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横浜エクセレンスのB2昇格を目標に、新たなチャレンジに挑んでいるコーチペップ

青木崇Basketball Writer
チームの成長に手応えを感じているコーチペップ 写真提供:横浜エクセレンス

 B3の横浜エクセレンス(横浜EX)は、10月26〜27日のしながわシティ バスケットボールクラブ相手にホームで連勝。直近の10試合で8勝するなど、11勝5敗での成績で5位と調子を上げてきている。しかし、今季からチームを指揮するジョゼップ・クラロス・カナルス(ペップ)はシーズンが長いことを見据えたうえで、目の前の試合に最大限集中している。

「我々は今日と明日のことだけを考えている。 過去のことをあまり気にしていない」

 52試合のレギュラーシーズンで8位以上の成績を残し、プレーオフのファイナルまで勝ち上がることは、横浜EXがB2昇格に必要な条件となる。競り負けた東京八王子ビートレインズ戦を除けば、ここまで同一カード2連敗がないのは、チームがいい方向に進んでいる証と言えよう。

 スペイン出身のペップは、B2の秋田ノーザンハピネッツをB1に昇格させるなど、B1、B2、B3、旧bjリーグでチームを指揮したという希有なコーチ。B3のレベルについては、次のような印象を持っている。

「プレシーズンではB3のチームがB2じゃなくB1のチームに勝ったりしているし、B3チームの大半はB1とB2を経験してきた選手たちがいる。香川には6年間代表でプレーしてきた松井(啓十郎)がいる。彼はトップレベルの選手だったし、B3のレベル自体は高い。現時点でB2とB3の間に実力差があるとは思えない。勝つことが難しいリーグだ」

 ペップは日本だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなど、オセアニアを除いた世界各地でコーチをしてきた経歴を持つ。また、アンゴラ代表では思い切った世代交代を敢行し、FIBAワールドカップに導いた実績もある。

 ペップが率いるチームは、常にフルコートでアグレッシブなディフェンスをし、相手から数多くのターンオーバーを誘発させて得点に結びつけようとする。そのプレースタイルは横浜EXでもまったく変わらない。先週末に対戦したしながわは、ゲーム1で28本、ゲーム2で22本のターンオーバーを犯していた。ディフェンスのレベルアップについて、ペップは手応えを感じている。

「(昨日)しながわが28本のターンオーバーを犯したように、我々のプレッシャーは非常によくなり始めた。今日は22本だったけど、悪くはない。我々はよいことがたくさんできていると感じ始めているが、改善すべき点も多くある」

 FIBAワールドカップでアンゴラ代表を指揮していたこともあり、ペップが横浜EXに合流したのは9月中旬。ディフェンスの土台を作ることと、オフェンス・システムの構築という点では、他のチームよりも遅れがあった。また、谷口淳、今川友哲、西山達哉がケガで離脱したことは、ペップにとって誤算だった。

 そんな状況であっても、勝利を積み重ねることができているのは、選手層の厚いチームになっていることを示すもの。チームとしての調和という点で重視されるケミストリーに関して、ペップは次のように評価している。

「非常にいいと思っている。というのは、今日も外国籍選手2人をスタートで起用していないからだ。私は全員に”自分が大切な選手なんだ”と感じてほしいと思っているし、日本人選手はとても重要な存在だ。うちの選手たちは25分以上プレーすることがほとんどない。外国籍選手もそうだ。だれもいない。出場時間を分散している」

 ペップは試合ごとに変えるなど、スターターを固定していない。2週前の豊田合成戦では、クラヴス・チャバルスとグラント・シットンをスターターで起用していたが、しながわ戦で外国籍選手で先発したのはチャバルスのみ。日本国籍を取得しているソウ シェリフを先発として使い、シットンとババトゥンデ・オルムイワをベンチから起用していた。

「我々はだれもが重要だというチームを作ろうと努力している。だれもが同じようなレベルで重要な存在になるわけではないけど、選手全員が貢献し、その一員であることを誇りに思えることが、我々にとって非常に重要なんだ。したがって、このプロセスに関しては非常に順調に進んでいると思う。我々は決して一人の選手に依存しているわけではない」

 ペップのスタイルに順応することは、選手からすると簡単なことではない。横浜EXで2年目を迎えている俊野達彦は、B2に降格した後の2018年夏に秋田ノーザンハピネッツに入団。しかし、東北アーリーカップで2試合出場した後、秋田を離れて仙台89ersに移籍したことは、ペップのやり方に順応できなかったことが影響していた。横浜EXにペップがヘッドコーチとしてやってくると知った時、俊野はこう感じたという。

秋田でコーチペップのやり方を経験しているベテランの俊野 写真提供:横浜エクセレンス
秋田でコーチペップのやり方を経験しているベテランの俊野 写真提供:横浜エクセレンス

「複数年契約で残ることが決まっていた状態で(ペップが)来たのは驚きました。あのとき(秋田で)あまりうまくいかなかったんで、もう1回やってみるチャンスだなとは思っていました。自分も秋田でやったときからバスケのスタイルも変わったり、少し考え方も変わったりしているので、会ったときにどういうふうになるかな? みたいなところはありました」

 秋田で苦い経験をした俊野だったが、キャプテンを務める横浜EXでは、当時の経験を今のチームメイトたちと共有し、チームとしての一体感を上げていこうとしている。

「自分もベテランという立場でそこを知っていて、(ペップと)一緒にやるというのは本当にそのときの経験が無駄じゃなく、生かせるチャンスだとすごく思いました。そういうところでどういうふうに自分がパフォーマンスをしていくかというところはもちろんですけど、どういうふうにチームとしてまとまっていくかというところも、今シーズンの新たなチャレンジだなと思います」

 B3の第8節を終えた時点で、横浜EXは相手から15本以上のターンオーバーを誘発させたのが16試合中10試合。20本以上になると5戦全勝という結果は、ペップが求めるディフェンスができた時に強さを発揮していることを示すものだ。

 その一方でアグレッシブなディフェンスが裏目に出てしまい、相手に数多くのフリースローを与えてしまうところも横浜EXの傾向。10月28日の香川ファイブアローズ戦では44本の試投数を与えたのを最高に、20本以上が12試合もある。ただし、その日のレフェリー、対戦相手、プレーの強度によって差が出ることを承知したうえで、ペップはこのように語っている。

「我々が多くのファウルをしていること、多くのミスをしていることはわかっている。 それでも、我々は勝っている。 それは、チームのディフェンスが非常にアグレッシブであることを意味しているし、特に昨日(のしながわ戦)は非常に高いレベルのディフェンスができたと思う」

 今季の横浜EXは、相手を80点未満に抑えた試合の成績が8勝1敗。ペップはディフェンスのレベルアップで手応えを感じているものの、レギュラーシーズンがまだ44試合も残っている。アグレッシブなディフェンスを継続しながら相手のフリースロー数をいかに少なくさせるかは、横浜EXがB3で最高の結果を出すために欠かせない要素の一つになるだろう。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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