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40年振りに「相続」がガラッと変わる!?〈その1〉~残された妻の保護強化へ

竹内豊行政書士
「残された妻の保護強化」を柱とした民法改正案が審議入りしました。(写真:アフロ)

相続に関する民法改正案が6月6日、衆院法務委員会で審議入りしました。

今国会で成立すれば、配偶者の法定相続分の引き上げ等を行った「昭和55年(1980年)改正」以来の約40年ぶりの大幅な制度見直しとなります。

上川陽子法務大臣は、法務委員会の提案理由の説明で、「高齢化の進展などの社会情勢の変化にかんがみ、残された配偶者の生活への配慮という観点からの法改正だ」(6月7日、読売新聞)として「速やかに可決頂きたい」(同日、日本経済新聞)と述べました。

改正案の柱は、たとえば夫に先立たれた妻のような「残された配偶者の保護の強化」です。

今回は、改正案を「残された配偶者保護」に焦点を当てて見てみましょう。

残された配偶者がそれまでの住居に住み続けられる制度の新設

高齢化社会の現在、残された配偶者(夫または妻)が長生きするケースが増加しています。また、親と同居しない子どもも増えています。

現行法では、相続人は、相続開始の時から、原則として被相続人(亡くなった人)の一切の財産を引き継ぎます(民法896条)。

896条(相続の一般的効力)

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

896条により居住用の土地・建物は遺産分割の対象になります。そのため、自宅以外にめぼしい財産がなければ、死亡した夫が所有していた建物に同居していた妻が、遺産分割のために自宅を売却して住み続けることができなくなるケースがありました。

改正案では、長年連れ添った夫に先立たれた妻を念頭に「遺産分割における配偶者保護」として次の制度を設けています。

1.配偶者短期居住権

配偶者が遺産分割の対象の建物に住んでいる場合、遺産分割が終了するまでは無償で住めるようにする権利。

2.配偶者居住権

住宅の権利を「所有権」と「居住権」に分割する。配偶者は居住権を取得すれば、所有権が別の相続人や第三者に渡っても自宅に住み続けることができる(居住権のみの相続も可)。

居住期間は遺言や遺産分割の協議で決められる。なお、居住権は施設に入所するなどしても、譲渡や売買はできない。

居住権は、所有権と比べて評価額が低くなるため、居住権を選択した妻は、遺産の取り分(法定相続分)を超えるおそれが減る。

3.住居の遺産分割の対象からの除外(被相続人の意思表示推定規定)

結婚20年以上の夫婦なら、配偶者が生前贈与や遺言で譲り受けた住居は「遺産とみなさない」という意思表示があったとして、遺産分割の対象から除外する。

その結果、実質的に預貯金など他の遺産の配偶者の取り分が増えることになる。

以上の「残された配偶者保護策」の法案が成立すると、残された配偶者の住居に関する権限が現状と比べて大幅に強化されます。

それに伴って、次のような影響が発生することが予想されます。

選択肢が増えることによる遺産分割協議の複雑化

遺言の重要度が高まる

改正案には、今回ご紹介した「残された配偶者の保護の強化」の他、「自筆証書遺言を巡るトラブル防止策」「相続の不公平感の是正」「金融機関の仮払制度の創設」「不動産登記の義務化」の4つが盛り込まれています。

いずれも、相続に与える影響は強いものばかりです。きちんと押さえておかないと不利益を被ることもあり得ます。

また、回を改めて見てみたいと思います。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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