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厚労省研究班調査:国内中高生93万人にゲーム依存の疑い?!が報道される前に

木曽崇国際カジノ研究所・所長

緊急でエントリを投稿します。本日2月6日10時30分より厚労省の主催で「ゲーム依存症対策関係者連絡会議」が行われる予定です。厚労省は当該会議の開催にあたって、事前に使用資料配布を行っているのですが、それを拝読して「こりゃ、エライことになりそうだ」と思ったので早朝に一人パジャマ姿でエントリをしたためております。

当該会合では久里浜医療センターの樋口進センター長が2019年1月から3月に行った中高生のゲーム利用に関する全国調査の結果発表を行うこととなっています。そして、その資料の中には「中高生のゲーム依存95万人」だとか、「その比率が国際的に非常に高い」だとかを示唆する資料が沢山出て来ています。(資料はコチラから参照

おそらくこの会合の後には、各報道機関から「厚労省調査:国内中高生93万人にゲーム依存の疑い。国際的にも非常に高い水準」などという見出しのニュースが出がちだと思うのですが、各報道機関の方々はそういうニュースを書く前に是非本稿を読んで頂きたいですし、またもし不幸にもそういう類の報道が世に出てしまった場合には、是非国民の皆様に本稿を読んで欲しいです。

今回、久里浜医療センターが行ったゲーム依存(正確にはゲーム障害)に関する全国調査には以下のような大きな問題があります。

1) 今回、久里浜医療センターが発表する「中高生のうち93万人が…」とされる数字はあくまで「依存が『疑われる』人」を抽出する為のスクリーニングテストによるものです。今回厚労省から事前公布されている樋口氏のプレゼン資料を見ると、その調査手法(抽出手法)としてyoungによるスクリーニング手法を使っていますが、当該調査手法は数あるスクリーニングの手法の中で最も「疑いのある者」を広範に抽出するものとして知られており、その中から実際に医師の診断の受けて「依存(障害)である」と判断される人はごく一部です。要は、同センターが発表する93万人という数字の中には「本当は依存ではない者」が大量に含まれており、社会的実体と乖離し過ぎている為、本来はこういった社会的傾向示す数字として利用されるのにはそぐわないものです。(本来は「医師の診断」とセットで医療的な目的をもって使われるもの)

2)次に挙げられる問題は、この数字をその他の国で行われた調査結果と比較することの是非です。今回厚労省から事前公布されている樋口氏のプレゼン資料を見ると、彼らが行ったスクリーニング調査の結果を各国でこれまで行われた調査と比較するような資料が存在します。しかし、世の中には異なる複数のゲーム依存の疑いをスクリーニングする調査手法が存在しており、前出のとおり彼らが利用したYoungによる調査手法は、他の手法と比べて常に「大きく」数字が出てしまう手法です。この様に異なる調査手法で算出された「疑いのある人」の数や比率を、諸外国で行われたその他の調査結果と単純比較しその数値の高/低を論ずること自体があってはならないことです。

実は上記2つの問題点は、2014年に同じく久里浜医療センターの樋口センター長が「国内ギャンブル依存の疑いのある者540万人」とする発表を行った時と全く同様の問題です。当時、樋口氏がこの発表を行った後、各専門業界内で上で私が示したような調査上の様々な問題点が指摘され、当時の厚生労働大臣が樋口氏らによる発表内容を否定する会見まで行われています。(参照

また、久里浜医療センターとそのセンター長である樋口氏は、2014年に自らが発表していた540万人という「ギャンブル依存の疑いのある者」の推計値を、その3年後の2017年に自身が行った調査にて「『生涯のうち』ギャンブル依存経験の疑いのあった者が320万人、現役で疑いのある者は70万人」とその数字を大幅に下方修正しています。要は同センターが当初「540万人」などとしてセンセーショナルに発表した数字は精度が非常に低かった上に、あくまで「生涯のうち疑いがあった者」を広範囲に拾うもので、現役で依存状態にある疑いのある人すら正しく掬い上げていなかったということです。

今回樋口氏は当時ギャンブル依存に関してご自身が行ったものと、完全に同じパターンの行動をまさに取ろうとしているワケで、まずもってマスコミ各社の皆様にはそれを前提に同氏の今回の発表を受け止めて頂きたいし、もし本日行われる会議内で質疑応答の時間があるのならば、過去のギャンブル依存に関する調査の時の反省がどのように今回調査に反映されているのかについて、是非質疑をして欲しいと思います。この辺りに関しては、以下リンク先にかつて纏めたことがありますのでご参照ください。

久里浜医療センター院長、樋口進氏の大罪

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9842840.html

その他、色々言いたいことはあるのですが、本日はまずもって厚労省会合が行われるにあたっての緊急のエントリとしてここまでとさせて頂きたいと思います。数字を「盛りに盛った」社会扇動的なオカシナ数字が、マスコミ内で踊らない事を心より祈念しております。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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