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ロコ・ソラーレがグランドスラム制覇。20回目の挑戦で悲願達成したグランドスラムってどんな場所?

竹田聡一郎スポーツライター
今回の優勝で世界ランキングも4位に浮上した (C)Loco Solare

 昨年末のクリスマスのことだ。

 全日本小学生選手権にゲスト講師として招待された藤澤五月は「2022年の印象深い試合は?」と聞かれた。

 2022年のロコ・ソラーレは北京五輪に日本代表として出場し、銀メダルを獲得。3度目の日本選手権優勝。さらに秋のカナダ遠征の最中では新設のコンチネンタル選手権で初代女王となるなど、順風満帆だったといっていい。特に平昌五輪銅メダル獲得を自分たちの手で塗り替える北京五輪の銀メダル獲得は歴史的だった。

 それでも藤澤は「いいんだか悪いんだか分からないんですけれど、昔の試合はすぐ忘れてしまうタイプなので」と苦笑いした後で、こう言った。

「良き思い出としてオリンピックはあるんですけれど、私たちは常に前を向き続ける、チャレンジし続けるっていう意味では正直、オリンピックの試合はどちらかというとちょっと(戦術的に)恥ずかしいような、技術的にも前の試合になってしまうので、常に前を向いて後ろを振り返らずにやっていきたい」

 嬉しかった試合に関してはパンコンチネンタルの準決勝のカナダ戦を挙げ、悔しかった試合に関しては「どの試合、というよりグランドスラムで勝てていないので、その悔しさは残った」と2022年を総括している。

 グランドスラムとはカーリングの世界ツアーで上位ランキングチームのみが招かれるメジャータイトルを指す。もちろん競技規模が異なるので一概には言えないが、分かりやすさを重視すればテニスやゴルフの四大大会のようなイメージだ。近年は6大会が指定されていて、注目度や賞金などは一般大会とケタが違う。

 日本のカーリングはどうしても五輪中心に報じられたり注目を集めることが多いが、五輪がサッカーW杯であれば、グランドスラムはクラブW杯のような存在だ。国別ではなくクラブ別の最高峰タイトルと言い換えてもいい。

 そのグランドスラムで勝つこと。ロコ・ソラーレ、チームFujisawaは平昌五輪を迎える2017/18シーズンあたりから、その目標を明確に掲げてきた。その道中には2度の五輪があり、そこでの優勝やメダルも当然、彼女らが思い描いていた成功のひとつではあるが、グランドスラムでの結果も同等に欲しい結果だった。

 リードの吉田夕梨花は自身のキャリアを問われた時に「出たい試合はいろいろ出られるようになっているんですけれど、(グランド)スラムでまだ勝ってないんですよ」と答えていた。

 平昌五輪から北京五輪までの4年間を振り返り、セカンドの鈴木夕湖はこう言っていた。

「北京への4年、しっかり頑張ります、というよりもスラムに呼ばれるようになって、楽しいけれどなかなか勝てない。じゃあ、そこで勝てるようになるためにはどうしたらいいか。そうやっているうちに時間が経った感じです」

 そして今回の「Co-op Canadian Open」はチームFujisawaにとって20回目のグランドスラム挑戦だった。ついに頂点に経ち、サードの吉田知那美は現地の英語インタビューで開口一番「Amazing」と喜びを爆発させたが、その直前に優勝が決まってチームメイトとハグを交わす間に「長かったー」を連呼している。

 ロコ・ソラーレは2010年のチーム結成から日本選手権初優勝まで6年。五輪出場まで8年。そしてグランドスラムでは初出場の2016年から今回の初優勝まで8シーズンを費やしている。マネジメント会社を通して発表された藤澤のコメントにも「決勝トーナメントに行けてもなかなか準決勝の壁を越えることができず、いつも決勝に立てない悔しさと、もどかしさを感じていました」とある。その間、メンバーの入れ替えなどがありながらも、ブレずに「地域に愛されるチームに」「世界の頂点へ」という目標を追った結果だろう。

 「長かった」けれど、感無量だ。予選から6連勝、しかも相手はスイス、スウェーデン、韓国、カナダという今季の各国代表にも選ばれているチームを次々と撃破しての戴冠だ。本当に強いチームの勝ち方だった。

 チームは近日、カナダより帰国し、束の間の休息を挟んで1月28日に地元・北見市常呂町で開幕(競技は29日より)する第40回全農日本カーリング選手権大会に出場する。

 賞金10万ドル、アジア人初のグランドスラム制覇、世界一クラブの称号、円熟期を迎えた戦術etc……。今回の優勝でまた多くのものを得た彼女らだが、日本選手権の連覇は未経験だ。優勝すれば出場できる世界選手権も実は1度しか経験していない。

 ロコ・ソラーレのジェームス・ダグラス・リンドコーチが「結果を残した上でその先を見ることができる」と彼女らを評したことがあったが、勝ってなお飢えることができるのもロコ・ソラーレの強さだ。日本選手権では世界一のカーリングが見られるだろう。今季のカーリングもいよいよクライマックスに突入してゆく。

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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