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相続がガラッと変わる!~令和元年7月1日、改正相続法いよいよ本格スタート

竹内豊行政書士
改正相続法がいよいよ来月7月1日スタートします。(写真:アフロ)

平成30(2018)年7月6日に、改正相続法(「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」)が成立し、同年7月13日に公布(=成立した法律を国民に周知させる目的で、当該法律を公示する行為)されました。

今回の相続法の改正は、配偶者の法定相続分の引上げ等がされた昭和55(1980)年以来、実に約40年振りです。

さて、相続法が改正された背景は、次の2点です。

1.高齢化がすすみ、配偶者に先立たれた高齢者(夫に先立たれた妻を想定)に対する生活に配慮が必要になった。

2.相続をめぐる紛争防止のために、遺言書の利用促進などの必要性が高まった。

そして、いよいよ来月令和元(2019)年7月1日に、改正相続法が本格的に施行※されます。

法律は、「公布」されても、それだけでは法規範としての効力が発動されません。法律が「施行」されることにより、その規定の効力が現実に一般的に発動し、作用することになります。

先ほど、「本格的に施行」と書きましたが、それには理由があります。実は、改正相続法の中で、既に施行されているものがあります。

また、反対に来年7月1日以降にスタートするものもあります。

以下に施行日ごとに分けて改正相続法をご紹介します。いざという時に慌てないようにぜひご一読ください。

なぜ公布後ただちに施行しなかったのか

相続法改正の背景を考えれば、公布後早期に施行されるべきです。しかし他方、ここ数年相続に関する紛争が増加していることや、相続が国民生活に大きく影響する問題であることから、法改正の内容を国民に十分周知してから施行しないと、社会に混乱を生じさせてしまうおそれがありました

このようなことを考慮して、改正法では、その原則的な施行日については、「公布の日(平成30[2018]年7月13日)から起算して1年を越えない範囲において政令で定める日」としたのです(附則1条本文)。そして、以下のとおり、3段階に分けて施行されることになりました。

1.平成31(2019)年1月13日に既に施行されているもの

改正相続法の中には、既にスタートしているものもあります。

自筆証書遺言の方式緩和・保管制度の創設

自筆証書遺言は、添付する財産目録も含め、全文を自書して作成する必要がありました(つまり、自分で全て書かなければならない)。その負担を軽減するために、全文を自書する要件を緩和して、自筆証書遺言に添付する「財産目録」については自書を要しないとしました。具体的には、次のような方法で遺言書が作成できるようになりました。

・パソコン等で作成した目録を添付する

・銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書等を目録として添付する

この場合においては、財産目録の各頁に署名・押印をしなければならないので、偽造も防止できます。

★遺言書の作成について詳しくは、この遺言書は無効です!~改正相続法の落とし穴をご覧ください。

加えて、法務局における遺言書の保管等に関する法律(=遺言書保管法)により、公的機関である法務局で遺言書を保管する制度を設けました。これにより、遺言書の紛失・隠匿や真贋を巡る争い等を防止することができます。また、相続人等は遺言者の死亡後に法務局に対し遺言書の有無の照会及び遺言書の写し等の請求をすることが可能になります。しかも、保管された遺言書の検認※は不要としました。

※検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状・加除訂正の状態・日付・署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にすることで遺言書の偽造・変造を防止するための手続。このように検認は証拠保全の手続であって遺言の有効・無効を判断する手続ではない。

なお、遺言書保管法の施行日は令和2(2020)年7月10日です。それ以前に法務局に遺言書を提出しても保管してもらえません。ご注意ください。

2.令和元(2019)年7月1日に施行されるもの

持戻し免除の意思表示の推定規定

民法上、相続人に対して遺贈または贈与が行われた場合には、原則として、その贈与を受けた財産も遺産に組み戻した上で相続分を計算し(持戻し)、また、遺贈または贈与を受けた分を差し引いて遺産を分割する際の取得分を定めることとされています。

このため、被相続人(=亡くなった方)が生前、配偶者に対して居住の用に供する建物またはその敷地(居住用不動産)の贈与をした場合でも、その居住用不動産は遺産の先渡しがされたものとして取り扱われ、配偶者が遺産分割において受け取ることができる財産の総額がその分減らされていました。その結果、被相続人が「自分の死後に配偶者が生活に困らないように」との趣旨で生前贈与をしても、原則として配偶者が受け取る財産の総額は、結果的に生前贈与をしないときと変わりませんでした。

そこで、結婚期間が20年以上の夫婦間で、配偶者に対して居住用不動産の遺贈または贈与がされた場合には、「遺産分割において持戻し計算をしなくてよい」という旨の被相続人の意思表示があったものと推定して、原則として、遺産分割における計算上、「遺産の先渡しがされたものとして取り扱う必要がない」こととしました。これにより、配偶者が遺産分割においてより多くの財産を取得することができるようになります。

