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公金で高級ホテル50カ所開発という愚策

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

意味不明の観光振興施策が始まるようです。以下朝日新聞からの転載。

菅長官、高級ホテル新設めざす「世界レベルを50カ所」

https://www.asahi.com/articles/ASMD75HP7MD7UTFK006.html

菅義偉官房長官は7日、訪日外国人客の受け入れ態勢を強化するため、高級ホテルの建設を後押しする考えを示した。新たな経済対策に盛り込む融資制度などを活用し、「各地に世界レベルのホテルを50カ所程度、新設することをめざす」と述べた。熊本地震の復興状況を視察後、熊本県益城町で記者団に語った。

いやいやいや。我が国ではここ数年全国的にホテル建設ラッシュが続いており、既に供給過剰が心配され始めているところ。関西などでは、ホテルの収益性を示す指標であるRevPar(レヴパー)が大きく下落し始めていることが報告されるなど、実は一部地域では「底抜け」の傾向が見え始めています。

過剰供給のツケ、「関西ホテルバブル」に変調 ホテルリートの数値が悪化、安値競争も懸念

https://toyokeizai.net/articles/-/313899?display=b

ホテルに特化した不動産投資信託(リート)のいちごホテルリート投資法人が9月に発表した2019年7月期決算(2019年2~7月)によると、同法人が大阪市および京都市に2棟ずつ保有するホテルの「RevPAR」が前期比でそれぞれ19%減、16%減に沈んだ。

そんな現行市場に対して財政投融資を利用して政策的に高級ホテルを全国に大量にブッコむというという事らしいですが、かつてのリゾート法下の公共主導の開発が一つとして黒字化せず、オール赤字のまま破たんに向かって行った当時の状況が目に浮かびます。それ完全に市場の需給バランスを崩し、また市場の需給関係の中で成立している民業としてのホテル業を痛めますよ。

実は、2018年に成立した我が国のカジノ合法化と統合型リゾート導入を実現するIR整備法にも、今回政府が目指す高級ホテルの建設を後押しする施策が埋め込まれています。

第二条 この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設と第一号から第五号までに掲げる施設から構成される一群の施設(これらと一体的に設置され、及び運営される第六号に掲げる施設を含む。)であって、民間事業者により一体として設置され、及び運営されるものをいう。[…]

五 利用者の需要の高度化及び多様化に対応した宿泊施設であって、政令で定める基準に適合するもの

現在、政府はIR整備に関する基本方針の中で、上記条項に基づいて統合型リゾートに世界レベルの高級ホテルの設置を求めて居るワケですが、IR整備法はかつてのリゾート法の失敗の反省に立ち、初期の論議の頃から「民設民営」を前提として法整備が進んできたのが実態。一方で、我が国の賭博法制は公営賭博を旨としていたワケで、2018年IR整備法の制定時に最大の論点となり、また法案審議上の最も難しい課題となったのがこの「民設民営」規定でありました。

その様に、ほんの数年前のIR整備法制定時には「かつてのリゾート法の反省に立ち、多額の公金が施設開発に投入されることはまかりならん」と主張していた政府が、なぜか今回はそれこそ一般の民間市場の中で成り立っているはずのホテル産業に多額の税投入を行う方向で進み始めてしまったわけで、正直、あの時の論議は一体何だったのか、と。

繰り返しになりますが、この施策は完全に市場の需給バランスを崩すことになると思いますよ。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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