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40年ぶりに「相続」がガラッと変わる!?〈その2〉~遺言のルール

竹内豊行政書士
遺言のルールがガラッと変わるかもしれません。(写真:アフロ)

相続に関する民法改正案が6月6日、衆院法務委員会で審議入りしました。

今国会で成立すれば、配偶者の法定相続分の引き上げ等を行った「昭和55年(1980年)改正」以来の約40年ぶりの大幅な制度見直しとなります。

改正案の柱は前回ご案内した、たとえば夫に先立たれた妻のような「残された配偶者の保護の強化」です。

改正案には、その他にも「自筆証書遺言を巡るトラブル防止策」「相続の不公平感の是正」「金融機関の仮払制度の創設」「不動産登記の義務化」の4つが盛り込まれています。

今回は、「自筆証書遺言を巡るトラブル防止策」に焦点を当てて見てみましょう。

自筆証書遺言を巡るトラブル防止策

終活の一環として自筆証書遺言(自分で書く遺言)を残す人が増えています。

自筆証書遺言は自分一人で手軽に作成できるというメリットがあります。

しかし、誤字・脱字や死亡後に発見されずに遺産が分けられてしまうなどの危険性が付き物です。そのため、自筆証書遺言が原因で相続が「争族」になってしまうケースもままあります。

さらに、自筆証書遺言は、遺言者死亡後に遺言を執行する前に「検認」をしなければなりません。そのため、遺言執行に手間と時間を要していました。

そこで、改正案では以上の危険性や不便を解消するために次の制度を設けています。

1.全文自書を緩和する~パソコンでの作成を「財産目録」に限り可能にする

現行では、自筆証書遺言は「全文を自書する」ことが成立要件とされています(民法968条)。

968条(自筆証書遺言)

1.自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2.自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

そのため、遺言者(遺言を作成する人)、特に高齢者や病気の方へ心身共に負担をかけていました。

また、誤字等によるトラブルも起きていました。たとえば、土地の所在を「2丁目」と書くところを「1丁目」と書いてしまうと「全く別の不動産」とみなされて遺言の執行ができないかもしくは困難になってしまいます。

そこで改正案では、財産の一覧を示す「財産目録」に限りパソコンでの作成を可能にするとしています。負担軽減による遺言の普及とトラブル防止が期待できます。

2.法務局での保管制度

自筆証書遺言を法務局で保管できる制度です。

自筆証書遺言は遺言書の存在が相続から何年も経過した後に発見されて遺産分割協議がやり直しになったり、発見した者が変造したり破棄してしまって遺言が執行されない「危険」が付き物です。

そこで、このような危険を回避するために、公的機関である全国の法務局で保管できるようにします。

そして、遺言者が死亡後に、相続人が遺言の有無を調べられる制度を導入しようとするものです。

3.検認制度の不要

現行では、自筆証書遺言は遺言者の死後、家庭裁判所に「検認」を申し立てて、家庭裁判所から「検認済証明書」が発行されなければ遺言の執行ができません(民法1004条)。

1004条(遺言書の検認)

1.遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。

2.前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。

3.封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。

ちなみに、勝手に遺言を開封したりすると「過料」に処せられることもあります。注意しましょう。

1005条(過料)

前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処する。

検認の申立てをするには手間がかかります。通常手続きを開始してから完了するまで1か月から2か月を要します。

そこで、自筆証書遺言を法務局に預けた場合は、「検認」の手続を不要にするというものです。

この制度の実現で速やかな相続手続が期待できます。

以上の改正案が成立すると、次のことが期待できます。

・全文自書の緩和による「遺言の普及」

・法務局での保管による自筆証書遺言の「危険性」の回避

・検認不要による「速やかな遺言執行」

ただし、自筆証書遺言が遺言者のみで作成できることには変わりはありません。つまり、「密室」で残せるのです。

改正案が成立しても「法律が求める要件を満たすこと」が法的成立要件であることをくれぐれもお忘れなく!

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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