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500ドットコム、NPO法人を通じて大阪IR構想に関与した可能性

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

さて、昨日のエントリにて「何故か関連して投稿したツイートが消されてしまう」としてご紹介した、500ドットコムと依存学推進協議会の関係に関して、毎日新聞が本日の朝刊にて大きく報じております。以下、毎日新聞からの転載。

IR汚職 秋元議員 カジノ、依存対策助言 中国企業、NPOに資金

https://mainichi.jp/articles/20191230/ddm/041/010/065000c

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カジノを含む統合型リゾート(IR)事業への参入を巡る汚職事件で、衆院議員の秋元司容疑者(48)=収賄容疑で逮捕=が、贈賄側の中国企業「500ドットコム」に対し、ギャンブル依存症対策への取り組みの必要性を助言していたことが判明した。ドットコム社は依存症研究のため、日本国内のNPO法人にデータや資金を提供しており、助言に従って参入に向けた実績づくりに動いた可能性がある。

ギャンブル関連企業が依存対策研究に対して取り組むこと自体は寧ろ喜ばしいことであり、その資金が適正に日本に持ち込まれたものである限りにおいて(※ただ秋元事件の発端はそれが適正でなかった事にあったワケですが)、500ドットコムがかのNPO法人に資金提供を行う事そのものは別に問題ないのではないかなとは思います。一方で問題となるのは、このNPO法人と500ドットコムの関係が単純な研究用のデータや資金の提供にとどまらない場合です。

懸案となっているNPO法人ですが、元々あった団体紹介のwebサイトが、一連の秋元事件が報道されるようになった今月12日前後に閉鎖。その後、googleのクローラーによるキャッシュデータは残っておりwebサイトの内容は確認できていたのですが、本日30日の朝確認したところキャッシュデータも削除され、なぜか情報隠蔽のような行為が立て続けに行われています。一方、悪いこと(?)は出来ないもので、その種のものというのはアーカイブが当然の様に残されていたりするんですよね。以下、アーカイブに記載されている同会の役員一覧を記録ついでにご紹介いたします。

CABS 特定非営利活動法人 依存学推進協議会とは:役員・スタッフ

理事長 西村 周三(医療経済研究機構 所長)

副理事長 谷岡 一郎(大阪商業大学学長)

理事 船橋 新太郎(京都大学 名誉教授)

理事 勝見 博光(大阪府立大学21世紀科学研究センター客員研究員)

理事 後藤 励(慶應義塾大学 経営管理研究科 准教授)

理事 村井 俊哉(京都大学大学院医学研究科 精神医学教授)

理事 栗田 朗(株式会社博報堂IR / MICE推進室担当部長)

監事 勝見 幸則(守山さくら内科クリニック副院長)

事務局長 吉田 靖司(吉田会計事務所 税理士)

 →アーカイブはコチラから確認できます

そしてこれは、既に一部メディアで報じられている事でもありますが、この依存学推進協議会に名を連ねる幹部は特定の自治体のIR構想に既に深く入り込んで行っているワケです。以下、日刊ゲンダイからの転載。

特捜部の秋元容疑者カジノ汚職捜査 大阪IR構想に飛び火か

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/266883

2017年8月に日本法人を設立した「500ドットコム」は同年10月、京都市のNPO法人「依存学推進協議会」と共同で、ギャンブル依存症対策の研究に着手すると発表。「500ドットコム」が保有するゲーミングユーザー6000万人のデータを解析し、「依存症の事前予防」に取り組む──とアピールしたのだが、このNPO法人の定款に記された2人の理事は、大阪・夢洲地区へのIR誘致に向けた取り組みを進めるために大阪府・市が設置したIR推進会議の委員に名を連ねていた人物と同じ。

上記報道では、2人の理事は過去に大阪府市が設置したIR推進会議の委員に名を連ねていたが、両名は「それぞれ『誤解を与えかねない』として辞任」したので今は問題がないというのが大阪府市のスタンスの様です。しかし、現役の大阪府市IR事業者選定委員会の副委員長である溝畑宏氏(元観光庁長官・現公益財団法人大阪観光局理事長)は、件の依存学推進協議会の設立起案者として業界内ではよく知られていますし;

