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18歳以下への10万円給付の所得制限、自公で決着したのに、見直し論がくすぶるワケ

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
所得制限の仕方に不公平との声が残る18歳以下への10万円給付(写真:アフロ)

11月19日にも、第2次岸田文雄内閣が取りまとめる経済対策で、18歳以下への10万円相当給付も盛り込まれる見込みである。その18歳以下への10万円相当給付に、所得制限を設けることで、自民党と公明党が合意して決着した。

しかし、依然として、この所得制限について見直し論がくすぶっている。

この所得制限は、現行の児童手当の仕組みに準じている。その児童手当での所得制限は、世帯全体の所得ではなく、世帯の中で所得が最も多い者(主たる生計者)の所得で判定する。例えば、扶養する児童が2人で、年収103万円以下の配偶者がいる場合、主たる生計者の課税前年収が960万円が、所得判定基準となる。

今般の10万円相当の給付の際に話題となった所得制限では、この児童手当での所得制限を用いることとしたため、片稼ぎで課税前年収が970万円の世帯の子どもには支給されないが、共稼ぎで夫婦各々の課税前年収が900万円(つまり、夫婦合算の年収が1800万円)の世帯の子どもには支給される、ということが起こる、という話だった。

ただ、この960万円は例としてよく用いられるが、実は、子どもの数などによってその金額は前後する。

確かに、世帯合算所得ではなく、主たる生計者の所得で判定すると、上記のような「不公平」が起こりうる。

この所得制限について、自民党内では、高市早苗政調会長が「不公平が起きる」と批判したり、福田達夫総務会長も「合算した上で決めるのが当然だ」と主張したりしている。

10万円給付所得制限、共働きは1900万円でも支給…自民党内で見直し求める声(読売新聞2021年11月16日)

この所得制限についての合意を取りつけた自民党の担当者は、茂木敏充幹事長であり、もしこの所得制限をめぐって賛否が分かれているとすると、自民党三役で意見が割れているということになりかねない。

岸田内閣の政権運営としても、お膝元の自民党から異論が噴出して止まらないとなると、ただ事では済まされない。

岸田首相は、政調会長時代の2020年4月に、低所得者向け世帯に30万円の給付で一度まとめたものの、公明党が提案した国民1人当たり一律10万円給付でひっくり返されて、評判を落とした経緯があったりするから、一度合意したことがひっくり返されることは、重大事である。だから、松野博一官房長官は、前掲の記事にもあるように、所得制限に理解を得ようとして取りなしている。

にもかかわらず、こうして自民党内での所得制限に関する異論が、大々的に報じられるのはなぜか。

そこには、単に政治家同士の個人的な駆け引きにとどまらない、政策形成のアヤがある。それは、

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慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

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