Yahoo!ニュース

令和2年4月1日、相続がガラッと変わる!~改正相続法いよいよ本格スタート

竹内豊行政書士
令和2年4月1日に改正相続法が本格的にスタートします。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

平成30年(2018年)7月6日に、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(以下「改正相続法」といいます)が成立して、同年7月13日に公布されました。

民法のうち相続法の分野については、配偶者の相続分の引き上げ等がされた昭和55年(1980年)以来、40年の間ほとんど実質的な見直しはされていませんでした。

しかし、40年前の相続法改正以降、社会の高齢化が加速し、相続開始時における配偶者(主に夫に先立たれた妻)の年齢も相対的に高齢化しているため、その保護の必要性が高まっていました。

今回の相続法の見直しは、このような社会経済情勢の変化に対応するものであり、残された配偶者の生活に配慮する等の観点から、配偶者の居住の権利を保護するための方策等が盛り込まれています。このほかにも,遺言の利用を促進し,相続をめぐる紛争を防止する等の観点から、自筆証書遺言の方式を緩和するなど、多岐にわたる改正項目が盛り込まれています。

この改正相続法は、令和元年1月13日から順次施行されて、今年令和2年4月1日の配偶者の居住を保護するための方策の施行によって本格的にスタートします。

そこで、今回は、今まで(令和元年)に何が変わったのか、そして、今年令和2年はどのように変わるのか、それぞれのポイントを見てみたいと思います。

令和元年(2019年)に変わったこと

自筆証書遺言の作成方法(令和元年1月13日)

今まで、全文の自書(自分で書くこと)を要求していた自筆証書遺言の方式を緩和して、自筆証書遺言に添付する財産目録については自書でなくてもよいものとしました。ただし、財産目録の各頁に署名押印することが必要なので、注意してください。

なお、令和2年7月10日に遺言書保管法が施行れ、法務局で自筆証書遺言を預かる制度がスタートします。この制度について詳しくは、えっ!法務局に遺言書を預けることができるの!?~令和2年7月、遺言書保管法いよいよスタートをご覧ください。

令和元年(2019年)7月1日に変わったこと

配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)

婚姻期間が20年以上である夫婦の一方配偶者が、他方配偶者に対し、その居住用建物またはその敷地(「居住用不動産」といいます)を遺贈または贈与した場合については、遺産分割においては、原則として当該居住用不動産の持戻し計算を不要といました。このことで、当該居住用不動産の価額を特別受益として扱わずに計算をすることができるようになり、改正前に比べて残された配偶者はより多くの遺産を承継することができるようになりました。

遺産分割前の払戻し制度の創設等

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、各口座ごとに以下の計算式で求められる額(ただし、同一の 金融機関に対する権利行使は150万円を限度とします)までについては、他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができるようになりました。このことにより、従来は遺産分割が成立するまでは口座が凍結されてしまった被相続人の預貯金の一部を、葬儀費用等の火急の出費に充てることができるようになりました。

【計算式】

単独で払戻しをすることができる額=(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)

相続人以外の者の貢献を考慮するための方策

相続人以外の被相続人の親族(長男の妻など)が、無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、一定の要件の下で、相続人に対して金銭請求をすることができるようになりました。

この方策により、改正前では、相続人以外の親族が被相続人の療養看護をした場合にこれに十分に報いることが困難でしたが、相続法改正により、実質的公平が図れるようになりました。

令和2年(2020年)4月1日から変わること

高齢化社会において、住居の問題は切実です。そこで、残された配偶者の居住権を保護するために、遺産分割が終了するまでの間といった比較的短期間に限りこれを保護する方策(配偶者短期居住権)と、配偶者がある程度長期間その居住建物を使用することができるようにするための方策(配偶者居住権)の二つの方策が、今年令和2年4月1日から施行されます。この二つの方策は、今回の相続法改正の最大のポイントといえます。それぞれのおもな内容は次のとおりです。

配偶者短期居住権

配偶者は、相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には、遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間または相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間、引き続き無償でその建物を使用することができるようになります。

配偶者居住権

配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物を対象として、終身または一定期間、配偶者にその使用又は収益を認めることを内容とする法定の権利(配偶者居住権)を新設しました。

配偶者は、遺産分割における選択肢の一つとして、配偶者居住権を取得することができるようになります。

そのほか、被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることもできるようになります。

今回の改正相続法は、従来の相続の形を大きく変えることになります。ぜひ、改正相続法を円満な相続の実現のために活用してください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事