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10万円の高額席が登場したカーリング・軽井沢国際をきっかけにカーリングはどう変わっていくのか

竹田聡一郎スポーツライター
優勝のE.Kimと準優勝のEinarson (C)軽井沢国際2022 H.Ide

 カーリングの師走の風物詩で、“カルコク”の愛称で親しまれている軽井沢国際カーリング選手権大会が3年ぶりに開催された。

 男子はYanagisawa(SC軽井沢クラブ)がクラブとして5年ぶりの優勝を果たした。ホームである軽井沢の重めのアイスの特徴を熟知していることもあり、ある程度、受けに回りつつ相手のミスに巧みにつけこむ形で多くのゲームで終始、主導権を握っていた印象だ。

 女子は“メガネ先輩”率いる韓国代表のE.Kimが初戴冠。ファイナルに残ったEinarsonと共に大会序盤は慣れないアイスに苦しみ、E.KimはFujisawa(ロコ ・ソラーレ)、EinarsonはKitazawa(中部電力)、予選リーグでは国内トップチームに黒星を喫しながらも尻上がりに調子を上げていった。大会を通してのパフォーマンスという点でワールドクラスの強さを存分に示した結果だ。

 有観客でありながら各セッションで配信カードを設け、スポナビライブとも提携したことも功奏し、プレーオフ以降は1万人を超える視聴者を獲得した。男子はMorozumi(TMKaruizawa)とYanagisawaの軽井沢クラシコ、女子は韓国とカナダの代表チーム同士という豪華なカードが実現し、いずれもラストロックまで勝敗がどちらに転んでもおかしくない名勝負を演じてくれたことで、カーリングの面白さを存分に周知できたのではないか。

 軽井沢育ちのカーラーが8人揃った「軽井沢ダービー」は今回はSC軽井沢クラブに軍配が上がったが、来年以降も名勝負になりそうだ (C)軽井沢国際2022 H.Ide
軽井沢育ちのカーラーが8人揃った「軽井沢ダービー」は今回はSC軽井沢クラブに軍配が上がったが、来年以降も名勝負になりそうだ (C)軽井沢国際2022 H.Ide

 一方で、特にチケットの価格が大会前から物議を醸した。最低価格は5000円、一般観客席が6000-8000円だ。

 この夏の北海道ツアーで唯一、地元以外の観客を入れたアドヴィックスカップは事前申し込みが求められたが無料。同じ北海道ツアーのどうぎんクラシックも有観客で開催された2019年大会は1000円、最終日のみ2000円という金額だった。2020年に同じく軽井沢で開催された日本選手権でも2000円からの席があったことを考えれば、今回の軽井沢国際はかなり強気な価格設定と言っていい。

 さらに、氷上で観戦できる「エキサイティングシート」を10万円で売り出し、これが大きな話題となった。

 ロコ・ソラーレの藤澤五月は「エキサイティングシート」に関して質問され、こう答えている。

「わざわざ1試合、あの金額を払ってまで観に来てくださっているっていうことがどんなにありがたいことかっていうのをみんなで大会前にずっと話していたので、(来場者との)交流だったり、記念撮影だったり、お話しする機会ができたらいいねっていう話はしていた。感謝の気持ちを伝えられたらという気持ちでやっている」

 その言葉どおり、ロコ・ソラーレをはじめ、海外勢を含む多くのチームが積極的に記念写真や握手に応じるだけでなく、チームグッズや記念品、その試合で使用したサイン入りのパッド(ブラシの先端の取り外し可能な接氷面)などをそれぞれプレゼントした。ホストチームであるSC軽井沢クラブのメンバーは試合がないセッションでは氷上に立って来場者向けに解説をするなど、ホスピタリティを発揮した。

 栃木県在住で平昌五輪をきっかけにカーリングファンになったという会社員の女性は、初現地観戦ながら「エキサイティングシート」を購入。「本当にエキサイティングでした。コロナもあるし近くで観られるだけでいいと思っていたのですが、選手みなさんが来て声をかけてくれて、写真も撮れたしサインもいただけました」と興奮気味に語ってくれた。

 「それでも高すぎる」という声も挙がっている。あって当然の意見であり、金額については今後も議論が重ねられるだろう。ただ、単純な拝金主義ではないことは確かだ。大会を主催するNPO法人スポーツコミュニティー軽井沢クラブが11月に出したリリースから引くと「チケットを中心とした売り上げの一部を大会の賞金に充当することで、競技の普及・発展はもとより、参加チームを支援し、さらにカーリング観戦の価値を高めようという取り組み」とあるが、実際にチケットによる収入を賞金に充て、総額200万円の増額を実現している。

3位決定戦や写真の決勝戦などは試合後の表彰式もそのまま滞在可能で、多くのファンが入賞チームをハイタッチなどで祝福した (C)軽井沢国際2022
3位決定戦や写真の決勝戦などは試合後の表彰式もそのまま滞在可能で、多くのファンが入賞チームをハイタッチなどで祝福した (C)軽井沢国際2022

