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カーリングミックスダブルス世界選手権。進撃の山口剛史&藤澤五月を支えるチームJAPANのスタッフ

竹田聡一郎スポーツライター
藤澤の信頼も厚いJD・イケメン・リンドと、長岡・グレイト・ピジョンはと美

 山口剛史と藤澤五月が止まらない。

 初戦のニュージーランド、続くエストニアと連敗スタートとなり、「2勝くらいしかできないと思っていた」と藤澤は弱気になっていたが、ナショナルコーチのJDリンドの「(ミックスダブルスのゲームに)思考を変えるのに時間がかかったけれど、毎試合、修正することで良くなった。彼らの能力の高さは知っていたので心配はあまりしていなかった」という言葉どおり、今回の氷やミックスダブルス特有の戦術やキーショットにアジャストしていった。連敗の後、5連勝で予選グループを2位で通過すると、ラウンド16ではスコットランドを相手にスキのないゲーム展開で快勝。日本勢としては11年大会以来、7年ぶり2回目の8強進出を果たした。

 ラウンド8の韓国戦までは約8時間の空き時間があるが、

「またしっかり休んで日本のお米を食べて、次の試合、頑張ります」

 藤澤はそう言い残して会場を後にした。一度、ホテルに戻って食事と休息を摂るようだ。

 今回、彼らはホテル滞在だが、基本的には自炊をして過ごしている。

 日本カーリング協会のオフィシャルパートナーで、ミックスダブルスの日本選手権の冠スポンサーでもあった全農から提供された山形のブランド米「つや姫」を大量に持ち込み、電気調理器で炊く。特に大のお米好きで「この世のすべてのおかずはご飯を美味しく食べるためにあるのです」と断言する藤澤にとって、好パフォーマンスの源になっているだろう。

 おかずは山口の所属するSC軽井沢クラブのスポンサーである地元密着スーパー「ヤオトク」が、レトルトの総菜や、漬物などのご飯のお供を提供してくれた。「サバの味噌煮が好きです。今日は勝負の日だったので朝、ダブルで食べました。贅沢っす」と山口は笑う。

 ご飯を炊くのは長岡はと美コーチだ。本人は「コーチってよりメシ炊きババアよ」と自虐的に言うが、早朝のゲームがある日は4時、ラウンド16の27日も5時起きで選手の朝食を用意した。「あの子、本当にご飯が好きなので途中でお米が足りなくなって買い出しに行ったのよ」と目を細める。かつて中部電力に藤澤が所属していた時代には長岡家に住んでいた時期もあったので、彼女の精神面の支えの役割も果たしている。

 長岡コーチが食事を準備するのと同時進行で選手の身体をマッサージなどでメンテナンスするのは、男子代表に帯同し平昌五輪に参加した鵜沢将司トレーナー(SC軽井沢クラブ)だ。毎日平均1時間、山口と藤澤のケアを行った。

「ラウンド16前には山口選手は全身、藤澤選手は足裏などが中心でしたね。二人とも疲れもそれほどないし、リラックスしていい状態だと思います」と語った。

 一日の役割をそれぞれ終えると長岡コーチと鵜沢トレーナーはささやかに缶ビールで乾杯して、早い翌朝に備えるために就寝。それがここエステルスンドで作られた彼らのルーティーンだという。

 その一方で、JDコーチも大きな仕事を連日、遂行している。ストーンチェックだ。

 カーリングの国際大会などでは毎日、すべてのゲームが終わるとナイトプラクティスという時間が設けられてい、申請したチームはアイスに乗って練習が可能になる。アイスの状況を掴んだり、調子の悪い選手が投げ込んだりとチームによって使い方はそれぞれだが、共通してストーンのチェックはどのチームも行う。これをJDコーチが今大会、引き受けた。

 曲がらない石、曲がり過ぎる石など、石ごとの個性をチェックしてチームで共有する。特にラウンド16のスコットランド戦で使用したAシートには初戦のニュージーランド戦で扱いに手間取った石が多かったが、前夜、JDコーチがチェックしてくれたデータを元にクセのある石は山口がテイク中心にさばき、「私はいい石を残してもらった」と藤澤がフィニッシュにクセのない石を投げた。スコットランド戦の勝利の裏にはJDコーチの献身があったことは疑いようがない。藤澤と山口はベスト8進出が決まるとまずJDコーチに「ありがとう」と謝意を伝えた。JDも「ドイタシマシテ」と最近、上達著しい日本語で返した。

 山口と藤澤ペアを中心としたJAPANの戦いは、最大あと3試合だ。コーチボックスにはJDと長岡の両コーチが、スタンドからは鵜沢トレーナーがその戦いを見守るが、同じくスタンドには同時開催されたシニア世界戦を戦ってきた男子代表のチームTOKACHI、女子代表のチームHOKKAIDOが陣取って好ショットに大きな声援を送っている。

 そして、長岡コーチは五輪限りでSC軽井沢クラブのコーチから退任を発表しているため、10年以上継続してきた山口の指導をするのもこれが最後だ。彼女の花道に金メダルを用意できるか。まずは韓国戦に勝ち切って日本カーリング史上最上位を確定させたい。

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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