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噴火から4年の御嶽山に山頂まで登りました

関口威人ジャーナリスト
一時的に立ち入りできるようになった御嶽山頂から見下ろす一ノ池とニノ池(筆者撮影)

死者、行方不明者63人に上った御嶽山の噴火災害から4年が過ぎました。噴火後、立ち入り規制されていた山頂は、長野県木曽町側の一部で安全対策が整ってきたとして9月26日(水)から10月8日(月)まで登れるようになりました。筆者が前年に9合目まで登った「黒沢口」登山道です。(Yahoo!ニュース個人「噴火から3年の御嶽山に登ってみました」

あのとき山頂で何が起こっていたのか、その悲劇を繰り返さないためにはどうすればいいのか、安全対策と観光との両立は…。さまざまな思いをめぐらせながら今回、初めて山頂を目指して登りました。

御嶽山の立ち入り規制。上が2017年9月時点、下が今回(2018年9月26日〜10月8日)の一部規制緩和。ロープウエーの山頂駅から剣ヶ峰の山頂まで一気に登れるようになった(長野県木曽町の資料から)
御嶽山の立ち入り規制。上が2017年9月時点、下が今回(2018年9月26日〜10月8日)の一部規制緩和。ロープウエーの山頂駅から剣ヶ峰の山頂まで一気に登れるようになった(長野県木曽町の資料から)

登山は規制緩和初日の26日を予定していましたが、体調不良で断念。あらためて10月2日に計画しました。台風24号が通過し、つかの間の晴れ間となりそうなタイミング。名古屋も朝から快晴で、登山届をオンラインで提出。今年もロープウエーには頼らず、6合目の「中の湯」登山口からスタートしようと車を走らせました。ところが…。

ロープウエー方面の道と分かれて15分ほど走ったところで「車両通行止」の看板が。台風の影響で「中の湯」へ続く林道が途中から通れなくなっていたのです。事前の確認不足を反省しながら林道を引き返し、結局ロープウエーを使うことにしました。

「御岳ロープウェイ」の山麓駅(鹿ノ瀬駅)に午前9時半ごろに着くと、エントランス付近の駐車場は車がぎっしり。岐阜や名古屋ナンバーはもちろん、東京・世田谷や広島などのナンバーも。チケット売り場も行列ができているほどでした。

行列もできていたロープウエー山麓駅のチケット売り場のそばで販売されていたペットボトル水(筆者撮影)
行列もできていたロープウエー山麓駅のチケット売り場のそばで販売されていたペットボトル水(筆者撮影)

往復2,600円のチケットを買った後、売店で手に取ったのが「御嶽山水」とラベルが付いたペットボトル水です。

噴火以来、山頂付近の火口湖「ニノ池」に大量の火山灰が降り注ぎ、その水を利用していた山小屋が慢性的な「水不足」に悩んでいます。そこで地元が観光復興を兼ねて、ふもとの木曽川の伏流水500ミリリットルを詰めたペットボトルを新たにつくり、観光案内所や山麓駅で販売、それを購入した登山客に山小屋まで届けてもらう「水のリレー」というキャンペーンを始めました。

私は別の機会にそのキャンペーンを知り、今年7月に紙媒体の取材を兼ねてペットボトル水を届けに行きました。今回も山麓駅に着いたのであらためて購入。1本150円のうち、一部は山頂の慰霊碑建立の基金となり、来シーズンからは登山道の整備にも使われるそうです。

8合目付近は紅葉が見ごろ。青い空と赤やオレンジのコントラストが鮮やかでした(筆者撮影)
8合目付近は紅葉が見ごろ。青い空と赤やオレンジのコントラストが鮮やかでした(筆者撮影)

ロープウエーで山頂駅(飯森高原駅)へ、そしてまずは8合目を目指します。岩場の少ない8合目までは整備された木の階段が中心で、1時間ほどで順調に登れます。目の前が開けると、紅葉のパノラマが広がりました。

もっと色づきのよい年やタイミングはあるのでしょうが、十分に感動的です。他の登山客も「わー、きれい」と盛んに写真を撮っていました。4年前もそうした雰囲気の中で突然、グレーの噴煙がわき起こり、空が真っ暗に覆われ始めたというのが実感しがたい現実です。

8合目の山小屋のオーナー、起信幸さん(筆者撮影)
8合目の山小屋のオーナー、起信幸さん(筆者撮影)

その8合目の山小屋「女人堂(にょにんどう)」のオーナーは起(おこし)信幸さん。4年前の噴火当時、8合目には噴石までは飛んできませんでしたが、火山灰にまみれて下りてくる何十人もの登山客を起さんたちが必死に受け入れ、下山ルートに誘導しました。

「まだ見つからない人たち、遺族の人たちの気持ちを考えると複雑」としつつ、地元生まれの山小屋オーナーとして山の安全を守り、魅力を伝えることが自分の使命だと言います。山小屋には大きなスピーカーを設置し、何か異常があればいち早く、最大限の登山者に呼び掛けるつもりです。

「平日にこんなに人が来たのは久しぶり。御嶽山のことを思ってくれるだけでもうれしい」と言ってペットボトル水を受け取ってくれました。女人堂ではニノ池の水を利用していた宿泊客用の風呂などが、まだ使えずにいます。

