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4万円の所得税減税、納税額が4万円に満たない人には「給付付き税額控除」か

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
日本でもついに「給付付き税額控除」が事実上導入されるか(写真:イメージマート)

1人当たり4万円の所得税減税と非課税世帯に7万円の給付を行う案が取り沙汰されている。本稿執筆時点で、所得税を3万円、個人住民税を1万円減税するとの案が出ている。ただ、収入が少ないために所得税(個人住民税を含む)の納税額が4万円に満たない人はどうなるのだろうか。

例えば、所得税(だけ)を2万円払っている人には、3万円減税するといっても、2万円しか減税の恩恵が及ばない。

岸田文雄首相は、収入が少ないために納税額が4万円に満たない人たちも何らかの仕組みで補う意向であるという。

しかも、今回の減税案では、納税者本人のみならず扶養家族にも1人当たり4万円の「減税」を行うという案が出ている(といっても扶養家族は納税していないから納税者本人への減税)。そうなると、扶養家族が2人いると納税者本人を入れて12万円の減税となる。すると、納税額が12万円に満たない人には、納税額分の恩恵しか及ばないということになるが、何らかの仕組みで補うということなのだろうか。

納税額を超えて「減税」の恩恵を及ぼす方法はある。それは、「給付付き税額控除」という仕組みである。

そもそも、所得税制における税額控除とは、所定の計算を終えた段階でいったん算出された税額(算出税額)から、税負担を減免するものである(土居丈朗『入門財政学(第2版)』日本評論社刊)。

3万円の税額控除が設けられると、3万円超納税する人には税負担が3万円軽減されることになる。だから、所得税の定額減税とは、所得税制に定額の税額控除を設けることと同じである。

これだけだと、ただの税額控除であって、納税額が3万円未満の人にはそれ以上の負担軽減効果は及ばない。現行税制では、そうなっている。

そこで、税額控除を差し引いたのちに負(マイナス)の額となる場合、その額を給付するという仕組みを導入する。給付付き税額控除とは、税額控除を設けた結果、 所得税額がマイナスとなる納税者には給付を与える仕組みである(土居丈朗『入門財政学(第2版)』日本評論社刊)。

欧米諸国などでは給付付き税額控除が既に導入されているが、日本では未だ実現していない。

では、給付付き税額控除を日本で導入できるのだろうか。確かに、税務署で給付事務を行ったことはないから、導入は困難という見方もあった。しかし、税務署で給付事務を行えという話ではない。多くの場合、給付付き税額控除は

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慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

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