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愛知の用水での大規模漏水、現場で見えた異常な川の姿【5/20追記あり】

関口威人ジャーナリスト
漏水が発生した愛知県豊田市の明治用水水頭首工(2022年5月19日、筆者撮影)

 大規模な漏水が発生した愛知県豊田市の「明治用水頭首工」。各地で河川の取材はそれなりにしてきたが、「川の底が抜けた」という状況は恥ずかしながらまったく想像できなかった。やはり現地を確認せねばと19日午前に訪れ、見聞きした状況をお伝えする。

普段は見えない川底がむき出しに

 まず、おおもとの水は長野県の下伊那郡を源流とする「矢作川(やはぎがわ)」の流れだ。地元の人によれば普段は流量も豊富で、下の写真の位置からは水がなみなみと貯まっているように見えるはず。それが今回、数日で水がみるみる減り、一部で川底の土がむき出しになってしまった。

漏水が発生した現場である矢作川。普段は水面下にある川底の土が一部でむき出しになっている(2022年5月19日、筆者撮影)
漏水が発生した現場である矢作川。普段は水面下にある川底の土が一部でむき出しになっている(2022年5月19日、筆者撮影)

 写真で人が歩いている辺りは普段、川の下だという。「石積みの堤防の下半分が白くなっているところが、普段の水の高さ」だと地元の人が指をさした。

地元の人によれば、奥の堤防の下半分が白くなっているところが普段の水面の位置だという。手前の砂地は普段は川の下なので歩けない(2022年5月19日、筆者撮影)
地元の人によれば、奥の堤防の下半分が白くなっているところが普段の水面の位置だという。手前の砂地は普段は川の下なので歩けない(2022年5月19日、筆者撮影)

 その矢作川を堰き止め、農工業に利用するために造った人工の川が「明治用水」。そのための取水施設を「頭首工」と呼ぶ。

 今回、普段は水を引き入れる取水口より水位が下がってしまった。しかし、矢作川の水自体は上流から流れてくるため、何本もの仮設ポンプを使って水を汲み上げ、明治用水に流す作業が懸命に行われている。

取水口より水位が下がってしまったため、何本もの仮設ポンプを使って水を汲み上げ、明治用水に流す作業が行われている(2022年5月19日、筆者撮影)
取水口より水位が下がってしまったため、何本もの仮設ポンプを使って水を汲み上げ、明治用水に流す作業が行われている(2022年5月19日、筆者撮影)

 ちなみに現在の明治用水頭首工は1958(昭和33)年に完成したコンクリート製だが、それ以前の石積みの「旧頭首工」も数百メートル上流に残されている。

 これも普段は表面が見えるか見えないかだというが、今回は下の石積みまではっきり見える。「こんなこと今までなかったわ」と、川沿いをよくウォーキングしているという女性が教えてくれた。

明治時代に造られた「旧頭首工」。普段は見えないという石積みがはっきり見えていた(2022年5月19日、筆者撮影)
明治時代に造られた「旧頭首工」。普段は見えないという石積みがはっきり見えていた(2022年5月19日、筆者撮影)

 この周辺で何が起こったのか。原因はまだ特定できないが、現象としてはほぼ分かってきた。頭首工の堰を支える基盤に穴や亀裂ができるなどして、そこから「水が抜け」、堰の下を通って下流側で水が噴き出しているらしいのだ。

一つの「穴」から大小の渦が巻く状態に

 上流側の「穴(漏水)」は当初、比較的小さいものだったが、今月16日ごろから拡大し、17日には取水量が大幅に減少したと、施設を管理する東海農政局は説明している。

 19日現在、現場付近は大小の渦が絶え間なくでき、どれが最初の「穴」かは分からない。基盤のコンクリートが大きく陥没しているような状態なのかもしれない。しかし、上流からはその穴の辺りをめがけて水が勢いよく流れ込んでくるので、川底の状態を見るのは難しそうだ。

【追記】

東海農政局の小林勝利局長は20日の記者会見で、コンクリート自体の損傷について「可能性としてはあるのかもしれないが、確たるものは把握していない」と述べた。最初の穴はコンクリートの基礎の端辺りで開いたとみられているが、川底の土砂だけが落ち込んでいるのかなどを含めて現時点ではすべて調査中で、漏水を止める工法の検討もめどが立っていないという。

頭首工の上流側で見られた渦。ただし当初の渦はもっと離れた位置で目撃されている。今は大小の渦が広範囲にできている状態で、この下に穴が開いているとは限らない(2022年5月19日、筆者撮影)
頭首工の上流側で見られた渦。ただし当初の渦はもっと離れた位置で目撃されている。今は大小の渦が広範囲にできている状態で、この下に穴が開いているとは限らない(2022年5月19日、筆者撮影)

 実際の状況は動画を見ていただきたい。

 この日は農政局の職員に加えて国交省の職員や「コンクリート」の専門家も現地を調査していた。しかし、漏水を止める有効な手立てはまだ見いだせていないようだった。

水が噴き出す下流側を調査する国交省の職員やコンクリートの専門家(2022年5月19日、筆者撮影)
水が噴き出す下流側を調査する国交省の職員やコンクリートの専門家(2022年5月19日、筆者撮影)

 仮設ポンプの設置によって工業用水の確保はめどが付いたとの報道が流れた。一方で農業用水はまだめどが立たないという。

 地元で農業を営む女性は「うちは畑だからまだいいけれど、田んぼをやっている人たちは本当に大変。一刻も早くなんとかしてあげてほしい」と気をもんでいた。

 川にはさまざまな用途があり、複雑な権利関係が入り組む。今回は一つの小さなトラブルが大企業の生産や発電にも影響を及ぼすさまを目の当たりにした。復旧と原因究明を急ぐとともに、各地の施設やシステムも早急に点検すべきだろう。

現地にはさまざまな人たちが様子を見に来ていた。近くで車を停める場所は限られるので、十分に配慮してほしい(2022年5月19日、筆者撮影)
現地にはさまざまな人たちが様子を見に来ていた。近くで車を停める場所は限られるので、十分に配慮してほしい(2022年5月19日、筆者撮影)

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。2022年まで環境専門紙の編集長を10年間務めた。現在は一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」代表理事、サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」編集委員、NPO法人「震災リゲイン」理事など。

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