9合目の「石室山荘」を目指して岩場を歩く登山道(筆者撮影)
9合目の「石室山荘」を目指して岩場を歩く登山道(筆者撮影)

女人堂を出て紅葉の間の登山道を進み、しばらくすると森林限界を抜けます。そこから9合目まではゴツゴツとした岩場。昨年も感じましたが急に肌寒くなり、岩に手もつくので登山用の手袋が重宝します。

休み休み岩場を登って9合目の山小屋「石室山荘」に着くと、ちょうど正午前だったので屋内は休憩する人でぎっしり。ここのオーナーにペットボトル水を手渡すのは後にすることにして、ちょっとリュックを下ろして登山帽からヘルメットにかぶり直し、すぐに出発しました。

この石室山荘から少し上がると、山頂方面とニノ池方面の分岐点があり、昨年はここで右に曲がってニノ池方面へ。しかし、今回は山頂方面の立入禁止看板が外され、まっすぐ進めるようになっていました。

規制看板が一時的に外され、山頂方面へ(筆者撮影)
規制看板が一時的に外され、山頂方面へ(筆者撮影)

大きな岩はなくなり、急斜面というわけでもなく意外に歩きやすい道でした。ただ、さすがに3,000メートル近く。空気が薄いような気がして、息はすぐ上がります。右手にニノ池を見下ろしながら30分ほど登ると、小屋や重機がすぐ目の前に見えてきました。噴石が屋根を突き破り、大きな被害を受けて取り壊されることになった山頂山荘です。ひしゃげたような屋根のトタンが見え、足元の道の上には細かいガラスの破片も散らばっていました。

山頂の手前には重機や山小屋の残骸、そしてシェルターが(筆者撮影)
山頂の手前には重機や山小屋の残骸、そしてシェルターが(筆者撮影)

さらに進むと、今回の安全対策の目玉として設置されたシェルター、そして噴火災害の犠牲者のためにつくられた慰霊碑がありました。「安らかに」と刻まれていて、手を合わせました。その横にある大きな階段を登ると、御嶽神社。その境内が山頂です。

御嶽神社に通じる階段。その横に噴火災害の慰霊碑(筆者撮影)
御嶽神社に通じる階段。その横に噴火災害の慰霊碑(筆者撮影)
周囲は噴火の傷跡がまだ生々しく残る(筆者撮影)
周囲は噴火の傷跡がまだ生々しく残る(筆者撮影)
安全対策として設置されたシェルター(筆者撮影)
安全対策として設置されたシェルター(筆者撮影)

境内はさまざまな資材も置いてあって歩き回れるところは少なく、そもそもあまり長居するところではないようです。しかし、かなたに北アルプスなどの山並みが見える眺望は絶景でした。手前にはニノ池のほか、「一ノ池」も初めて見ました。3万年ほど前の火山活動によってできたと考えられる噴火口です。

4年前に起こったのは、そこから南西へ500メートルほど離れた複数の火口からの噴火だとされています。この日は噴火口から上がる蒸気と雲海の区別が付きませんでしたが、硫黄のにおいはかなり感じられました。シェルターには3基で計90人が避難できるそうです。しかし、とっさのときにどう判断してどう行動できるか。登山者の意識向上や関係者の連携が今後も欠かせないと感じました。なお、昨年よりはスマホの電波を拾える範囲がはるかに広がっていたのが驚きでした。

9合目の「石室山荘」オーナーの向井修一さん(筆者撮影)
9合目の「石室山荘」オーナーの向井修一さん(筆者撮影)

慰霊碑にはペットボトル水を供えました。ただし、供え物は持ち帰るようにと注意書きがあったので、すぐまたリュックにしまって下山。9合目の石室山荘でオーナーの向井修一さんに手渡しました。

向井さんも当時、100人以上の登山者と修羅場を経験した人です。その後は山小屋の再開に追われながら火山防災も意識的に学び、木曽町が認定する「御嶽山火山マイスター」に山小屋経営者として初めて合格しました。このマイスター制度は合格率2割以下という難関だったそうです。火山の専門家が教える理学知識の習得をはじめ、地域と御嶽山との共生について情熱や主体性を持っているかどうかなどが問われます。

石室山荘も自主的に屋根を噴石に耐えられる特殊繊維で張り替えました。「ただ、先日の台風でまた屋根が少しめくれて修理してもらいました」と苦笑いする向井さん。「今回、にぎわいは戻ったけれど、まだ泊まりがけで来てくれるお客さんは少ない。来シーズンに向けて、さらに安全に山のよさを楽しんでもらえるよう努めたい」と話していました。

山頂までは登れたのは、向井さんをはじめ山荘に泊まり込んで工事に携わった関係者の皆さんのおかげ。今回の規制緩和はあと少しの日にちですが、これから登山する人たちにはくれぐれも安全に注意を払っていただきたい。その思いで下山をして、この小稿を書き上げました。

規制緩和は10月8日(月)正午まで。御岳ロープウェイの営業は11月4日(日)まで。御嶽山の活動状況は気象庁のサイトで、長野県側の情報は木曽町王滝村のサイト、岐阜県側の情報は下呂市のサイトなどを参考に。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。2022年まで環境専門紙の編集長を10年間務めた。現在は一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」代表理事、サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」編集委員、NPO法人「震災リゲイン」理事など。

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