エキサイティングシートにはこたつが常備されるなど寒さ対策も万全だったが「せっかく近くで観られるのにもったいない」と氷上で立って観戦するファンも多かった (著者撮影)
エキサイティングシートにはこたつが常備されるなど寒さ対策も万全だったが「せっかく近くで観られるのにもったいない」と氷上で立って観戦するファンも多かった (著者撮影)

 また、開幕前日には海外のトップ選手を中心にカーリング教室を開催し、決勝のエキサイティングシートには公益社団法人「難病の子どもとその家族へ夢を」がサポートする子どもとその家族を招待。9人の子どもが世界トップクラスの技を至近距離で観戦した。地域への貢献、カーリングの普及や育成という意味でも十分な役割を担っている。

開幕前日には各国の選手やホストチームのSC軽井沢クラブがジュニアに指導を行った (C)軽井沢国際2022 H.Ide
開幕前日には各国の選手やホストチームのSC軽井沢クラブがジュニアに指導を行った (C)軽井沢国際2022 H.Ide

 課題があるとすればファンサービスの手段や方法だろうか。今回は新型コロナウイルスの影響も考慮し、あくまで各チーム、選手それぞれの厚意でファンへの対応が行われていた。

 結果的には試合後に1Fのエントランス付近に長蛇の列ができ、駐車場で選手の出待ちをするファンもいた。それらは特に禁止されているわけではない上に、会場の軽井沢アイスパークはスケートリンクなどの複合施設であるため動線の確保は困難な部分はある。それでも、セキュリティ面でもトラブルが起こるリスクは削らないといけない。例えば、試合の結果や選手の疲労なども考慮しつつも、チケット購入者だけがアクセスできるファン対応用のスペースや機会を運営が用意するのも一手だ。選手とファンが双方に納得できる仕組みを来年以降に期待したい。

左からE.Kim、Tirinzoni、Muirhead、Fujisawa、Sidorova、Hasselborg。ビッグネームが集った2017年は圧巻だった。大会実績として今後も活かしていける武器になってくる (著者撮影)
左からE.Kim、Tirinzoni、Muirhead、Fujisawa、Sidorova、Hasselborg。ビッグネームが集った2017年は圧巻だった。大会実績として今後も活かしていける武器になってくる (著者撮影)

 1998年長野五輪開催を記念し、翌1999年よりはじまったこの軽井沢国際カーリング。20年を超える歴史に中で多くのトップカーラーが軽井沢を訪れ、あるいは経由して、世界の頂点へ向かっていった。直近5大会だけでも平昌と北京の両五輪の、Muirhead(イギリス/北京女子金メダル)、Edin(スウェーデン/北京男子金メダル)、Hasselborg(スウェーデン/平昌女子金メダル)、Shuster(アメリカ/平昌男子金メダル)といった金メダリストがすべて来日して、軽井沢のファンを熱狂させた。

 また、今大会ではチーフアイスメーカーに松村勇人が抜擢されている。松村雄太(TMKaruizawa)や松村千秋(中部電力)らの末弟としても知られているこの27歳は、日本選手権などのアイスメイクチームに名を連ねたことはあるが、チーフを務めたのは自身初だとか。

 冒頭で触れたように若干、重めのアイスとなったことについては「自分がイメージしていた曲がり幅などに近づけなかった部分はある。選手を迷わせてしまったなら申し訳ない」と率直な反省を口にしつつ「いい経験をさせていただいたので、これをまたアイスメーカーとしてフィードバックさせないといけない」と未来を見据えた。

 チケットの金額と賞金への還元、アイスメーク、ファンサービス、配信など、運営面で新しい仕掛けや次世代の起用が目立った今大会。限られた地域や施設だけでしかプレーできないカーリングだが、今回の“カルコク”で、特にファンや観客に対して「チームや大会を応援する」、「アイスレベルで体感する」というこれまでとは異なるカーリングへのアプローチに光が当たったのではないか。

 年末年始にはこちらも新しい試みとして「ニューイヤーメダリストカーリング IN 御代田 2023」が行われ、Jentsch(ドイツ代表)やYoshimura(フォルティウス)など人気チームが年を跨いだ大会に挑む。

 年が変わると日本選手権が待っている。例年のようにNHKでの中継が予定されている一方で、JCA(日本カーリング協会)は独自配信の準備も進めている。スポーツとして、ビジネスとして、カーリングをどう扱って育てていくのか。

 藤澤五月は言う。「カーリングは観客ありきのものだと私は思っています。観客と一緒にいい大会を作っていきたい」。北海道ツアーや軽井沢国際で芽吹いたものを選手、ファン、運営が一丸となって考える時期が来ているのではないか。

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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