依存学推進協議会について

http://gambl.seesaa.net/article/401599232.html?seesaa_related=category

(依存学推進協議会は)平成21年以来、京大関係教授、大阪商業大学谷岡一郎教授らや元観光庁長官の溝畑宏、博報堂の泊三夫氏らが集まって設立企画したものという。(『依存学ことはじめ―はまる人生、はまりすぎない人生、人生の楽しみ方』晃洋書房)

また当該NPO法人の役員である村井俊哉(京都大学大学院医学研究科 精神医学教授)は、大阪府が設置するギャンブル等依存症対策研究会の現役の専門委員(先進技術対策担当)として今も名を連ねています。もし前出の既に辞任した委員が「誤解を与えかねない」とするのなら、この辺の委員も同じ扱いになってしまうのではないでしょうか。

令和元年度ギャンブル等依存症対策研究会委員名簿

http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/33611/00000000/R1_members.pdf

そして、何よりもこの様にあらゆる方向から自治体のIR政策に食い込んで行った各委員が自治体の実際の施策に対してどの様に影響を与えたか、が問題です。例えば、件の500ドットコムは彼らの資金供与先である依存学推進協議会と共に以下の様な発表を行っているわけですが;

ビッグデータをギャンブル依存の予防薬に- 500ドットコム、CABSと共同研究

https://news.mynavi.jp/article/20171027-a043/

500.com CEOの潘正明氏は、同システムについて「一般的に依存症対策と聞くと、事後ケアをイメージする人が多いかもしれませんが、われわれが特に重要だと考えているのは事前防止策。ビッグデータや表情を読み取る顔認識技術、クラウドコンピューティングなどの技術発展によって事前予防が可能になりました。

非常に不思議なことに500ドットコムが上記で語っているのと全く同じ仕組みが、大阪府市の作成するIR基本構想案の中に盛り込まれているんですね。そして、この大阪府市のIR基本構想案が作成されていた時期は、依存学推進協議会が500ドットコムとの結び付を非常に強めていた時期と一致します。

ギャンブル依存症に顔認証など活用 大阪府・市がIRで中間骨子

https://www.sankei.com/west/news/170831/wst1708310094-n1.html

大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま)へのカジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致を目指す大阪府と同市は31日、市役所で有識者によるIR推進会議を開き、大阪でのIRのあり方をまとめた基本構想案の中間骨子を提示した。顔認証による入場確認や利用者の行動のデータ化など、独自のギャンブル依存症対策を盛り込んだ。[…]

懸念されるギャンブル依存症対策として、入場確認や利用制限に生体認証などの最先端技術を導入。利用者の賭け金額をデータ化するなどして、依存症者や予備軍を早期に発見する手法を検討する。システム構築の財源にはカジノ収益の一部を充てる。

しかも、上記報道によるとこれらのギャンブル依存対策の為の「システム構築の財源にはカジノ収益の一部を充てる」などとされており、ともすれば大阪カジノの収益がこの依存学推進協議会に横から吸い上げられ、その先に500ドットコムの事業活動へと繋がりかねない状態であることが示唆されています。

そして、何よりも疑念を抱かざるを得ないのが、ここで示された基本構想案を発表したIR推進会議こそが、先述のNPO法人の役員2名が委員として名を連ねていた大阪府市の会議体そのものであり、大阪府市は両名が「それぞれ『誤解を与えかねない』として辞任」したので問題ないと主張していますが、見方によっては彼らの「役割」がそこで完遂されたから辞任を申し出たとも取れる。現時点の状況では「誤解を与えかねない」というよりは、寧ろ「誤解を与えまくってる」というのが実態と言えましょう。

500ドットコムは秋元議員を通じて沖縄や留寿都などへのIR構想に介入しようとしていたとする報道は既に大々的になされている所ですが、私としては沖縄や留寿都など既にIR候補地からは完全に外れてしまっている構想周辺よりも、大阪も含めて上記の様な現役のIR構想に同社が様々な形で関与しようとしていた事実はないのかをチェックすることの方が、これから先の論議としては重要ではないかと思っておる所。

来年からは本格的に国内のIR誘致合戦が開始されるわけですが、このタイミングで一連の報道がなされたことは寧ろ「不幸中の幸い」。もしそこに不正があるとするのならば、全ての膿をキッチリと出し切ってから前に進みたいものです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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