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渋谷ハロウィン問題を解消する為の唯一の方法

木曽崇国際カジノ研究所・所長

さて、今年もハロウィンシーズンがやって参りました。そして、昨年軽トラ横転というセンセーショナルな事件が起こった渋谷は、厳戒態勢でハロウィンに臨みます。以下、ハフポストからの転載。

ハロウィンの渋谷、どうなる? 条例で路上飲酒禁止、警備や啓発に1億円以上を投入へ

https://www.huffingtonpost.jp/entry/nodrinking-shibuya-halloween_jp_5db3bda8e4b079eb95a3d116

今年もハロウィーンがやってくる。若者たちが集まる東京・渋谷では昨年、トラックを横転させたり、女性の体を無理やり触ったりといった「暴走行為」で逮捕者が続出。渋谷区は今年から新たに条例を作り、ハロウィーンの期間中、渋谷駅周辺の路上や公園での飲酒を禁止に。警備や啓発にも1億円を超える予算を投入する。

条例の対象となるのは、若者たちが集中するスクランブル交差点からセンター街周辺。期間は25~27日と31日の午後6時~翌朝5時(27日は午前0時まで)で、民間警備員が拡声器でアナウンスして注意喚起をし、区職員が3人1組でパトロールし、飲酒している人に直接指導する。

渋谷スクランブル交差点の交通整備に出動する警察隊が「DJポリス」などと親しみを込めて呼ばれたのも今や昔、今年の渋谷の厳戒態勢は強烈で、現地の警察官も相当ピリ付いているのが実態。そもそもは「スクランブル交差点の開放とストリートカルチャーの発信」という政策目標を引っ提げて意気揚々と渋谷区政のトップに立った長谷部区長でありますが、今となっては「渋ハロの混乱は俺のせいじゃない」と言わんばかりに「渋谷ハロウィンは自然発生的に起こったもの/区としては事前に注意を呼び掛ける事しかできない」などと完全にその責任を放り投げ、ケツを捲りに徹している状況です。

冒頭でご紹介した記事にもある通り、今年の渋谷ハロウィンは本6月に成立した「路上飲酒禁止条例」に基づく路上飲酒の禁止や、1億円の区税を投入した路上警備の増強などを行っていますが、そういういわゆる「マイナス方向」の施策ばかりをいくら積み上げても、区民からの渋ハロに対する悪いイメージは変わらないでしょう。

特に昨年のトラブル発生以降、渋谷区の施策が圧倒的に間違っているのは、この施策を渋谷ハロウィンで発生する暴力/破壊行為、ゴミ問題などの表層的な「現象面」での問題としてしかとらえていない事。勿論、各現象は問題ではあり個別対応も必要なのですが、それらを防止する為にどんな重厚な施策を打ったところでそれら問題が「ゼロ」になることは無いわけで、そういう施策だけを積み重ねたところで住民の不満が解消されることはないんです。

寧ろ、渋谷区政に関わる方々が気付かなければならないのは、今渋谷で発生している問題が「オーバーツーリズム」に纏わる典型的な事案なのだということ。オーバーツーリズムとは、現在京都や鎌倉、浅草などを始めとして各観光地で発生している「観光客集まり過ぎ」問題であります。これは拙著「夜遊びの経済学」(光文社新書)の中でも繰り返し論じてきたことでありますが、観光客というのは根源的に「地域にとってはマイナス」からスタートする存在です。以下、「夜遊びの経済学」からの転載。

観光客は「ただそこに来る」だけでは経済効果は生まず、むしろそれを受け入れる側の地域にとっては、一義的に「コスト要因」に他ならない。観光客が訪問先でゴミを発生させれば、それを処理するのは地域の自治体であり、その原資は地域に住む住民の治める税である。観光客が歩く公道、使用する公衆トイレは全て自治体財源によって維持管理される公共物であり、ましてや観光客を迎え入れる為に新たなインフラ整備を行うということになれば、当然そこには地域住民の血税が投入されることとなる。

そのような様々な財源部分の話をさっぴいたとしても、そもそも域外から得たいの知れない人間が多数来訪し、道端でワイワイガヤガヤと大騒ぎし、私有地や進入禁止地域にまで入り込み、「旅の恥じはかき捨て」とばかりにトラブルを巻き起こすなどというのは、地域の住民にとって必ずしも歓迎されるものではない。はっきり言ってしまえば、観光客というのはそこに根ざして生活する人間にとっては、根源的に厄介者であり、迷惑以外の何ものでもないのである。

