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埼玉県「置き去り」条例案を撤回:パチンコ業界をスケープゴートとして逃げ切りを図る醜態

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(提供:イメージマート)

子どもだけでの留守番や外出を「置き去り」として禁じる埼玉県虐待禁止条例の改正案が10日、世論からの批判を浴びて撤回に追い込まれた。この改正案は、小学3年生以下の子供を自宅に残したまま保護者が外出することは元より、子供達だけでの登下校などを「置き去りによる虐待」として禁止する内容を盛り込んでいた。SNS上では、この条例案の取り下げに対して安堵の声が多く見られたが、自民党県議団による「私たちの言葉足らずだった」と反省を口にしながらも、改正案の中身自体については「瑕疵がなかったと思う」、「私どもが考えていた方向性ではないところに世論が動いてしまったところがある」とする言い訳には、更に多くの批判的な意見が寄せられた。自民党埼玉県連所属の衆議院議員・黄川田仁志議員は、この条例案を県議団が作成した経緯に関して「元々の趣旨は、パチンコ店などの駐車場で車に長時間子供を放置するような虐待事案を防ぐためであった」との経緯説明をSNS上で行った。条例案に対して未だ巻き起こる強烈な批判を、スケープゴートとしてパチンコ業界に振り向けた形だ。

しかし、この論議背景を理解するにあたっては、パチンコホールにおける子供の車内放置防止対策の取り組みを考慮することが重要である。パチンコ業界は、確かにかつては子供の車内放置事案で問題になったが、その後、業界をあげての積極的な取り組みでその防止施策の促進を図っている。パチンコ業界の業界団体である全日遊連は、今年の夏も子どもの事故防止対策を目的として、「子どもの事故防止特別強化期間」の呼び掛けを行っており、各パチンコホールに対して1時間に1回以上の店員による巡回および、30分に1回を目途とするアナウンスの徹底を呼び掛けている。ここまで徹底した対策を行っている業界は、逆に今となってはパチンコ業界以外にはない。

その結果もあってか、パチンコ業界では2017年を最後に子供の車内放置による重大事故は発生していない。対して、近年報じられる子供の車内放置の重大事案は今年8月に発生したコストコ北九州による事案、昨年9月に発生した保育園の送り迎えに関連する事案も含めて、重大事案として発生しているのはパチンコ業界「以外」のものばかりだ。

当該条例案の作成に関してはSNSなどを中心に「現実認知力の不足」という批判が自民党埼玉県議団に殺到し、条例案の廃案に追い込まれた。このことに対して県議団は「自分達が意図していない方向性に世論が動いた」などと釈明を行っているが、少なくともその後、黄川田議員が開陳した当該条例案作成の「本当の経緯」に関しても、現実を正しく認知していたようには思えない。埼玉県における県議会議員選は、伝統的に立候補者がとても少なく、毎回多くの選挙区において定数以下の候補者しか立たない「無投票当選」が発生していると聞く。その様な現状が、この様な品質の低い議員を生む原因となっているのではないか。私個人は「原則自民党の支持者」と表明している人間であるが、それ以前の問題として「無能な人間は議会に立たせてはならない」と思う。猛省を促したい。

ちなみに、条例案の作成経緯に関してSNS上で経緯説明を行った黄川田議員は当該投稿に関し、後刻、以下の様な釈明を行い元投稿の削除を行っている。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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