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新型コロナワクチン その特性と接種後の世界

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
(写真:ロイター/アフロ)

アメリカの製薬大手ファイザーが開発した新型コロナウイルスに対するワクチンについて、間もなく国内承認される見通しとなりました。筋肉内への注射による投与で、21日の間隔を空けて2回接種となります。

まず、今月中には医療従事者(370万人)に先行して接種が始まり、来月以降、高齢者(約3,600万人)、基礎疾患を有する者(約820万人)、高齢者施設従事者(約200万人)へと順次接種が進められます。

なお、接種の対象者は当面16歳以上とし、過去にワクチン成分で重いアレルギー反応が出た方への使用は認められない方針です。

ワクチンの作用と効果

このファイザー社のワクチンは、ヒトに使用するワクチンとしては新しいタイプのもので、mRNA(メッセンジャー・アールエヌエー)というタンパク質を生成するための設計図が封じ込められています。

これを接種すると私たちのマクロファージという細胞内に取り込まれ、そこでコロナウイルスの表面にある「スパイク」というトゲトゲした突起の部分に該当するタンパク質を作ります。

このトゲトゲが細胞表面に出てくることで、コロナウイルスに対する免疫が誘導され、私たちの免疫細胞がウイルスの侵入を早期に認識できるようになり、コロナウイルスを中和する抗体を大量に産生する準備も整います。

なお、このmRNAは細胞内でタンパク質を作りますが、私たちの遺伝情報が入っている細胞核に入ることはなく、つまり、私たち自身のDNAが書き換えられることはありえません。

このワクチン、臨床研究によって発症予防効果 95%という結果が確認されています。これは「プラセボ(偽薬)群よりも、ワクチン接種群の発症率が95%少なかった」というもので、まあ、ビックリするぐらい高い有効性ですね。少なくとも、インフルエンザワクチンとは比較にならないほど期待してよいと思われます。

また、この臨床研究では、重症化した10名のうち1例がワクチン接種群、9例がプラセボ群だったとのことで、どうやら重症化も予防しているようだと考えられます。

発症を防ぐ効果は明らかですが、感染そのものを防ぐ効果があるかどうか、まだ分かってはいません。ワクチン接種後に感染した場合、周囲に感染させなくなるかも分かっていません。ただ、mRNAワクチンには、侵入早期に反応する細胞性免疫までもを活性化する作用機序があるため、感染予防効果まで期待できるのではないかと言われています。

一方、気になる副反応ですが、接種した部位の痛みは強いようですね。8割ぐらいの人が12~24時間の痛みを訴えています。しかも、かなり痛い・・・ らしいです。また、2回目の接種後には11~16%の方に38以上の発熱があったそうです。免疫をつけている証拠なんでしょう。

さらに、アメリカCDCによると、190万人に1回目の接種をしたところ21人にアナフィラキシー反応が起こったとのこと。接種後30分ぐらいは、気分が悪くなったりしないかを確認し、医療従事者のいるところで休んだ方が良さそうです。

ワクチン接種後の世界

ワクチン接種が進んだあと、私たちの暮らしは元に戻るのか・・・? よく聞かれますが、誰にも分かりません。ただ、先が真っ暗よりは、何らかの道標があった方が良いかもしれません。

シナリオA:国民7割以上への接種が完了し、集団免疫を達成

もっとも楽観的なシナリオですね。ワクチン接種が進んで集団免疫が達成されれば、地域流行しなくなることが期待できます。

米国のファウチ博士は、「ワクチンによる集団免疫は70~90%が目標になる」と言ってますが、その根拠は明白ではありません。実際は、ワクチンの感染防御効果と持続期間によると思いますが、いずれにせよ数年はかかるでしょう。それまでは、次のシナリオBのような状態が続くと考えます。

なお、ワクチン接種が進んでいない国においては、ウイルスが定着して風土病になることも考えられます。こうした国から就労や長期滞在を目的として日本を訪れる場合には、事前ワクチン接種を推奨するとともに、出国前のPCR検査、入国後14日間の自己隔離を求めるようになるかもしれません。

シナリオB:十分な接種率に至らず、国内で散発的流行が続く

比較的安全なワクチンが開発されたと思ってますが、それでも、若者たちが接種してくれるかは不明です。このあたり、冒頭で紹介したように、ワクチンに期待される効果を正確に読み取り、副反応のリスクについて適切に情報提供することが必要です。

報道の在り方などにより、ワクチン忌避の風潮が高まってしまえば、おそらく集団免疫には至りません。ワクチンの感染防御効果や持続期間が不十分であった場合にも、集団免疫には至らないでしょう。

その場合でも、ハイリスク者や医療介護従事者への接種を着実に進めていくことが必要です。あるいは、飲食店や小売店、あるいは観光事業者など接客にあたる方々についても接種に協力いただくことを期待します。

そうなれば、ワクチンによって重症者や死亡者を抑え込んでいくことが期待できます。ワクチン効果の持続期間が短い場合でも、年に1回など定期接種にすることで免疫維持できるでしょう。さらに、一般の方々の間に接種への協力が広がれば、集団免疫に至らなくとも、地域流行の規模や頻度は減らしていけると思います。

こうして、社会全般に求めるような自粛要請は行われなくなり、地域流行を認めたときには、一般にはマスク着用や手指衛生を呼びかけるレベルで済むかもしれません。多少の緊張感は残しつつも、ある意味、社会は日常を取り戻していくことでしょう。

ただし、社会福祉施設や病院は相変わらず大変だと思います。疑われる患者さんが出たときに、念のため、さっとゾーニングを確立したり、そこで設定されたレッドゾーンに入るときの防護具を適切に着脱できたり・・・ といった感染対策が日常になっていくかもしれません。

シナリオC:ワクチン耐性の変異株が発生し、世界的流行が続く

微生物との闘いは、しばしば進化とのイタチごっこになります。治療薬を開発すれば耐性ウイルスが出現し、ワクチンを開発すれば耐性株へと置き換わります。流行している状況で使えば、さらに耐性株が選択されやすくなります。とくに、遺伝子変異の活発なRNAウイルスでは、そのリスクが高まります。

すでに世界では、3種類の変異株を認めています。イギリス変異株は、国内でも市中感染を認めていますが、幸いなことにワクチンへの耐性は生じていないようです。しかし、南アフリカ変異株とブラジル変異株については、従来型の抗体への活性が低下しているようで、ワクチンについても有効性が低下している懸念があります(結論は出ていません)。

ワクチン接種による集団免疫の獲得が、耐性株の出現に間に合わなければ、世界的流行が繰り返されることになります。病原性が強まったり、あるいは小児への感染性が高まれば、より悲劇的なことが生じるかもしれません。

そのとき世界は・・・ このウイルスを封じ込めるしかないでしょう。国際的な協調のもとで人の移動を制限し、活動を自粛して、封じ込めた状態を世界的に維持しながら、ワクチンの再開発とともに、ワクチン接種プログラムを途上国を含めて迅速に実施する・・・ というオペレーション。

あまり想像したくはないのですが、そうしたシナリオも考えておく必要があるかもしれません。まあ、耐性株が広がる前に、さっさと皆が接種して封じ込めるのが、変異の速度も低下するし、制御しやすくなるし、一番だと私は思ってます。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事してきた。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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