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宝くじのネット販売拡大と依存リスク

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:つのだよしお/アフロ)

11月21日、自民・公明両党はカジノ解禁に伴うギャンブルなど依存症対策を定める基本法案を、今国会に再提出することを確認した。本法案は本年6月に衆議院への提出が行われていたもので、本来は今秋の国会にて成立させる予定であった。しかし、9月に行われた衆議院の解散総選挙によって廃案となってしまっていた。自公両党は本法案の早期成立を目指したいとしているが、特別国会の残り会期は既に残り少なくなっており、本法案が今期国会に成立する可能性は低い。

昨年12月、我が国のカジノ合法化と統合型リゾート導入を推進するIR推進法の成立以降、政府はギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議を設置するなど、依存症対策論議を強力に推し進めて来た。同閣僚会議は8月に「ギャンブル等依存症対策の強化について」とする文書を発表しており、パチンコ、および各公営競技を含む我が国のギャンブル等産業における規制強化方針をすでに示している。

このように我が国のギャンブル等産業は現在、大転換期にあり、社会的に必要とされる依存対策と、「産業」として成立可能な業界規制の在り方との間で非常に緊張感のあるやり取りが続いているわけだが、その緊張感の外で産業の拡大を虎視眈々と狙っている関連業界がある。それが宝くじ業界だ。今年8月、宝くじ事業を所管する総務省は現在、試験的に「ロト」および「ナンバーズ」のみを対象として運用が始まっている宝くじのネット販売を来年度から拡大し、「ジャンボ」など現在販売されているすべての宝くじを対象とする方針を発表した。近年、宝くじの販売額は落ち込みが続いており、2016年度の販売額は8,452億円。ピークとなった2005年から既に2割以上減退している現状で、若者層の宝くじ購入を促進するためにもネット販売を充実させることが不可欠と判断したとのことである。

宝くじは、我が国で賭博を禁ずる刑法第185条からは切り離され、別途、刑法第187条に「富くじ」として規定される行為であり、法的には賭博と比べると射幸性の低い行為であると解されてきた。しかし、現在の宝くじは最高賞金額が度ごとに引き上げられた結果、一等・前後賞まで合わせると最大10億円という他の公営競技やパチンコでは有り得ない最高賞金額を設定するまでに至っている。またナンバーズと呼ばれる数字選択式の宝くじは月曜日から金曜日まで毎週5日の抽選を行う高頻度で提供されており、理論値上の最大賞金額は90万円にも及ぶ。(ゲーム仕様上、固定値ではない)

また、総務省が来年度から開始を狙う宝くじの全面ネット販売開始において、最もリスクが高いのは被封くじ、一般的には「スクラッチくじ」とよばれる宝くじだ。スクラッチくじは、200円から300円で購入したチケット上で「銀はがし」を行い、買ったその場で結果がわかる簡易型の宝くじであるが、これまで発売されたスクラッチくじの最高賞金額は5,000万円にも及ぶというあらゆる宝くじ種目の中でも最も高い射幸性を持つ商品だ。もし、この商品にネット販売が適用された場合、原理的には「最高賞金額5,000万円のオンラインスロットを一回200円~300円で延々と廻すのとほぼ同義となる」ということは、私自身が宝くじのネット販売が開始された初期の頃から指摘し続けて来たことでもある。

【参考】改正宝くじ法は日本初のオンラインゲーミング法となる?!

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/6629241.html

このように刑法上の取り扱いの違いから「賭博ではない」と説明され、その社会的リスクが明確化されないまま、射幸性を上げ続けて来た宝くじ業界。現在、政府が勢威進めているギャンブル等依存症対策からは完全に蚊帳の外に置かれているが、果たしてこのまま放置され続けて良いのか。実は今、我が国において最も高い社会的リスクを抱えているギャンブル等産業は宝くじ業界かもしれない。私自身はそう考え始めている。

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上記記事はコラムを連載させて頂いている月刊麻雀界の編集部に許可を得て、転載を行っているものです。ご興味のある方は是非、月刊麻雀界をご購読下さい。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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