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この国の観光政策には絶望しかない、という話

木曽崇国際カジノ研究所・所長

GoToキャンペーンの見切り発車が行われる中、政府は観光戦略実行推進会議を開催し、以下の様な論議行った様です。以下、日経新聞からの転載。

観光回復へ休暇分散策 政府検討、ワーケーション推進

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61952600X20C20A7PP8000/

政府は27日、首相官邸で観光戦略実行推進会議(議長・菅義偉官房長官)を開いた。新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ観光需要の回復に向けて会社員らが混雑期を外して休暇を取れる方策を検討する。菅氏は観光地やリゾート地など休暇先で働く「ワーケーション」の普及に意欲を示した。[…]

ワーケーションを定着させるために、旅行先で働きやすい環境をつくる。観光庁はホテルや旅館でのWi-Fiの整備支援や宿泊施設の改装などを相談できるアドバイザーの派遣を検討する。

世の観光地と観光業者が需要の激減にあえぐ中、よりによって政府の観光戦略を論議する会議のテーマが「ワーケーションの促進」ですってよ。それを推進する為に観光庁はホテルや旅館にWi-Fiの整備支援をするなんて話ですが、今日び自施設にまともにWi-Fi飛ばしてない様な宿泊施設なんてのは、そもそもやる気もへったくれもなくて、コロナ禍発生の有無に関わらず業界内の競争の中で淘汰されて行ったであろう事業者ですよ。そこにWiFi敷設等の支援をしたら「ワーケーション」の推進になるんですか?オメデタイ話ですね。

当たり前すぎる話なんですが、リゾート地等の遠隔地に行って仕事をするというワーケーション普及のボトルネックとなっているのは、WiFi敷設などの観光地側のハード的な問題ではなく、需要の発生源となる企業の労働環境です。政府会合がワーケーション推進の為の支援対象として語った「この期に及んでWi-Fiすら飛ばしてないヘッポコ事業者」は別として、業界の大半を占めるマトモな業者はとうの昔にお客様向けのWi-Fi整備なんてのはやっているわけで、ワーケーション需要の発生元である企業側さえ環境が整えば、そういう需要の受け手になる業者なんて既に世の中にゴマンとあるわけです。逆に言うのならばワーケーション需要の拡大に対して、観光業界サイドとして出来る事などというのは実際は殆どなくて、その大部分は需要の発生元である企業側の「働き方の改革」を推進して貰うしかないんですね。

にもかかわらず、このコロナ禍に際して既に息絶え絶えの観光業界の将来戦略を論議する政府会合で、こんな事があたかも「日本の次なる観光戦略なのだ」みたいな顔して語られるなんてのは、ホントこの国の観光政策には絶望しかないんだな、というお話です。

そんな事よりも、世の多くの観光地は観光需要の大発生地である東京のGoToトラベル適用が、どの様なプロセスと基準をもって始まるのかを注意深く見守っていますよ。いや、この話は東京だけではありません。大阪でも愛知でも需要の発生元となる大都市圏というのは、一方で常に感染拡大リスクを抱えているわけで、実際に大阪/愛知の両地域では感染者数の急増が確認され始めています。今回、東京が急遽GoToトラベルの「対象外」とされたワケですが、じゃあ今後は一定の基準をもって他都市がGoToトラベルの対象から「外される」こともあり得るのでしょうか? そういう、全ての観光業者が息を呑んで見守ってるテーマを語らずして、何がワーケーションの推進じゃ、という感想しかございません。

そもそも、常に感染拡大と隣り合わせで生きて行かなければならない「withコロナ」期は、ワクチンの開発/普及が終わるまで数年単位で明けないワケで、いつ感染拡大が発生して再び「自粛」に反転するか判らない遠方の大都市からの需要に、各観光地は頼ってゆく事はできないわけです。「withコロナ」時代の観光は、同一圏域内の近距離で発生する小グループ観光でベースの需要を確保しつつ、状況によって変わる大都市圏からの需要をボーナス的に受け止める様な営業スタイルに転換して行かざるを得ないわけで、繰り返しになりますがそういう本質的なテーマを語らずして、何がワーケーションの推進じゃ、以外の言葉が浮かびません。

じゃあ、何でそういう本質的なお話が政府による戦略レベルで語れないのかというと、そういう近距離圏&小グループ観光に需要の軸足を移しましょうという話をすると、「俺達を一体どうしてくれんだ」と息巻く業者群が旅行代理業や公共交通業あたりにわんさか湧いてくるわけです。私はこういう業者群を、観光地側で営業を営む業者ではなく、そこに向かって旅客を「運ぶ」ことを生業としている業者群として「観光ロジスティクス」業者と呼んでいるワケですが、我が国の観光業界では伝統的にこの種のロジ側を担う業者の声が圧倒的に大きく、政府施策が常にそこに引っ張られるわけです。

結果、政府は本当はwithコロナ時代において一番論議が必要な近距離&小グループでの観光推進などというテーマには一切手を付けられず、結局、コロナ禍前に存在していた既存のビジネスモデルをそのまま公的資金で補助しますという戦略なきGoToトラベルと、その既存観光の上に「増築的に」新しい需要を発生させましょうという発想で出て来るワーケーション推進しかなかったわけあります。

要は、何であんなワーケーション推進みたいな上っ面な話しかこの期に及んで出来ないのかと言うと、既存観光の「在り方」部分に政府として手を突っ込むと、今までそこで飯を食って来た一部の声の大きな業者群との間でハレーションが発生するから。かくして、この国の観光政策はコロナ禍という絶望的な天災を目の前にしても変われないのでありました。メデタシ、メデタシ…んなわけあるか!

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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