観光業界に生きる人、観光行政に関わる人というのは多くの場合、観光振興は「地域の魅力を発信すること」であり、同時にそれは「地域にとって喜ばしいこと」であるといった間違った考え方から論議を始めることが多いのですが、観光に関わる人達がまず自覚しなければならないのは「観光客というのは原則的に地域にとってはコスト」であり、「観光振興というのは基本的に地域にとってマイナスからのスタート」であるということなのです。そして、本書ではこのマイナスから始まる観光政策に関して、以下のように論議を転換させているわけです。

繰り返しになるが、観光客が来るという事は、根源的に地域にとってはコストである。観光客を多数誘致したにも拘わらず、そこで発生する様々なコストを上回る経済効果が地域にもし生まれなければ、観光施策はただ地域のリソースだけを浪費して、リターンを生まないマイナスの政策になってしまう。国や地域がもし自然や歴史など収益を生みにくい観光資源を「売り」とするのなあば、逆に「そこからどうやってお金を生み出すのか」という仕組みづくりにもっと真剣に取り組む必要がある。そして、この「消費」の観点から観光政策を捉えた時、ナイトタイムエコノミー振興の重要性が見えてくる。

上記のような観点から見ると渋谷ハロウィンの問題点が見えてくるわけです。それは、同イベントが圧倒的に「路上イベント」としての性格が強すぎるという点に他なりません。渋谷ハロウィンの現地に足を運んだことがある人は一目瞭然だと思いますが、渋谷ハロウィンは、路上に集まった仮装客達が道行く人達とハイタッチをし合い、ともに写真を撮り、なんならLINEを互いに交換してナンパをするのが目的となっているイベント。もしくはそういう、いわゆる「パーティピーポー」達の生態を部外者として傍観し、そこで発生するトラブルを観る事を楽しみにしている野次馬達が集まるイベントです。

一方で、このような強い路上イベントとしての性格を持ってしまって居る渋谷のハロウィンは、殆ど街に経済的貢献をしていないのが実態。儲かっているのはコンビニや飲食物を扱っている一部の量販店、および路面に向けて店舗を構えて飲食物を外販できる大通りに面した飲食店のみ。その他の店は店内ガラガラか、もしくは「どうせ商売にならないから」と夕刻になると早々に店を閉めてしまうのが現状です。この様なイベントに地域が賛同するわけがありません。そもそも街の経済にプラスが出るどころか、寧ろ経済的にはマイナスにしかなっていないのですから。

渋谷区としては、勿論、ゴミ問題や暴力問題、トイレ不足など個別事象に対応することも必要ですが、問題を根本的な部分で解消するためには渋谷ハロウィンそのものが持っている性質上の問題点に手を入れて行くしかない。要は「安い客」を減らすことで地域に発生している外部不経済を抑制しつつ、一方で客の消費力を高めることで地域に発生するベネフィットを大きくして行くこと。これが、オーバーツーリズムに対する「唯一の解法」の解法なのです。

一方で渋谷ハロウィンの魅力は皆で仮装をし、街を練り歩き、写真を取り合うことでありますから、いわゆる「街歩き」イベントとしての魅力は維持しながら、一方の「路上イベント」としての性質を低減させてゆく事が必要です。その為に考え得る施策が、渋谷ハロウィンの「街コン」化であります。

街コンというのは、元々は婚活パーティの流れから誕生した街ぐるみのイベントで、共通チケットを発行する複数の店舗を男女グループが練り歩きながら、交流を深めるという「街歩き×男女の出会い」ともいえるイベントでありますが、実は現在では「男女の出会い」という要件は必ずしも必要なく「街歩き×交流」というキーワードで広く地域振興の手段として利用され始めている施策となっています。例えば、神田・日本橋エリアではワイン好きの人達が域内飲食店を巡りながらワインと交流を楽しむ「神田・日本橋ワイン祭り」というイベントが毎年10月に行われていますが、これも街コンの一種です。

現在、路上イベントとしての性質のみが強調されている渋谷ハロウィンに対して、ポジティブな方向で解決策を与えるのなら、現在、屋外のみで滞留している人の流れを各商業店舗を起点とした「街歩き」の方向へと振り向けるこの種の企画が必要となる。そうやって、現在コストとベネフィットの関係がマイナス側に向かって傾いている渋谷ハロウィンの「天秤」をプラスの方へと傾けて行くしかないのです。

残念ながら今の渋谷区には、本問題をそういうポジティブな方向でコントロールしてゆく知恵がない。というか、そもそも様々に発生している問題を「渋谷区のせい」にされるリスクを嫌い、渋谷ハロウィンというイベントそのものに積極的に介入することを放棄してしまっているのが実態。残念ながらそのスタンスでは一生、渋谷ハロウィンの存在が渋谷の街にとってプラスに転換することはないだろうな、と非常に残念に思っておるところです。

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国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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