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「ポスト五輪」の新・国立競技場問題

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

国立競技場の問題は、当初のザハ案から現在の隈研吾案に至るまでのすったもんだ、またその一連のゴタゴタで短期工事にならざるを得なかった故のブラック労働環境問題と、未だ何かと論争の多い開発となっています。そして今、これに加えて更なる新たな論争が巻き起こりつつある。それが東京オリンピック開催後の国立競技場の利活用問題です。

五輪後の国立競技場の利活用に関しては、昨年末の時点で以下のような報道がなされています。以下、日経新聞からの転載。

新国立競技場、五輪後は球技専用に 22年にも使用開始

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO23484050U7A111C1CR8000/

政府は14日、2020年東京五輪・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場(東京・新宿)について、大会後はサッカーやラグビーなどの球技専用とすることを正式に決めた。民間企業に運営権を売却し、仮設設備を撤去して座席を増設するなどし、早ければ22年後半にも使用できるようにする。

ここでは「大会後はサッカーやラグビーなどの球技専用とする」という表現になっていますが、実は国立競技場の隣には秩父宮ラグビー場という施設が存在しており、ラグビーの競技団体側はコチラを主たる競技施設として利用することを既に表明しているのが実態。すなわち五輪後の国立競技場の「球技専用」化は、実質的にはサッカーの為の追加改修であり、ここに更に巨額の設備投資がなされることとなります。

勿論、多少のコストがかかったって、それが有効に利用されるのならば許容されるケースはあるワケですが、問題なのはここに来て東京都内で別のサッカー専用スタジアム構想が持ち上がってきたこと。以下、スポーツ報知からの転載。

代々木公園に4万人規模サッカースタジアム建設へ…「渋谷未来デザイン」が発表

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180913-00000152-sph-socc

渋谷区の外郭団体である一般社団法人「渋谷未来デザイン」が13日、渋谷キャストで行われたイベントで、民間主導で都立代々木公園内に多目的スタジアムの建設を目指すことを発表した。「スクランブルスタジアム」と名付けられた同計画は、ライブやイベント会場に加え、東京23区内初の大規模サッカー専用スタジアムとしての利用を見込んでいる。

こんな話が別途出てくると、当然ながら「いやいやいや」となるわけです。上記の渋谷スタジアムの開発構想がたてられているのは、東京都渋谷区の代々木公園B地区と呼ばれるゾーン。この渋谷スタジアムと国立競技場の位置関係は以下のようになります。

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東京にお住まいの方は感覚的に判ると思うのですが、代々木公園と国立競技場は原宿を挟んでタクシーだと10分以下、ちょっと頑張れば徒歩でも行来できるような、文字通り「目と鼻の先」であります。その目と鼻の先に「ほぼ」サッカー専用となる国立競技場と、4万人収容規模のサッカー専用スタジアムの構想が同時並行的に進んでいる、と。そこに何やらオカシナことが起こり始めているのが見て取れるわけです。

その事をtwitter上で指摘したところ、実は私のところには以下のような意見が続々と集まってくるわけです。

実は、サッカー界側の都合としては、国際的なサッカー大会のイベント誘致の為の拠点施設として国立競技場の存在は必須。また特に現在の五輪向けに整備される国立競技場は、FIFAが定めるワールドカップクラスの国際イベント誘致標準に適合しておらず、将来的にそこに更なる改修が必要なのも事実です。現在、日本サッカー協会は政府より示されている「専用化」を前提とした国立競技場の改修方針を歓迎する意向を示しており、それにあたって客席の傾斜角を高めること、音響設備を充実させることなどの追加要求をしている状況です。

一方で、日常的にサッカー観戦を愛好しているファン達の目線からすると上記のようなコメントが並ぶわけで、何なんでしょう、この国側で進む国立競技場の「専スタ」化との温度差と、国立競技場の「愛されてなさ」は。皆さんが仰るように「あんなクソ施設を押し付けられても困る」し、本当に必要なのはもっとコンパクトなサイズの専用スタジアムだからこその新しいスタジアム構想なのだというのならば、国側で進められている国立競技場の「専スタ化」は踏みとどまるべき。

そもそも原宿を中心として車で10分の同一圏内に、2つのサッカー専用スタジアム計画が存在するなどというのはナンセンス中のナンセンスであるわけで、この両計画が何かしらの整合を取れた形で進められなければなりません。新たに起こったポスト五輪の国立競技上問題、果たしてどういう形で着地するのでしょうか?

本エントリには続きがあります→「試される国民:新・国立競技場問題

※)この論議をすると、必ず「東京ドームと神宮球場だって目と鼻の先だ」と野球を引き合いに出すサッカーファンが出てくるのですが、この両者はともに「民営」のスタジアムです。公共施設である国立競技場問題とは性質が違うものなので、その点は大前提としてご認識を頂ければ幸いです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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