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日本カジノ来訪希望はたった7%?「数字は嘘をつかないが嘘つきは数字を使う」

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

「数字は嘘をつかないが嘘つきは数字を使う」と言ったのは 政治アナリストの伊藤惇夫さんだったでしょうか。以下のようなツイートが流れてきています。

立憲民主党の公式アカウントにおいて展開されておるこの動画、同党の「コミュニケーション本部つながる担当」という肩書で登場しておる山岸一生氏がこう宣います。

政府はカジノを始める理由は外国人観光客の増加と地域経済の活性化だと言っています。オリンピックの後の景気の落ち込みや、人口減少が予想される中、IRは外国人観光客を呼び込むことができ、経済・景気の落ち込みの緩和材料になると説明しています。しかし、外国人観光客増加の効果は限定的と見られています。日本政策投資銀行による調査では、日本でカジノを利用してみたいという外国人観光客は7%に過ぎません。

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上記主張において立憲民主党が参照しているのは、日本政策投資銀行と日本交通公社が毎年共同で行っている「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査」というレポートです。本レポートは、韓国、中国、台湾、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、アメリカ、オーストラリア、イギリス、フランスの12カ国に居住する海外旅行経験のある男女(20歳から59歳)、約6,200人を対象に毎年行われているインターネット調査であります。

本調査ではここ数年、日本の統合型リゾート導入に関連する設問が継続的に設けられており、2017年度版の調査結果では以下のような数字が出ています。

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立憲民主党が引用している「日本でカジノを利用してみたいという外国人観光客は7%に過ぎない」としている数字は、上に示した表のうち下部に示されている設問結果、「IRのどの施設に行ってみたいですか?」とする設問に対する回答です。確かに全体の7%という数字が見えますね。ただ、皆様も既にお気づきの様に、実はこの設問はその一つ上の「統合型リゾート(IR)ができたら、行ってみたいですか?」に関して行われた副次的な質問です。

そして一目瞭然のように、「統合型リゾート(IR)ができたら、行ってみたいですか?」という設問に「行ってみたい」と答えた層は「是非行きたい(24%)」、「機会があれば、行ってみたい(36%)」を合わせて総計で60%にも及びます。更にいえばこの傾向は欧米圏よりもアジア圏に居住する回答者の方が高い傾向があり、アジア圏全体では「是非行きたい(27%)」、「機会があれば、行ってみたい(42%)」の総計で「行ってみたい」と答えた層が69%にも及びます。当然ながら我が国を訪れる外国人観光客は、その大部分がアジア圏域から来訪する観光客でありますから(約85%)、上で日本政策投資銀行が行った意向調査を実際の訪日外国人観光客の構成比に合わせてウェイトバック集計した場合、全体の「日本のIRに行ってみたい」と答えた層の比率はより高くなります。

立憲民主党が何をやったかというと、上記の様な調査においてひとつ上に設定されていた「統合型リゾート(IR)ができたら、行ってみたいですか?」という設問の集計結果を無視した上で、「IRのどの施設に行ってみたいですか?」という設問で「カジノ」と答えた層の比率だけを自分達の主張に都合よく引用し、「外国人観光客増加の効果は限定的」だとする言説を広めているワケです。

そもそも2018年に成立した我が国のIR整備法は、統合型リゾート内に設置されるカジノ施設の規模を、全体施設面積に対して3%を上限とするものとして定めています。要は統合型リゾート施設の97%はカジノ以外で構成される複合商業施設なのであって、そこに訪れようとする外国人観光客の大多数がIRのカジノ以外の施設への訪問を希望しているという実態は、統合型リゾートがカジノだけの魅力ではなく、施設全体の複合的な観光魅力によって集客を行う施設になるという証左と言って良いのではないかと思います。

ということで、最後に皆さん、ご唱和ください。

「数字は嘘をつかないが嘘つきは数字を使う」

以上、よろしくお願い申し上げます。

※)「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査」は最新となる2019年度版が既にリリースされております。詳細にご興味のある方はそちらを合わせてご参照ください。

【追記2019/11/30 14:17】以下のようなツイートを立憲民主党および同党コミュニケーション本部つながる担当の山岸一生さんにご送付しております。よろしくお願い申し上げます。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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