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カジノ合法化論議: 岩屋毅(自民) vs 大門実紀史(共産)

木曽崇国際カジノ研究所・所長

ネットメディアのThe PAGEが、カジノ合法化推進派議員の代表格である岩屋議員と反対派議員の代表格である大門議員のそれぞれにインタビューを行なった動画を配信しています。素晴らしい仕事です。

最近、殊に私が思うのは、そろそろ賛成、反対の両論をキッチリと掲載し、「論議を作ってゆく」ということが本当に必要だと思うのです。私自身が、BlogosYahoo!ニュースをはじめとする様々なweb上の論壇メディアに向けてずっと情報を発信し続けているのもその為であって、自分を支持する業界人向けに延々と「独り言」のように専門話を発信したところで、正直、社会的には何にも意味ない。寧ろ、専門家が専門家として「今」求められている仕事というのは、外に向ってキッチリと賛成派の立場を語ってゆくことにあります。

という事で、賛成派の立場から大門議員の発言を取り上げさせて頂ければ、例えば以下のような発言が今回のインタビュー内でなされています。

大門実紀史議員:

そもそも、賛成・反対という以前に、今、刑法で禁じられているんです、賭博のというのは。これには歴史があって、やはり賭博行為というのは、犯罪の温床にもなるし、暴力団も絡んでくるし、そういう歴史的な判断があって、刑法で禁じたということがあるわけです。だから賛成・反対と言うよりも、そういう重みのあるものを、わざわざ解禁するのはなぜなのかと。なぜ解禁しなきゃいけないのかと。そういう問題の立て方が重要だと思っております。

ある意味、賭博を禁止する刑法条文成立の歴史を原理主義的に捉え、「なぜ刑法で禁じているものをワザワザ合法とする意味があるのか」というのが大門議員の主張であります。ただ、この点に関しては過去の判例の中では「市井で行なわれている民間の賭博行為と、法によって公的運営と監視が行なわれている賭博を同一に語ることは適切ではない」という裁判所による判断が存在するワケで、もし大門議員が刑法解釈の歴史に則るのならばこれらの判例も尊重する必要があるという事は以前の投稿でも述べた通りであります。

【参照】共産党による「カジノ反対」論の欺瞞

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8088651.html

また、大門議員の刑法を原理主義的に捉えたカジノ反対論において非常に大きな矛盾があるのは、共産党自体が競馬、競艇、競輪、オートレースなどの公営賭博場の存続を支持する立場にあること。例えば2004年の競馬法改正時に行なわれた委員会答弁において、共産党の高橋ちづ子議員は以下のような発言を行っています。

高橋ちづ子議員:

私は、日本共産党を代表して、競馬法の一部を改正する法律案に反対の討論を行います。

第一の反対理由は、競馬の実施に関する事務を民間企業にまで委託できるとしたことであります。賭博、富くじ販売禁止の例外として、国、都道府県及び指定市町村に限って行われている公営競技において、それぞれの主催者が責任を持って実施することが、公正な運営の保障であり、ギャンブルの弊害を抑制することにつながると考えます。経費削減や効率性本位で民間委託が行われるならば、健全な国民のレジャーとしての発展方向に逆行するおそれがあります。また、販売、払い戻し等、民間委託が予想される業務に携わる労働者の身分保障を不安定化させるものであります。

第二の理由は、売り上げをふやすため、ギャンブル性拡大の方策をとっていることであります。射幸心を高め、かけごとの弊害を助長するとして廃止されていた重勝式投票方法の復活をどれほどの議論を経て復活させたのか問題であります。さらに、成人した学生の購入禁止を解除することは、未成年、成人がともに学ぶ教育現場への影響を無視することができません。[...]

出所:http://chiduko.gr.jp/kokkai/kokkai-928

もちろん当時より共産党は公営賭博の射幸性を大きく引き上げること自体を推進する立場ではなく、それが上記委員会発言の趣旨ではあるのですが、一方で我が国で既に認められている公営賭博においては、

賭博、富くじ販売禁止の例外として、国、都道府県及び指定市町村に限って行われている公営競技において、それぞれの主催者が責任を持って実施することが、公正な運営の保障であり、ギャンブルの弊害を抑制することにつながる

という事自体は認め、またそれを「健全な国民のレジャー」と評する立場なのですね。実は、これらは日本共産党の賭博に対する伝統的なスタンスであって、多少の例外はあるものの、例えば地方自治体が不採算の公営競技場を廃業しようとする時に「いの一番」で反対論を打つのは、紛れもない日本共産党の議員であります。

また、そもそも今回のThe PAGEによるインタビューでカジノ推進側の岩屋毅議員が語っている

地域の自治体が望み、そして国が審査をして、認可をした地域においてのみ、カジノを含む、あくまでも統合型のリゾートをつくることを認めるようにしようという、こういう構想です。したがって国のほうでカジノ管理委員会という厳しい権限を持った、強力な権限を持った委員会を立ち上げて、そこにおいて施行に向けてのルールというものをしっかりと作り、そのルールに基づいて厳しく監視・監督をするという体制を作るということを前提にしております。[...]

上記の部分は、まさに「公正な運営の保証」と「ギャンブルの弊害の抑制」を実現するための手法論を語っている部分であって、賛成派は無制限にカジノを許容すべきなどという主張は行なっておりません。では、なぜ日本共産党は公営競技には「公正な運営の保証」と「ギャンブルの弊害を抑制」が可能であるという立場を取りながら、一方のカジノ合法化に対しては、ひたすらに原理主義的な刑法解釈に基づく「害悪論」を唱えているのか?

大門議員による

そもそも、賛成・反対という以前に、今、刑法で禁じられているんです、賭博のというのは。これには歴史があって、やはり賭博行為というのは、犯罪の温床にもなるし、暴力団も絡んでくるし、そういう歴史的な判断があって、刑法で禁じたということがあるわけです。だから賛成・反対と言うよりも、そういう重みのあるものを、わざわざ解禁するのはなぜなのかと

という主張は、日本共産党のその他の公営賭博に対するスタンスと比較して考えると、非常にご都合主義に見えてならない。自己矛盾を大きく孕んだ主張であると言えます。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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