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千葉県のカジノ誘致検討、休止へ

木曽崇国際カジノ研究所・所長

以下、大きなニュースが飛び込んできました。以下、読売新聞からの転載。

千葉県 カジノ誘致検討休止へ

http://www.yomiuri.co.jp/local/chiba/news/20150206-OYTNT50363.html?from=tw

カジノを含む統合リゾート(IR)の誘致を巡り、県が新たな調査報告書をまとめ、カジノによる生活環境の悪化などの課題を列挙したことがわかった。県が誘致に向けた「旗振り役」を担った時期もあったが、トーンダウンが鮮明となった。県としての誘致検討は今年度限りで休止する方針

私としては、千葉のIR構想にとっては必要な「三歩進んで二歩下がる」のプロセスかな…という感想ですが。

そもそも千葉県は、2011年に成田空港の活性化事業の一環として統合型リゾートの導入検討を開始しました。当然ながら、県としては成田周辺に特化した形での誘致検討を行ってきたワケで、当時、以下のような報告書も発表されています。

【参考】カジノ・MICE機能を含む複合施設の導入検討調査に関すること

http://www.pref.chiba.lg.jp/kuushin/ir/kekka0518.html

ところが千葉県ではその後、幕張を抱える千葉市が本格的に統合型リゾートの導入検討を開始、千葉市は千葉市で別の方向性で動き始めてしまいました。以下は、今年発表されたばかりの千葉市による報告書です。

【参考】幕張新都心におけるIR(統合型リゾート)導入可能性調査の結果に関する市民報告会の開催及び調査報告書の公表について

http://www.city.chiba.jp/sogoseisaku/sogoseisaku/kikaku/makuhari-ir-houkoku.html

こうなってくると、県の計画当初に立地検討地域として指定された成田空港周辺の基礎自治体と、その後、本格的に誘致検討を開始した千葉市の間に、完全なる利害の対立が発生します。県としては立場上、その利害調整を行い、同時に最終候補地を絞り込む為の「レフリー」的な立場に成らざるを得ないのですが、当初の段階で「成田空港周辺」として大きく舵を切ってしまっている身としては、非常に難しい取り回しとなってしまいます。

すなわち、県としては一度、「成田空港周辺」とした前言を撤回した上で中立な立場へとポジションチェンジをすることが必要であり、今回の県としての検討事業の中止は、その為に必要な「三歩進んで二歩下がる」のプロセスであると言えるでしょう。逆にいえば「積年のねじれ」が解消され、千葉のIR誘致としては、これでやっと仕切り直しが出来る状態となったともいえます。

実は、これと似たような構図にあるのが、大阪におけるIR誘致構想です。これは以前のエントリでも書いたことですが、大阪は大阪で府内に複数のIR誘致を希望する自治体があるにも関わらず、最初から「大阪市」だけを立地対象地域として検討プロセスを進めてしまうという、重大なプロセスエラーを犯しています。

【参考】大阪、カジノ候補地は「夢洲(ゆめしま)」

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8331094.html

現時点では維新の党が掲げる都構想を前提に、府市が一体となってこの事業を推進することの正統性を作り出しているワケですが、もしこの先、都構想が否定され、また維新の党が大阪府市の与党から陥落した場合には、千葉県と同様の仕切り直しが必要となるでしょう。この辺は、今春の統一地方選挙、および都構想に関する住民投票、そして今年の年末に控える府知事選挙の結果次第というところでしょうか。そういう意味で、今年は大阪のIR構想にとっては、非常に重要な「命運を分ける年」となると言えます。

いずれにせよ、我が国のカジノ合法化と統合型リゾート導入論議もいよいよ序盤のスタートダッシュの展開から、中盤へと差し掛かり、全国自治体による誘致レースにも徐々に動きが出てきたと言えるでしょう。勿論、まだまだレースは続くワケで、今の順位がそのまま維持されるワケではありません。今後も適時、各所の動きをお伝えしてゆきたいと思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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