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「知りません」では済まされない 改正相続法 本日4月1日 全面解禁!~その「背景」と3つの「特徴」

竹内豊行政書士
本日、4月1日 「改正相続法」が全面解禁になりました。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

平成30(2018)年7月6日,民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号、以下「改正相続法」といいます)が成立しました(同年7月13日公布)。

民法のうち相続法の分野については,配偶者の法定相続分の引上げ等を行った昭和55(1980)年以来,実質的に大きな見直しはされてきませんでした。今回の相続法改正は、実に40年ぶりに行われたことになります。

今回の改正は、平成31(2019)年1月13日に施行された「自筆証書遺言の方式を緩和する方策」を皮切りに、原則的に、令和元年(2019)年7月1日に施行されました。そして、本日令和2(2020)年4月1日に「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」が施行されることで、ここに全面施行となりました。

今回は、改正相続法の全体像を把握するために、その背景と特徴をみてみたいと思います。

改正相続法の背景

進む少子高齢化

高齢化が進む一方で、出生数は、昭和55(1980)年当時は約158万人であったのが、平成29(2017)年には約95万人にまで減少し、合計特殊出生率(=1人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数に相当する)も、昭和55(1980)年当時は1.75であったのが、平成29(2017年)には、1.43に低下するなど、少子化が進んでいます。

「残された妻」の保護の必要性が高まる

このため、相続開始時における配偶者(=多くの場合、夫に先立たれた妻)の年齢も相対的に高くなって、その生活保護を図る必要性が高まっています。その一方、子については経済的に独立している場合も多く、また、少子化により相続人である子の人数が相対的に減ることから、遺産分割における一人の子の取得割合も相対的に増加する傾向にあります。

このように、配偶者と子が相続人になる場合を想定すると、配偶者の保護を図るべき必要性が相対的に高まっていると考えられ、このような社会経済情勢の変化に対応する観点から、相続法制を見直す必要があるとの指摘がされてきました。

改正法の3つの特徴

改正法には以下の3つの特徴を挙げることができます。

1「配偶者保護」の方策が複数含まれている

1つ目は、配偶者保護のための方策が複数含まれている点です。前述のとおり、少子高齢化の進展に伴い、配偶者と子を相対的に比較すると、配偶者の保護の必要性がより高まっていること、特に高齢の配偶者にとってはその居住権の保護を図ることが重要であること等を踏まえ、配偶者居住権配偶者短期居住権という新たな権利を設けたほか、被相続人が配偶者に対して居住用不動産の遺贈や生前贈与をした場合に、いわゆる持戻し免除の意思表示があったものと法律上推定する規定を設けるなどしています。

2「遺言」の活用を促進する方策が多数含まれている

2つ目は、遺言の活用を促進する方策が多数含まれている点です。

改正法においては、自筆証書遺言の方式を緩和する方策を設けたほか、遺言の円滑な実現を図るために遺言執行者の権限を明確化しました。これらは、いずれも遺言の利用を促進するための方策となるものです(自筆証書遺言の作成の注意点は、「知りません」では済まされない 改正相続法 4月1日 全面解禁!~「遺言作成」この「3つ」に注意!をご参照ください)。

なお、遺言の利用促進を加速させる方策として、今年7月1日に、遺言書保管法が施行されます。このことにより、現状は自己責任で保管しなければならない自筆証書遺言を法務局(=遺言書保管所)で保管できるようになります。

3 利害関係人の「実質的公平」を図るための見直しがされた

相続人以外の親族が被相続人(=死亡した人)に対する介護等の貢献を行った場合には、遺産の分配に与れないという不公平が生ずることを是正しました。この見直しにより、義理の父親の介護をした長男の嫁等が、相続人に対して、一定の条件を満たせば、金銭(=特別寄与料)を請求することができるようになり、実質的に遺産の配分を受けることが可能になりました。このことにより、国民の権利意識の変化等を踏まえた見直しの実現が期待できます。

改正相続法に残された「課題」と「期待」

現代社会において家族の在り方が多様に変化してきています。今回の改正相続法では、たとえば、性的マイノリティや事実婚などを含む方々への具体的な方策は取られていません。様々な家族の在り方を尊重し、柔軟に対応できる相続法が今後の課題の一つといえるでしょう。

また、期待できる一つとして、自筆証書遺言の方式緩和による遺言の普及があります。遺言による遺産をめぐる紛争防止により、相続人間の遺産分割の紛糾が原因となる空き家問題や金融機関の遺産の長期間にわたる“預金の凍結”の減少をもたらし、ひいては経済活性化の実現をもたらすことが期待されます。

この世に生きるだれひとりとして、相続から逃れられる人はいません。したがって、今回の改正相続法を「知りません」では済まされない場面が必ず起きるのです。人生をよりよく生きるためにも、改正相続法を正しく理解してご活用ください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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