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試される国民:新・国立競技場問題

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

さて、先のエントリでもご紹介した新・国立競技場問題の続きです。先の記事をまだ読んでいない方はコチラからどうぞ。

「ポスト五輪」の新・国立競技場問題

https://news.yahoo.co.jp/byline/takashikiso/20181013-00100277/

現在、建設中の新国立競技場は、2020年の東京オリンピック終了後、更に追加投資を行い「球技専用化」の改修を行なうことが大筋の路線として政府内で論議されている訳ですが、前回のエントリではこの「球技専用化」は実質的にサッカー専用化であるということを解説しました。そして、実はこの「球技専用化」という決断の背景には、国立競技場周辺では陸上競技の国際大会誘致に求められるウォーミングアップ用のサブトラックを開発する用地が確保できない為、やむを得ない措置であるなどということが語られています。以下、昨年7月の毎日新聞よりの転載。

新国立競技場 大会後は「球技専用」でまとまる

https://mainichi.jp/sportsspecial/articles/20170727/k00/00m/050/097000c

WTの会合は昨年9月以来、10カ月ぶり。陸上競技の国際大会などを開催するにはサブトラックが必要で、五輪では明治神宮外苑の軟式野球場に仮設する。大会後に取り壊すサブトラックを常設できるか否かが、新国立競技場に陸上トラックを残すか、球技専用とするかの焦点だった。

会合に先立つ25日、新国立競技場の整備主体となる日本スポーツ振興センター(JSC)の大東和美理事長らが軟式野球場を管理する明治神宮を訪問。用地の提供は難しいとの回答があった。代替地の見通しも立たず、陸上競技場としては機能しなくなるため、WTは「球技専用がふさわしい」との意見で一致した。

国立競技場の隣接する地域には広大な明治神宮保有の用地があり、ヤクルトスワローズが本拠地とする神宮球場も含めてこちらは「民営の」スポーツ施設集積地として運用が行なわれています。以下は、国が保有する国立競技場の用地と、明治神宮所有地の関係図。

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(出所:google mapを元に筆者が作成)

今回、国立競技場を管理する日本スポーツ振興センターが、お隣の明治神宮保有の用地、すなわち上図の青で囲んだ部分の一部をサブトラック開発用地として国に提供することは可能か?との問合せを行い、明治神宮側がそれを拒否した。それ故に、新国立競技場は陸上競技場としての利用を諦め、更なる追加投資を行なった上で球技専用化する必要があるのだという論理展開であります。

みなさん、上記報道を読むと「へー、そうなんだぁ」と納得しちゃいがちですが、もう少し落ち着いて上記の周辺図を見てくださいね。「用地がない」と言いますが、ココって何でしたっけ?

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(出所:google mapを元に筆者が作成)

そうですね、秩父宮ラグビー場ですね。当該ラグビー場は、1947年建造のラグビー専用の「国立の」スタジアムでありますが、国立競技場と同様に老朽化が進んでおり来年日本で開催されるラグビーW杯での使用を最後に建て替えが決定しております。この施設は2020年までに取り壊され、東京五輪時には国立競技場の駐車場として一時的に利用され、その後、改めて新しい施設が建設される予定になっているんですね。しかも、この新しい施設の建て替え、実は以下のような前提で論議が進んでいるんです。以下、サンスポからの転載。

神宮外苑再開発、新秩父宮の建設先行で調整 球場は後

https://www.sanspo.com/sports/news/20170728/oly17072812560001-n1.html

2020年東京五輪・パラリンピックを契機とした東京・明治神宮外苑の再開発で、当初の計画から順番を入れ替えた形で秩父宮ラグビー場、神宮球場の順に建て替える方向で調整を進めていることが28日、関係者への取材で分かった。ラグビーの試合が実施できない期間を短縮する狙い。東京都や日本スポーツ振興センター(JSC)、地権者の宗教法人明治神宮などが合意を目指している。

調整中の案では神宮球場に隣接する第二球場を解体し、その跡地に東京五輪後からラグビー場を建設する。現在の秩父宮は新ラグビー場が完成するまで利用し、神宮球場は秩父宮の跡地に整備する。

上記記事が報じている通り、実は秩父宮ラグビー場は解体後、現在の場所で再建されるわけではありません。明治神宮が現在保有している民間用地である神宮第二球場の用地と、現在のラグビー場の用地を交換した上で新たな施設として再建されるわけです。上記各施設の位置関係を地図上で示しますと、以下のようになります。

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(出所:google mapを元に筆者が作成)

えーっと、冒頭のお話に戻りますと国立競技場を「球技専用化」しなければならない理由は、陸上競技の国際大会誘致に必要なサブトラックの建設用地がないからというお話だったかと思うのですが、国立競技場のすぐお隣に見事に国立の用地が誕生するわけです。スポーツ庁のワーキングチームは何でここをサブトラックとして利用することを検討せず、その向こう側で明治神宮が保有している民間所有の土地の査収が「出来る/出来ない」の論議なんかをしているのでしょう。

この論議の関与者達は、全ての人間があそこの用地が国有のものとして五輪後に使えるようになる事は知っているわけですが、何故かこの用地は「ラグビー」専用の施設として開発されることが前提で口を噤んだまま、一種の「聖域化」された状態で論議が進んでいる。そこに何やらオカシナことが起こり始めているわけですが、この一連の新国立競技場の追加改修論議って、一体、どの辺の方々の顔色を見ながら進んでいるのでしょうかね? 僕には皆目見当が付きません(棒

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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