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攻略法詐欺とオカルト必勝法について

木曽崇国際カジノ研究所・所長

アサ芸プラスで以下のような連載が始まており、注意深く見守っておるところです。

伝説のパチプロ集団「梁山泊」25年目の真実

https://www.asagei.com/excerpt/133912

パチンコ梁山泊といえば、1990年代に一世を風靡したパチプロ集団ではありますが、2000年以降、「梁山泊」の名を冠に配したイカサマな攻略法を高額教材として販売するなどの攻略法詐欺が横行、2007年に家宅捜索が入り関係者12人が逮捕されるという事件が発生しました。上記、アサ芸プラスの連載内では、梁山泊の元リーダーを名乗る人物が記者の取材に答えており、当時の事件を総括しながら、彼が引退後に「梁山泊」の商標権を売却した先が詐欺師グループであっただけで、自分達は潔白であるとの主張を行っておるようです。

一方で、この元リーダーを名乗る御仁は、当連載内で「梁山泊」を再始動させ、我が国のカジノ合法化に合わせて、今度はカジノ攻略に挑みたいとの宣言を行っております。別にカジノゲームの攻略をすることそのものは構わないのですが、当該記事内で同氏は

過去にないカジノ攻略法の講習カリキュラムや指導方法を準備しています。私個人としては、大人気の「バカラ」の攻略方法が第一と考えています。

などというコメントを発しており、私としては「うーん」と頭を抱えておるところ。勿論、世の中にまだ発見されていない新しいゲーム攻略法が存在する可能性は否定できないのですが、一方でカジノゲームとしてのバカラの歴史はおよそ500年と非常に古く、凡そ殆どの「攻略法」と呼ばれるものは先人達が試しています。その結果、現在までのところ「バカラにはゲーム内に設定されている控除率に打ち勝てるようなゲーム手法はない」とされているのが業界的な常識であって、それを「攻略法」として講習カリキュラムとして「販売する」となると、また過去に梁山泊が起こした攻略法詐欺みたいになってしまいはしないのか?と心配しておるところ。関係者の方、もしアサ芸プラスに語っている様に、皆様方が本当にプロプレイヤーとして誠実にご商売をされておるのであれば、慎重に進めて頂きたいと思うところであります。

一方でこの攻略法詐欺と非常によく似たもので、世の中には「オカルト必勝法」と呼ばれるものが存在します。オカルト必勝法とは、確率や統計などギャンブルの期待値を決定づける様々な数学的要素を無視し、迷信やジンクスの様なものでゲームを「攻略」しようとするもの。この種のオカルト攻略法というのは、ギャンブルの世界には沢山存在しており、例えば「数字の『八』は末広がりだから縁起がいい」的な明らかにそれが迷信に基づくものであることを認知可能なものから、一見して確率論や統計学を「装い」ながら、実際は一切その根拠が存在しない「必勝法」まで、沢山存在します。

この様な「いわゆる」オカルト必勝法は、ゲームの各プレイヤーにとっては自分なりの「打ち筋」を考えながらゲームを楽しむという意味で、ギャンブルが提供する楽しみの一つであるわけですが、一方で先述の通り一見して確率や統計などの根拠を装いながら商業的に提供されているケースが多々ある。例えば、パチンコの世界では谷村ひとし氏という著名な漫画家が居るワケですが、同氏はパチンコ業界では最も名の知れた「オカルト攻略法」の伝道師としても知られ、いわゆる「パチンコ攻略誌」と呼ばれる雑誌の中の連載マンガで、それらオカルト必勝法でパチンコが勝てるかのような著述を数十年続けている。その上、ご本人は実際にそのオカルト必勝法で「トータルでウン千万円勝っている」と主張を続けているワケです。

(※勿論、同氏が強運の元に生まれており、数学的には「勝てない」方法でたまたま勝ってしまっている可能性はゼロとは言い切れないのが悩ましいところなのですが)

この様な商業的に提供される数学/統計的な根拠に基づかないオカルト必勝法というのは、冒頭でご紹介した攻略法詐欺のように消費者に高額な授業料や教材、分析ソフトなどを購買させるものではありません。一方で、その「攻略法」の提供をもってマンガ誌を売ったり、有料会員制サイトを運営したりで収益化をしているのも事実なワケで、より広く多数に少額の商品を販売しているという面では異なれど、本質的に攻略法詐欺とどの様な質的違いがあるのかといった論議が出て来るのも当然の事であります。

また、特にこの様なオカルト必勝法が問題となってくるのは、ギャンブル依存対策の文脈です。ギャンブル依存対策では、世の中で提供されている様々なギャンブルの数学的、統計的理解を消費者に則すことが「依存防止」の為の有効な手段になるとして、広く諸外国で取り入れられています。一方、今回ご紹介したオカルト必勝法というのはこの種の依存対策とは真逆にある存在であり、消費者がそれで「勝てる」と誤認してゲームに取り入れれば取り入れる程、数学/確率論上はプレイヤーの「負け」を助長する可能性がある。その結果、この種のオカルト必勝法が、ゲームにハマり込んだプレイヤーを経済的に追い込んでゆく原因となっている可能性もあるわけです。

実はこの種のオカルト必勝法に類するものは、パチンコやカジノのみならず、競馬やボートレースなど公営競技の世界においても広く存在しているモノ。これまでは「プレイヤーもそれで楽しんでいるんだし…」という文脈の中で、社会的に(業界的に?)容認されてきたものではありますが、ギャンブル依存対策の推進が広く叫ばれている今日において、これらオカルト必勝法によって「ゲームに勝てる/ゲーム上で優位に立てる」と消費者を誤認させるような商業的な発信行為が、果たして適切であるのかどうかに関しては、業界全体で改めて論議をしてゆくことが必要なのかなと考えているところであります。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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