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『君たちはどう生きるか』2週目から伸び悩むも最終興収100億円台視野 ロングラン見据える興行へ

武井保之ライター, 編集者
『君たちはどう生きるか』全国公開中(C)2023 Studio Ghibli

 アニメも実写も話題作が映画館をにぎわせている今年の夏興行。夏休み期間の半分を過ぎ、もっとも数字が上がるお盆興行の直前となる現時点で、今夏話題作の最終興収を推定してみる。

 公開から4週目を迎えた『君たちはどう生きるか』。興行動向を考察する映画ジャーナリストの大高宏雄氏によると、夏休みの大型作品がひしめくなかでダントツの興行成績を残しており「現時点では夏興行トップになる可能性が高い。最終興収100億円台がじゅうぶん狙える」とする。

 邦画実写では、上半期1位になった劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(44億円)を上回るスタートを切った『キングダム 運命の炎』が、邦画実写No.1の座に上り詰めるかが気になるところ。大高氏は「前者がGW公開だったのに対して、後者はまだ先が長い夏興行。最終興収では45億円超えを狙える。追い抜く可能性が高い」と公開タイミングの優位性を交えて解説する。

 実写両作を比較すると、36歳の新人女性演出家・松木彩氏がオリジナル脚本のテレビドラマを映画化した劇場版『TOKYO MER』と、数々の映画賞を受賞するベテラン監督でありヒットメーカーの佐藤信介氏が人気漫画原作を実写化した『キングダム 運命の炎』という、対極のバックグラウンドを持つ作品の激突としても勝敗の行方が興味深い。

『TOKYO MER』ヒット創出の裏側を素顔で語る松木彩監督

夏休み期間に入っても子どもの動員が伸びない

 夏のトップを走る『君たちはどう生きるか』の興行を掘り下げる。

 公開日(7月14日)から振り返ると、初週末4日間で観客動員135万人、興行収入21.4億円を記録。宮崎駿監督作『千と千尋の神隠し』(2001年公開/興収316.8億円)の初動4日間を上回り、前作『風立ちぬ』(2013年公開/興収120.2億円)との興収対比で150%を超える好スタートを切った。

 その後、公開10日間で動員232万人/興収36億円、公開17日間で動員数305万人/興収46.9億円と数字を伸ばし、8月7日時点の公開24日間で動員361万人/興収54.8億円。まずは50億円を突破した。

 しかし、数字の伸び率で見ると決して順調ではない。公開直後に夏休み期間に入ることから、本来であれば週を経て数字を伸ばしていかなくてはならないところを、週末3日間比較で2週目は前週の51%、3週目は同67%、4週目は同69%と数字を落としている。

 大高氏は、夏休み期間に入っても子どもたちや若い世代の動員が伸びない現状を指摘しながら、「もっとも盛り上がるお盆興行を前にパンフレット発売を発表した。夏にもうひと伸びがある」と期待する。

 さらに、9月に開催されアカデミー賞の前哨戦とも言われるトロント国際映画祭のオープニング作品に決まっていることから、「アカデミー賞に絡むことも考えられ、かなり長期のロングランで興収を積み上げていく体制を整えている」(大高氏)と分析する。

系譜の異なる邦画アニメのスーパーヒットへの期待

 コロナ禍以降の100億円超え邦画アニメは、今年の興収トップの『THE FIRST SLAM DUNK』(150億円)のほか、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(404.3億円)、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(102.8億円)、『ONE PIECE FILM RED』(197億円)、『劇場版 呪術廻戦 0』(138億円)、『すずめの戸締まり』(147.9億円)、『名探偵コナン 黒鉄の魚影』(140億円)となる。

 こうした漫画、アニメの人気作とは系譜の異なる『君たちはどう生きるか』が100億円を超えることへの期待は大きい。『すずめの戸締まり』のようなオリジナル作品からのスーパーヒットが継続的に生まれることが、邦画アニメのなかの作品性やカテゴリの多様性を一般層へ示すことになり、シーンの活性化につながる。

 まだ夏休みは半分を過ぎたところであり、もっとも盛り上がるお盆興行はこれからだ。後半でのさらなる伸びを期待したい。

※23年7月末時点の興収推定値(上映中の作品は同時点の最終興収推定値)

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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