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4月1日「相続登記の申請義務化」スタート➀ ~義務化した理由とは

竹内豊行政書士
本日、相続登記の申請義務化がスタートしました。(写真:イメージマート)

本日、令和6年4月1日から相続登記の申請義務化がスタートしました。もし、正当な理由がなく義務に違反した場合は10万円以下の過料が科せられる可能性があります。

なぜ相続登記を義務化したのか

では、なぜ相続登記を義務化したのでしょうか。その理由のひとつとして「空き家問題」があります。

所有者不明土地の発生防止

いま、全国各地で空き家が社会問題になっています。空き家は、住宅の腐朽・破損の進行、地震・豪雪などによる損壊・倒壊、不審者の侵入や放火、ゴミの不法投棄、樹木・雑草の繁茂、害虫の発生や野良猫等の集中、地域の景観への悪影響等、近隣住民にとって大迷惑です。

相続がきっかけで空き家問題へ

空き家が発生する原因の一つに相続があります。相続人間の遺産分割協議が整わないと「とりあえず法定相続分で相続しておこう」と安易に相続不動産を「共有」にすることがよく起きます。しかし、共有にしてしまうと、所有者全員の合意がないと建物の取り壊しや不動産の売却等の処分行為ができなくなります。そして、共有者が亡くなるとその人の相続人が新たに相続人に加わってくるなど雪だるま式に所有者が増えていきます。その内、相続人の中に所在が不明な者が出てくるなどして相続登記がなされていない土地、すなわち「所有者不明土地」となり、処分したくても処分できない問題物件と化して空き家となってしまうのです。

国が調査したところ、所有者不明土地は、現時点で九州本島の面積を超えています

遺言書で空き家問題を防止する

遺言書で不動産の承継者を指定しておけば、その不動産は死後に指定した者の所有財産となり、その者が住んでもよし・売却してもよし・貸してもよしといったように自由に活用できるので所有者不明土地といった“問題物件”となる危険性は回避できます。また、相続財産が円滑に相続人等に引き継がれれば、承継者が遺産を自由に消費・活用できるので経済全体の活性化にもつながります。

国も遺言の普及を後押し

このように、遺言書を残せば、自分や相続人だけではなく社会にとっても良いことが起きます。国も遺言書がある相続のメリットに着目して民法を改正して自筆証書遺言を残しやすくしました(全文自書の一部免除・平成30年1月施行)。さらに、自筆証書遺言の弱点である遺言書の紛失・逸失・毀損・汚損・改ざんを回避するために法務局が遺言書を保管できる制度を新設しました(遺言書保管法・令和2年7月施行)。

「きちんとした」遺言書を残すこと

ただしです、良いことが起きるのは法律に則った「きちんとした」遺言書を残した場合に限ります。反対に、きちんとしていない遺言書を残すと、遺言書の有効・無効や解釈をめぐる争いを起こしたり相続手続が思うように進まなくなったりして相続人等に迷惑をかけてしまいます。そうなってしまう一番の原因は、相続と遺言についての知識不足です。

空き家問題の防止のためにも、不動産をお持ちの方は、相続登記義務化を機会に遺言書を残すことを検討してみてはいかがでしょうか。

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【参考・引用】

『質問に答えるだけで完成する[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社・竹内豊 著)

「相続登記の申請義務化について」(法務省ホームページ)

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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