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新型コロナの「全数把握」をやめ、「2類相当」から「5類」にするのに、立ちはだかる「公費負担」の壁!?

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
新型コロナ感染者の「全数把握」で、各地の保健所業務は逼迫している(写真:當舎慎悟/アフロ)

岸田文雄内閣は、新型コロナウイルス感染症について、全ての感染者を特定する「全数把握」をやめる方向で検討に入った。

感染拡大「第7波」で、感染者が増大して、医療機関も保健所も、「全数把握」によって業務が逼迫している上、無症状感染者も含めれば「全数把握」には程遠いのが実態になりつつある。

感染者の「全数把握」は、新型コロナを、感染症の分類のうち「2類」に相当するものとして位置付けていることに基づいている。

今のところ、感染者の「全数把握」をやめる代わりに、一部医療機関だけに患者発生を報告させる「定点把握」にする案が浮上している。この「定点把握」は、感染症の分類で「5類」と位置付けられている季節性インフルエンザでとられている方法である。

以前から、新型コロナを「2類相当」から「5類」に扱いを変えるよう求める声があった。それがより強まったのは、全国知事会と日本医師会が「全数把握」をやめるよう政府に求めたことが大きい(ただ、全国知事会も日本医師会も「5類」に変えることまで一致しているわけではない)。

感染症への対応として求められる措置のすべてについて、感染症の分類を「2類相当」から「5類」に変えないと、「全数把握」がやめられない、というわけではない。

確かに、感染症法で1~5類の類型に位置付けられた感染症は、講ずることができる措置もあらかじめ法定されている。だから、それ自体を変えるのは法改正が必要となる。

しかし、新型コロナは、「2類感染症」ではなく、「新型インフルエンザ等感染症」という別の分類に属する感染症と位置付けられている(2021年2月13日以降)。この「新型インフルエンザ等感染症」という分類は、かなりの部分で「2類感染症」に求められる措置と似ている。だから、「2類」といわず、「2類相当」という。求められる措置の中には、「全数把握」も含まれる。

「全数把握」をやめるとなると、その部分については「2類相当」ではなくなり、「5類」と同等の扱いとなる。

「2類相当」だと、感染症にまつわる検査や治療の費用には、患者の自己負担はなく、全額公費(税金)で賄われる。しかし、季節性インフルエンザなどの「5類」では、検査や治療の費用には、普通の風邪と同じく、一部自己負担が伴う。

これだと、全数把握をしない上に、検査をするのにも一部自己負担を伴うなら、積極的に検査を受けようとしなくなって、感染防止が不徹底になるのではないかという懸念もあろう。

もちろん、現行法制で、全数把握はやめるが、検査や治療の費用を全額公費負担とすることは、できなくはない。

しかし、全数把握をやめた後でも全額公費負担(自己負担なし)のままにすると、一部に重大な支障をきたす恐れがある。それは、

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慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

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