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ロイ・ラナコーチの下、飛躍への第一歩を踏み出す土台を構築できるシーズンになった京都ハンナリーズ

青木崇Basketball Writer
低迷していた京都を戦えるチームへと変貌させたラナコーチ (C)B.LEAGUE

「このチームをとても誇りに思う。カルチャーとプレースタイルを構築することができたと思う。チーム内では『壊れない』をとても重要なマインドセットにし、今日の試合でも示したと思う。昨日タフな負けを味わったけど、シーズン最後のゲームでしっかり巻き返した。順位表に影響がないにもかかわらず、選手たちはすごくハードにプレーしていたし、故障者が出ても代わりに出てきた選手がいいプレーをしてくれた。このスピリットと戦う姿勢を維持できれば、京都ハンナリーズの未来は明るい」

 このコメントは、滋賀レイクスとのシーズン最終戦後、今季から京都ハンナリーズを率いるロイ・ラナコーチが残したものだ。経営体制も変わったタイミングと、14勝43敗という昨季の低迷脱却を進めるうえで、渡邉拓馬ジェネラルマネジャーは、2017年にカナダをU19ワールドカップの頂点に導いた指揮官を招聘。カナダで高校、大学、代表チーム、NBAでもアシスタントコーチを務めるなど、経験豊富なラナコーチの手腕に期待を寄せていた。

 今季の22勝38敗という成績は、チームとしても応援するファンにしても満足できないかもしれない。しかし、NIKE HOOPサミットでラナコーチの下でプレーした元NBA選手のシェック・ディアロ、カナダのトロントで過ごした高校時代からその存在を知っていたというマシュー・ライトの加入により、得点力不足に泣いた昨季に比べてオフェンスが向上したことは、下の表を見れば明らかだ。この2人によるピック&ロールは、京都にとって大きな武器となり、相手からすると止めるのが難しい厄介なコンビとなった。ディアロはこう語る。

「シーズンを通じてやってきたことだ。いいポイントガードがいれば、簡単にコネクションを構築できる。ヨシ(久保田義章)もそうだけど、ビッグマンがポイントガードといいケミストリーを構築できている。『ここでスクリーンをかける』とか『ここにパスを出してほしい』といったコミュニケーションを普段からしっかりとっているから、いい関係性が築けたと思う」

インサイドの要となったディアロと得点機会のクリエイトで存在感を発揮したライトは、京都の成績向上に大きく貢献した (C)B.LEAGUE
インサイドの要となったディアロと得点機会のクリエイトで存在感を発揮したライトは、京都の成績向上に大きく貢献した (C)B.LEAGUE

 ジェロード・ユトフはシーズン通じて故障することなく、オールラウンドなプレーでチームに欠かせない存在だった。平均17.2点はチーム最高の数字であり、8.9本とリバウンドも昨季を上回る活躍を見せた。ティージェー・ロールがケガで長期離脱後に退団するという事態に直面したものの、シーズン終盤は元NBAでユーロリーグでの経験豊富なエペ・ウドゥがサイズと長い腕を生かしてリムプロテクトをするなど、ディフェンス面でいい仕事をしていた。

 日本人選手については、久保田義章が終盤に故障で離脱するまで司令塔として奮闘。昨季よりも3.5点多い平均10.2点、6.3アシストというスタッツは、いずれも自己ベストの数字だった。そのほかの日本人選手については、ローテーションに入ったり外れたりを繰り返していた。悪く言えば安定感のなさということになるが、ポジティブな見方をすれば、チーム内でいい競争が行われていたということになる。

今季の京都は昨季よりも上昇したカテゴリーが多かった。データは筆者作成
今季の京都は昨季よりも上昇したカテゴリーが多かった。データは筆者作成

 滋賀との最終戦で勝利に貢献した水野幹太、青木龍史の2人は、出番の少ない時期を経験していた。しかし、チャンスが来た時にいい仕事ができたのは、「正直なところプレシーズンの最初は厳しい状況だったが、我慢強く全員が改善し、成長していった。彼らのハードワークがあったからこそ、ここまで来ることができた」と語ったラナコーチが、素晴らしいカルチャーを作り上げた成果。京都での1年目については、次のように総括した。

「正直に言って期待していたところもあるし、ガッカリしたところもある。ブザービーターを決められたり、ミスを犯してしまうなど、恐らく8試合は勝てる試合ながら落としてしまったから、30勝してもおかしくないチームだった。もうちょっといい成績を残せたという点では、少しガッカリしている。と同時に、我々のプレースタイル、どう戦うかというところ、メディアは彼らが毎日の練習でどれだけハードワークしているかを見る機会がないけど、選手たちはみんな素晴らしい。体育館が楽しい場所になっていた。時にはバスケットボールの長いシーズンの中で、体育館に足を運ぶのが辛くなることもあるだろう。行きたくない仕事のようなものに例えられるけど、我々には素晴らしい環境があった。毎日体育館に来て、バスケットボールに取り組むことにワクワクするというのは、大きなボーナスだった。1年でこうなるという期待通りだったと思うし、満足している。期待度は上がるばかりだ」

 シーズン終盤の戦いぶりを見れば、京都が『壊れない』チームへ成長したことは間違いない。CSに駒を進めた強豪チームに比べて選手のサラリー総額が低いかもしれないが、5月13日にスコアリングガードの岡田侑大と契約合意できたことは大きなプラス。フロントラインで使える日本人選手を補強できれば、今季から非常にハイレベルになった西地区の中でも、来季に勝率5割を狙える可能性は十分にある。ラナコーチが話した勝てそうで負けた8試合の経験を糧に、ゲーム終盤の戦い方と勝つ術を身につけられるかが、次のステップを踏み出すカギになるだろう。

『共に登る』をモットーに全力で戦い続けた京都は、今季を通じて『壊れない』チームへと成長 (C)B.LEAGUE
『共に登る』をモットーに全力で戦い続けた京都は、今季を通じて『壊れない』チームへと成長 (C)B.LEAGUE

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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