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ブロッキング法制:知財本部にはそろそろご退場を頂くべき

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

さて、昨日の知財本部のタスクフォースでは、ブロッキング法制を巡って大紛糾し、有識者会議のとりまとめ文書の作成そのものを断念する事態にまで至った模様です。以下、日経新聞よりの転載。

ブロッキング法制化で大激論、異例の取りまとめ断念

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36529840W8A011C1000000/

政府の知的財産戦略本部が2018年10月15日に開催した「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)」第9回会合は、ブロッキング法制化の棚上げを訴える弁護士の森亮二委員ら9委員と、何らかの報告書を提出したい座長らとの溝が埋まらず、3時間半におよぶ激論の末「座長預かり」で散会になった。次回の会合は未定で、このまま検討会議が終了する可能性もある。

タスクフォースを取りまとめる立場に居る、村井純共同座長(慶応大学院教授)からは「報告書の表紙タイトルも『中間まとめ』でなく『中間まとまらない』にする」のはどうかなどという名言が飛び出すなど、非常にエキサイティングな会合となった模様。昨夕、私の手元にも現地からのリアルタイム報告が刻々と送られてきていたわけですが、それがあまりにも面白く、別途参加していたミーティングに一切身が入らないという非常に残念な事態に陥っておったところです。

ということで、知財本部の当該タスクフォースの報告書もとりまとまらず、次回会合の予定も定まらず散会になったことで、ブロッキング法制化に関する論議は「仕切り直し」になる可能性が高まっているワケですが、この展開を予想してか、今度は以下のような制度検討が浮上してきています。以下、毎日新聞からの転載。

海賊版誘導 「リーチサイト」規制へ 運営者らに罰則

https://mainichi.jp/articles/20181014/k00/00m/040/151000c

文化庁は、漫画や映画などの海賊版サイトにインターネット利用者を誘導する「リーチサイト」を規制するため、著作権法を改正する方針を固めた。リーチサイトにリンク(URL)を張る行為は、これまで違法ではないと解釈されていたが、これを著作権の侵害行為とみなし、著作権者が掲載の差し止め請求をできるようにするほか、提供者らに対する罰則規定を設ける。来年の通常国会に同法改正案の提出を目指す。

上記のリーチサイト規制も、そして冒頭のタスクフォースが崩壊する直接の引き金となった「海賊版サイトの運営者情報開示を求める裁判(参照)」も同様なのですが、そもそも今回のブロッキング法制論議は「海賊版サイトに対して、あらゆる対抗手段を講じたが有効な対策がなかった」ことを前提として、最終手段として憲法が定める「通信の秘密」を侵す可能性のあるサイトブロッキングの制度化論議を行ないましょうという建付けで始まっているハズなのですが、上記のように別の対抗手段が後付けで続々挙がって来ている状況そのものが、何やらオカシナ事になっていませんか?と思わざるを得ないわけです。

そして、これは1ヶ月ほど前に書いた私自身のエントリでの主張の繰り返しなのですが、そもそもあらゆる国際条約や各国規制をもって我が国と同様に保護されており、裁判も含めて経済的な回復手法が存在している知財保護のみを根拠としてブロッキング法制を語ることが自体が、正直、スジ悪な論法なのであって、ブロッキング法制の「本丸」はやはり「本当に対処手段のない」海外オンライン賭博への対処論議を中核に置くべきだと思うわけです。詳細は以下エントリを参照。

ブロッキング制度はネット賭博にも適用せよ

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9902605.html

ところが、上記毎日新聞が報じたリーチサイト規制にしても今回、おそらく「仕切りなおし」になるであろうブロッキング法制にしても、未だ知財保護を超えない範囲での論議しか行なわれていないわけで、私的には結局ここが「混乱の中核」だとしか思えないんですね。

そもそも考えてみて下さい。例え知財保護をキッカケに始まった論議だとしても、実際に何らかの制度下でサイトブロッキングの対処を行なうのは電気通信事業法下で事業を行っているISP業者であるわけです。これらISP業者を規制する電気通信事業法を所管しているのは、知財を預かる経産省や文科省ではなく、総務省であるわけで、本来この論議は海賊版サイトだけに問題を矮小化するのではなく、海外ネット賭博、海外ポルノ、銃器や違法薬物の販売サイトなどを包括した重篤な有害サイトへの対策と、憲法第21条に定められる「通信の秘密」、そして電気通信事業法第3条に定められる「検閲の禁止」との関係を真正面から論議すべき案件なのではないでしょうか?

にも関わらず、本件に関しては知財畑の方々が「己のシマ」を主張してずっと丸抱えをしてきているわけで、結局、あるべき論議の形がいつまでも実現しないどころか、あらぬ方向に突っ走って紛糾するばかり。私としては、この話、いつ「本丸での論議」が始まるんですか?としか申し上げようがないワケです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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