Yahoo!ニュース

五輪初出場へ。松村・谷田の勝因は卓越したリスク管理にアリ/ミックスダブルスカーリング日本代表決定戦

竹田聡一郎スポーツライター
谷田康真(コンサドーレ/北海道クボタ)松村千秋(中部電力)(C)JCA IDE

 北海道稚内市で行われた『全農 2021 ミックスダブルスカーリング日本代表決定戦』は松村・谷田がラウンドロビン(予選リーグ)を含め5勝1敗で制し、日本代表として12月にオランダ・レーワルデンで開催される北京五輪最終予選に出場することになった。

 かつてから谷田康真(コンサドーレ/北海道クボタ)はペアを組む松村千秋(中部電力)について「どこでもこなせるオールラウンドな選手。信頼しています」と、逆に松村は「早いショットで局面を変えてくれるし、私のドローも強いスイープで運んでくれる」とパートナーについて、つまりチームの強みをコメントしていたが、今大会はその強みが活かされた結果になった。

 カーリングのプレーは大きく3つ、石を投じるショット、その石の到達地点を微調整するスイープ、次の一投をはじめそのエンドやゲームを構成する戦術的な指揮に大別される。

 例えばスキップの場合、その仕事はフィニッシャーとしてのショットや戦術的な指揮に偏ることが多く、どうしてもスイープ能力に劣ることが多い。逆にリードやセカンドでは「考えるのが苦手だからバックエンド(サードとスキップ)に任せるよ」と公言し、ショットやスイープに集中する選手も少なくない。

 優劣ではなく、ある意味では専門職。4人の分業であり、それでチームバランスを保っているグループがほとんどだ。

 しかし、ミックスダブルスではその仕事をたったふたりで行わなければならない。

 その点、松村も谷田もこれまでのキャリアでリード、セカンド、サード、スキップとすべてのポジションを経験してきたのが大きなアドバンテージとなった。ショット、スイープ、作戦のすべてで高いレベルでの柔軟なコミュニケーションが可能で、いわゆるカーリングの総合力の高い組み合わせだった。

 だからこそミックスダブルスの怖さも学んでいた。谷田が「本当に1投のやってはいけないミスで局面が変わる。かといってビビって1手遅れると、取り返しがつかない。だからこそ面白いんですけどね」と笑っていたことがあったが、それを端的に物語っていたのが最終戦の第4エンドだった。

 2点ビハインドの第3エンド、松村のラストロックの時点で同点に追いつく2点が確定している場面だった。ただ、ハウスの中は密接状態で、自分の石にうまい角度で触れることで相手の石を押し除け、3点さらには4点獲得も可能な配置に見えた。

「(大量点を)狙えないこともないけど、複数点は絶対に欲しかった。リスクはゼロで3点目を狙いにいきました」と谷田が振り返ったが、ふたりは自軍の石に触らずに、2点を確保したまま3点目を狙うプランを決断。結果的にはうまくいかずに2点どまりとなってしまったが、「その(ショットに挑戦する)イメージは共有できていた」と谷田は強調した。

 2点を奪われた直後の大きなチャンス。それも、決めれば五輪にも繋がる日本代表を大幅に手繰り寄せる蠱惑的ともいえるショットではあったが、目先のビッグエンドよりも、リスクを排除しながら最低限のしかし確実な2点をチョイス。それができるのも、このペアの強みだろう。

「(1エンドで8投ある)4人制なら狙っているかもしれないけれど、あそこはちょっと考え方を変えて。ミックスダブルスは失敗のリスクがどうしても高くなってしまう。より僕たちのイメージできる高確率のショットをセレクトしました」(谷田)

 ハーフタイム明けの第5エンドには大量3点を失うが、それにも慌てずに第6エンドにパワープレーを使い「最低でも複数点、できれば3点」という意識をまず共有した。辛抱強く最善のポイントを目指し石を積んだ結果、4点が転がり込む。これが決め手だった。

 代表権を勝ち取ったのは、ミックスダブルスの特質を理解した上での欲しい得点と狙える得点の足し引き、リスク管理を怠らなかったこと、最後まで冷静な思考を貫いたことが大きな理由だろう。

 谷田と松村のペアは12月4日から8日まで、冒頭で触れたオランダでの最終予選に挑む。参加予定の14か国中、2か国のみにしか北京行きの切符は与えられない狭き門だ。

 その世界での戦いについて松村は自身の課題としてまずラインコール(スイープの指示)を挙げた。近年、中部電力でのポジションはサードながら、ハウス内からのラインコールはスキップの中嶋星奈、フォースの北澤育恵に任せている。ミックスダブルス特有のハウスからの景色と感覚を得る必要をこれまで以上に感じたのだろう。

 谷田も課題については「アリーナで(開催予定)のアイスはもう少し石の曲がりが大きい。後ろの石をタップするだとか、そういう練習していかないと、センターライン上(のいい石を)なかなか抑えていけない」と語るなど、ふたりとも勝って兜の緒を締める形で、今大会を総括した。

 日本のカーリングはミックスダブルスでの五輪をまだ知らない。彼らの大きく新たな挑戦は厳しいものになるだろうが、その権利はほぼすべての国内トップカーラーを2年がかりでことごとく退けてきた松村・谷田だけのものだ。気負いすぎず、冷静に、真摯に。らしいゲームを続けてほしい。その先に史上初はきっと待っている。

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

竹田聡一郎の最近の記事