遺産分割前の払戻し制度の創設等

相続された貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれるため共同相続人による単独の払戻しができません(いわゆる「口座凍結」)。そうなると、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金需要がある場合にも、遺産分割が終了するまでの間は、被相続人の預貯金の払戻しができなくなってしまいます。

そこで、各共同相続人は、金融機関の窓口において、自身が被相続人の相続人であること、そして、その相続分の割合を示した上で、遺産に属する預貯金債権のうち、口座ごとに次の計算式で求められる額までについては、家庭裁判所の判断を経ないで、なおかつ他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しができることとしました。

【計算式】

単独で払戻しをすることができる額=(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)

※ただし、同一の金融機関に対する権利行使は、法務省令で定める額(150万円)を限度とします。

遺留分制度に関する見直し

遺留分制度とは、一定範囲の相続人に対して、被相続人の財産の一定割合について相続権を保障する制度です。被相続人がこの割合を超えて生前贈与や遺贈(=遺言によって無償で財産的利益を他人に与える行為)をした場合には、これらの相続人は、侵害された部分を取り戻すことができます。この権利を遺留分減殺請求権といいます。

遺留分減殺請求権を行使すると、遺留分権者と遺贈等を受けた者との間で複雑な共有※の状態が発生し、事業承継等の障害が発生する場合があります。

※共有とは、数人がそれぞれ共同所有の割合としての持分を有して一つの物を所有すること。共有状態になると単独で共有物の変更(処分を含む)・管理(賃貸借契約の設定や解除等)ができなくなる。

そこで、遺留分減殺請求権から生ずる権利を金銭債権化し、遺留分減殺請求権の行使により共有関係が当然に発生することを回避できるようにしました。また、このことにより、「遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたい」という遺言者の意思を尊重することもできます。

もっとも、その請求を受けた者が金銭を直ちには準備できないということもあります。そこで、受遺者(=遺贈により利益を得る者)等は、裁判所に対し、金銭債務の全部または一部の支払につき、期限の許可を求めることができるようにしました。

相続人以外の貢献を考慮するための方策

被相続人を療養看護等する者がいたという場合に、その者が相続人であれば寄与分等による調整が可能です。

一方、その者が相続人ではないというときには、相続財産から何らの分配も受けることはできません。このような結果は、被相続人の療養看護等を全くしなかった相続人が相続財産から分配を受けることと比較して不公平ではないかという指摘がされてきました。

そこで、例えば長男の妻のような相続人以外の親族(=6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族)が無償で被相続人に対する療養看護その他の労務の提供により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合には、相続人に対して金銭の支払いを請求できることとしました。

3.令和2(2020)年4月1日に施行されるもの

配偶者の居住権を保護する権利の創設

配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に無償で居住していた場合に、その居住していた建物(=居住建物)に遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間、引き続き無償で居住建物に住み続ける権利を創設しました。この権利のことを、配偶者短期居住権といいます。

また、遺産分割における選択肢の一つとして、配偶者に相続開始時に居住建物を対象として、所有権とは別に、終身または一定期間、その使用収益を認める権利を創設しました。この権利のことを、配偶者居住権といいます。

配偶者居住権は、権利を取得した配偶者が居住建物に住み続けることができる権利ですが、完全な所有権とは異なり、譲渡することや自由に増改築や第三者に貸したりすることができない分、評価額は所有権より低く抑えることができます。このため、配偶者はこれまで住んでいた自宅に住み続けながら、預貯金等の他の遺産も取得できるようになり、老後の生活の安定を図ることができるようになります。なお、被相続人は遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることもできます。

改正前に開始した相続はどうなるのか

相続は、その人の死亡によって開始します(民法882条)。

では、改正法が施行する前に相続が開始、すなわち死亡した場合は、改正法は適用されるのでしょうか。それとも旧法が適用されるのでしょうか。

改正法では、原則として、施行日前に開始した相続については、改正前の法律を適用することとしています(附則2条)。このことを「旧法主義」といいます。

具体的には、施行日前に死亡した者の相続については、施行日前に遺産分割が終了したものはもちろんのこと、施行日までに遺産分割が終了していないものも、改正前の法律が適用されることになります。

その理由は、施行日前に開始した相続についても改正法の規定を適用することにしてしまうと、相続により一旦発生した法律効果が改正法の施行により変更されることになってしまい、法的安定性を害することになること等を考慮したためです。

この世に生まれたからには、相続から逃れることはできません。いつかは経験する相続です。相続法がガラッと変わるこの機会に、きちんと相続を理解してみてはいかがでしょうか。相続を正しく理解することが、納得いく相続・もめない相続を実現する第一歩になります。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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