています。5月からは京香さんが出演する朝ドラ『おかえりモネ』の放送が始まります。大河終了直後に引っ越しをしたのも、京香さんが慌ただしくなる前に少しでも一緒にいられる時間を増やすためなのだと思います」

そこで、今回は、長谷川さんと鈴木京香さんが選択するであろう「事実婚」について考えてみたいと思います。

「事実婚」とは

1980年代後半から、自分たちの意思で婚姻届を出さない共同生活を選択するカップルが社会的に広がり始めました。代表的な理由は次のようなものがあります。

・夫婦別姓の実践

・「家」意識や嫁扱いへの抵抗

・戸籍を通じて家族関係を把握・管理されることへの疑問

・婚外子差別への反対

・結婚観が民法の規定する婚姻関係に合わない  など

このような理由で当事者が主体的に婚姻届を出さないことを選択して共同生活をするカップルの関係を事実婚と称します。

一方、法律婚を希望しているが、何らかの事情があって婚姻届を出さない関係を内縁と称します。

「法律上の夫婦」ではない

民法の規定では、婚姻は、婚姻届を役所に届け出ることによって成立すると規定しています。

民法739条(婚姻の届出)

1.婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。

2.前項の届出は、当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。

したがって、事実婚を選択したカップルは、婚姻届を出さない共同生活のため、外形上は夫婦でも、「法律上の夫婦」ではありません。

そして、近代的な法制度では、家族の基礎となる婚姻を法の規制と保護の対象とし、婚姻外の関係については、「同居・協力・扶助義務」(民法752条)や「夫婦同氏」(民法750条)等の法的規制もしない代わりに法的保護もしないという立場をとります。

「事実婚」では「相続権」は発生しない

法律上の夫婦は保護されるが、事実婚を選択したパートナーには認められないことの一つに相続権があります。

婚姻関係の夫婦は、常に相続人になります。婚姻関係にあれば、婚姻関係が破綻しても互いに相続権が発生します。

民法890条(配偶者の相続権)

被相続人の配偶者は、常に相続人となる。(以下省略)

一方、事実婚を選択したパートナーは、いくら仲良く長期間同居していても、パートナーが死亡した場合、相続権は一切発生しません。つまり、法定相続分はゼロです。

「改正相続法」でも保護対象外

2018年(平成30年)7月6日に、改正相続法が成立しました。

この改正相続法によって、残された配偶者(夫が先に死亡した妻を想定)の居住権を保護することを目的に「配偶者短期居住権」「配偶者居住権」が設けられました。

また、相続の不公平感の是正を目的として、「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」として、たとえば、亡義父を介護してきた「長男の妻」などの親族が相続人に金銭を請求できる制度(特別寄与制度)が設けられました。

しかし、改正相続法においても、事実婚のパートナーは保護の対象外です。

今後の課題~「ライフスタイルの自己決定権」を保護する法律が求められる

改正相続法の審議の過程では、事実婚や同性のカップルのパートナーに対する法律上の保護の在り方については、特別の寄与の制度の申立権者にこれらの者を含めていないことが問題にされたほか、相続法以外の分野を含め、「事実婚や同性のカップルのパートナーに対する保護が不十分ではないか」という問題意識に基づく質疑も多く行われました。

この質疑に対して、衆議院および参議院法務委員会で改正相続法が可決された際に、付帯決議に、「性的マイノリティを含む様々な立場にある者が遺言の内容について事前に相談できる仕組みを構築するとともに、遺言の積極的活用により、遺言者の意思を尊重した遺産の配分が可能となるよう、遺言制度の周知に努めること。」という内容が盛り込まれました。

今後は、「ライフスタイルの自己決定権」を理由に、事実婚を積極的に選択するカップルが増えることが予測されます。

しかし、事実婚を選択した方の中には、たとえば、法律婚により「夫婦同氏」にならなければならないことを回避するために、やむを得ず事実婚を選択した方もいるでしょう。

王が仁のある政治を行う時に必ず現れるという聖なる獣が麒麟だそうです。現行の法制度によりやむを得ず事実婚を選択した方を救済する麒麟、ではなく法制度の誕生が望まれます。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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