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4630万円誤給付で表面化:ネットカジノ問題とは?

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

さて、現在世間を騒がせている山口県で発生した4630万円の誤給付問題ですが、容疑者の男がその全額をネットカジノに使ったなどという証言をしているとの事で、思わぬ形で私の専門に火が付き、現在、マスコミ対応で大わらわとなっておるところです。

現在、容疑者は給付金をネットカジノに使った事の証明として代理人弁護士を通じてネットカジノへの銀行振込記録を提示している状況でありますが、この分野の専門家として申し上げるのならば、あの記録は何の証明にもなっておりません。ネットカジノというのは、ゲームプレイにあたって最初にカジノ事業者に向かってデポジット(入金)を行い、そこから賭けを行うことで遊びます。現在容疑者が提示している銀行振込記録は、その為のデポジット(入金)をカジノ事業者に向かって行ったという記録を示すものであり、ゲームの中で実際にその金額を費消したことの証明にはなっていません。

容疑者がもしそれを積極的に証明したいのならば、カジノが発行する「Win-Lossレポート」と呼ばれる各プレイヤーのゲーム上の勝敗状況を示したレポートを提示することが必要。このレポートに総計で-4630万円が記載されていて、初めて「全額を費消した」ことの証明となります。逆に言えば、このレポートが出ていない現状は未だ「全額費消した」とする容疑者の主張は信用に値する根拠がない、ということになります。

またネットカジノにおいては、デポジット(入金)の他に、当然ながら自身が保有している資金のキャッシュアウト(出金)も可能です。いわゆる典型的なマネーロンダリングの手法となりますが、対策のゆるいネットカジノでは入金元となった銀行口座と異なる出金用の口座を予め別に用意しておき、カジノを経由して右から左に資金を動かすということも有りえます。この場合には、既に容疑者が別の場所に不正に入手した資金を移してしまっている可能性すらあるわけで、繰り返しになりますが「入金」記録だけでは、なんらカジノでの費消を裏付ける根拠とはならないわけです。

一方、そもそも論として、本記事をご覧になっている多くの読者の皆さんにとっては「インターネットカジノ」なるものが、こんなに簡単に利用できてしまっている日本の現状に対する驚きの方が大きいのかもしれません。しかし今回の容疑者がそうであったように、残念ながら日本では合法とされていないはずのインターネットカジノは、既に皆様の手元のスマートホンから365日24日でアクセス可能となっています。

現在、この原稿を書いているのは5月20日ですが、実は毎年5月14日から20日は2018年に成立したギャンブル等依存症対策基本法の定める「依存症問題啓発週間」であり、4公営競技、パチンコ産業、貸金業、銀行業など、ギャンブル依存にまつわる各国内産業はこの1週間で一般への認知普及の活動を行い、就業者への教育を行うなど様々な取り組みを行っています。しかし、海外に拠点を置くネットカジノ業者は当然ながら日本の法律の規制下にありませんから、国内のギャンブル等産業に課されている様々な依存症対策などは講じられていません。要するに、いまや最も日本国民の身近からアクセス出来るという高リスクなギャンブル業態が、制度的に野放し状態で放置されているという状態になっているということです。

国境をまたいで提供されるインターネットカジノへの各種対策に関しては、実はギャンブル専門家として私自身が10年来、その必要性を訴えてきたことがらでもあります。以下の動画には、我が国を取り巻くインターネットカジノの現状から海外事情、そして本来ならばどの様な対策をもってそれらに臨むべきなのかなどを纏めております。今回の事件にあたって、インターネットカジノ問題に関心を持って頂いた方、対策の必要性をご認識頂けた方には、是非一度ご視聴頂けましたら幸いです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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