えっ!法務局に遺言書を預けることができるの!?~令和2年7月、遺言書保管法いよいよスタート

令和2年7月10日に「遺言書保管法」がスタートします。(写真:アフロ)

平成30年(2018年)7月6日、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下「遺言書保管法」といいます)が成立しました。

この法律は、高齢化の進展等の社会情勢の変化を鑑みて、相続をめぐる紛争を防止するという観点から、法務局において自筆証書遺言を保管できる制度を設けるものです。

そして、 この遺言書保管法が、いよいよ今年、令和2年7月10日に施行されます。

そこで、遺言書保管法の施行によって、相続がどのように変わるのか、また、遺言書を保管するにはどうしたらよいのかを見てみることにします。

今まで~「自己責任」で保管しなければならなかった

遺言の効力は、遺言を残した人(=遺言者)が亡くなったその時から発生します(民法985条1項)

民法985条(遺言の効力の発生時期)

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

一般的に、遺言書を残してから死亡するまでは、特別な事情がある場合を除いて、一定期間を要します。その間、遺言者は、自己の負担と責任において、自筆証書遺言(自分で書いた遺言書)を保管しなければなりませんでした。そのため、せっかく残した遺言書を紛失してしまうなど、次のようなリスクが伴いました。

・相続人によって遺言書が隠匿・変造されてしまう。

・相続人が遺言書の存在を把握することができないまま遺産分割協議が終了してしまう。

・遺産分割協議が終了した後に、遺言書が発見されて遺産分割協議が無駄になってしまう。

・一部の相続人が遺言書の無効を主張して深刻な紛争が生じてしまう。

そこで、このようなリスクを回避して、遺言者の死亡後に、より確実に遺言の内容を実現できるようにするために、平成30年7月の相続法改正に伴い、遺言書保管法が制定されました。

こう変わる~法務局(遺言書保管所)で保管できるようになる

遺言書保管法によって、次のように、自筆証書遺言を確実に保管し、相続人がその存在を把握することができる仕組みが設けられました。

法務局(遺言書保管所)に保管できるようになる

自筆証書遺言を作成した者(=遺言者)が、公的機関である法務局に遺言書の原本を委ねることができるようになります。

保管機関

自筆証書遺言を保管できる機関(「遺言書保管所」といいます)は、次の1または2の法務局です(遺言書保管法4条3項)。

1遺言者の住所地もしくは本籍地 

2遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局 

保管を申請できる人

保管を申請することができるのは、民法968条の自筆証書遺言を作成した遺言者本人のみです。また、保管の申請は、遺言者が遺言書保管所に自ら出頭して行わなければなりません(遺言書保管法4条1項、6項)。 そして、遺言書保管官(遺言書保所に勤務する法務事務官のうちから、法務局または地方法務局の長が指定する者)によって、氏名その他の本人確認が行われます(遺言書保管法5条)。

遺言書の保管方法

遺言書の保管は、遺言書保管官がその原本を遺言書保管所の施設内において保管するとともに(遺言書保管法6条1項)、その遺言書に係る情報を磁気デスク等に画像処理化して管理します(遺言書保管法7条2項)。

遺言者生存中の遺言書の閲覧

遺言者は、遺言書を保管している法務局に対し、いつでも、遺言書の閲覧を請求することができます(遺言書保管法6条2項)。なお、遺言書の閲覧請求については、遺言書の保管の請求と同様に、遺言者が遺言書保管所に自ら出頭して行わなければなりません(遺言書保管法6条4項)

遺言書の返還・画像情報等請求

遺言者は、遺言書を保管している法務局に対し、いつでも、遺言書の返還と画像情報等の消去を請求することができます(遺言書保管法8条1項)。なお、この請求は、遺言者自らが法務局に出頭して行わなければなりません(遺言書保管法8条3項)。

閲覧請求権

死亡した者の相続人、遺言書で受遺者と記載された者、遺言書で遺言執行者と指定された者等は、遺言書保管官に対し、その遺言書の閲覧を請求することができます。ただし、閲覧請求は、遺言者の死後に限定されています(遺言書保管法9条3項)。

検認を免除される

自筆証書遺言の保管制度により保管されている自筆証書遺言書については、検認(注)の規定(民法1004条1項)の規定は適用されません(遺言書保管法11条)

1004条1項(遺言書の検認)

遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。

この規定は、遺言書が遺言書保管官によって厳重に保管され、その情報も管理されることから、保管開始以降、偽造、変造等のおそれがなく、保存が確実であることから設けられました。

通常、検認は1か月~2か月程度かかります。また、検認をしないと遺言執行(不動産の名義変更や預貯金の払戻し等)ができません。この検認免除の規定により、速やかな遺言の執行が期待できます。

(注)検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状・加除訂正の状態・日付・署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にすることで遺言書の偽造・変造を防止するための手続。このように検認は証拠保全の手続であって遺言の有効・無効を判断する手続ではない。

ここに注意!遺言書の保管制度

自筆証書遺言の保管制度の注意点をご紹介します。

内容は自己責任

遺言書の保管が申請された際には、法務局の遺言書保管官は、当該遺言が法律が定める方式(民法968条)への適応性について、日付および遺言者の氏名の記載、押印の有無、本文部分が手書きで書かれているか否か等、外形的な確認をします(遺言書保管法4条)。しかし、内容までは審査しません。

したがいまして、内容については今までと同様、自己責任となります。 

遺言の撤回は保障されている

遺言者は、自筆証書遺言の保管制度を利用しても、遺言の撤回(将来に向けて無効にすること)は保障されています(民法1022条)

民法1022条(遺言の撤回)

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

つまり、遺言書保管所に自筆証書遺言を保管申請しても、従来と同様に遺言を新たに作成することができます。

遺言者の死後に保管の事実は通知されない

遺言書保管所に遺言書を保管した遺言者が死亡しても、その相続人、受遺者、遺言執行者等の関係者に、遺言書保管官から、遺言書を保管している事実の通知が来ることはありません。したがいまして、遺言書保管所に遺言書を保管した際は、保管した事実を、相続人等に生前に伝えておく必要があります。

施行は令和2年年7月10日

冒頭でお伝えしたとおり、遺言書保管法は2020年7月10日に施行されます。その日以前に法務局に自筆証書遺言を持ち込んでも法務局は受け取りません。したがって、施行日までは従来通り、自己責任で保管するしかありません。

この遺言書保管法によって、自筆証書遺言の弱点がカバーされることになります。遺言書を残そうと思っても先延ばしにしてしまっている方は大勢いらっしゃると思います。遺言書保管法の施行をきっかけに、令和2年に遺言書を残してみてはいかがでしょうか。