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平田洸介「ポジションはイジられ役です」好調のニッポンカーリングを支える縁の下の力持ち

竹田聡一郎スポーツライター
スタンドからストーンチェックをする平田。6時起きらしい。(著者撮影)

「僕のピョンチャンは選手村のビビンパとストーンチェックです」

 SC軽井沢クラブのフィフス・平田洸介は、五輪会場である江陵カーリングセンターの一角に陣取り、双眼鏡片手にそう笑う。選手村には様々な食事が用意されているが、ビビンパが一番、好みらしい。

 ストーンチェックというのは、彼が五輪のアイスで毎日、繰り返している仕事だ。カーリングストーンには石ごとの微妙な曲がりグセがあり、中には“荒れ石”と呼ばれる曲がり過ぎる、あるいは曲がらない石も存在する。得点に直結するショットでその石を使うわけにはいかないため、平田はナンバリングされているストーンを「Bシートの4番はよく曲がる」といった具合にチェックし、また他国がどんな順番でどの選手にどの石を投げさせているかも偵察し、参考にする。日本の試合がないカードや女子の試合でもその作業は休みなく遂行される。

「正直、眠いっす。でも、これが僕の仕事ですし、楽しいっすよ」

 平田はまだ大学生でユニバー代表だった15年、カザフスタンのアルマトイで開催されたパシフィック・アジア選手権にSC軽井沢クラブのリザーブとしてスポット参加した。翌16年も同大会(韓国・義城)に帯同し、その後、SC軽井沢クラブから正式なオファーを受け、昨春に正式加入した。

 それからは一貫して「仕事はいじられること」そう公言してきた。

 SC軽井沢クラブは07年に今のメンバーが揃ってから、大きな大会のリザーブ以外は両角友佑、山口剛史、清水徹郎、両角公佑の4人で戦ってきた。選手の入れ替えやチームの再編が頻繁なこの競技ではかなり稀有な例だ。戦術やコミュニケーションが勝負の鍵となるカーリングでは、同じメンバーでチーム作りをしてきたことはどのチームも持たない彼らの唯一無二の武器である。

 その一方でデメリットがあるとすれば、アイス内外での閉塞感だろうか。アイスの中で起きた問題では他者の意見を受けて解決に向かうことが多い。その役割は長らく長岡はと美コーチ、近年はナショナルコーチのジェームス・リンドが担ってきた。

 アイス外での閉塞感を平田が解消してくれた。SC軽井沢クラブは毎秋に数週間、今季は3ヶ月近くとなる遠征を敢行している。移動も宿泊も食事も同じメンバーで顔を合わし続けると、どうしても飽きや倦怠感が生まれがちだ。これはSC軽井沢クラブだけではなく、どのチームスポーツも共通な事象かもしれないが、昨年までの彼らには、アイスの外では好き嫌いではなくマンネリと言い換えてもいい空気が漂っていた。

 そこに“いじられ役”を自認する平田が加入した。

「本人に言ったことはないし、あんまり口に出したりはしないけれど」と前置きした上で両角公佑が教えてくれたことがある。

「みんな彼のサポートには感謝してると思いますよ。試合に出たい気持ちだってあるだろうけど、よく我慢してくれている。彼の存在で僕らが『しっかりしなきゃ』と思えるのもプラスですね」

 メンバーには、甲子園出場経験のある弟と比べられてイジられ、遠征に下着を異常に持って出る奇行を指摘されるが、その一方で食事に連れていってもらったり、練習へ送迎してもらったりと、体育会系特有の良好な先輩後輩関係を築けたのは彼のよく笑い、そして何よりカーリングが好きなキャラクターありきだろう。両角友佑をモロさん、山口剛史をぐっさん、清水徹郎をテツローさん、両角公佑をコースケさんと呼び、記者からの「彼らのストロングポイントを」という問いに淀みなくスラスラ答える一面も持つ。

「試合に出たい気持ちは正直、あるけれど、足りないものが多い」とは本人の自己分析だ。SC軽井沢クラブ加入後もカップ戦などで数試合、出場をしたが、思うようなショットが決まらなかった。五輪前の最後のスコットランド遠征はパスして、軽井沢や地元・北見のアイスで投げ込んだ。

「好きっすよ。カーリング。平昌が終わってからまた挑戦しようと思っています」

 五輪後の去就はまだ未定だ。軽井沢に残ってレギュラーの座に挑戦するのか、新たな仲間を探すのか、他のメンバーと同じく、「五輪が終わってからゆっくり考えます」と言う。地元の北見で一緒にやってみたい同世代の仲間も何人かいるらしい。

「今は1試合でもいい結果が出るように、できることは少ないですけど、僕も頑張ります」

 本人はそう謙遜するが、この日も朝の試合でコーチボックスに座り、スコアをつけた。ゲーム間にはジムで身体を動かし、メンバーに万が一のことがあった際の準備も怠らない。ゲーム間にはストーンチェックを継続し、すべてのゲームが終わればナイトプラクティスという公式練習で氷上に立ちアイスのコンディションを確認し、チームに持ち帰る。リンドコーチにも報告し、その情報は女子にもシェアされる。チームへ、ジャパンへの貢献度という意味では胸を張っていい。

 男子はこれから予選リーグのクライマックスに向かう。ベスト4に進出すれば日本カーリング界初だ。その快挙を達成した陰には平田の地味だが確実な仕事が存在する。本人には少し悪いが、彼の「眠いけど楽しい」という至福の寝不足が最終日まで続くことを願うばかりだ。

平田洸介(ひらた・こうすけ)

1992年5月1日、北海道北見市出身。カーリングは12歳から始める。北見工大時代にはユニバーシアード代表に選出されるなど世代を代表するカーラーのひとりとなり、17年からSC軽井沢クラブに加入。フィフスとしてチームを支える。趣味は野球とラグビー観戦で、好きなチームは「当然、日本ハム」で好きな選手は「日ハムの全選手と山田哲人選手」。五輪に参加して一番、嬉しかったのは「朝日新聞に自慢の弟と一緒に載ったこと」

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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