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【U18トップリーグ】インターハイ予選決勝の敗戦を糧に、この機会を最高の経験にしている前橋育英

青木崇Basketball Writer
U18トップリーグの試合で選手たちの経験値を上げている前橋育英 (C)JBA

 昨年のインターハイではベスト8、ウインターカップでもベスト16という成績を残した前橋育英。群馬県内では敵なしの状況が長年続いていたものの、昨年に比べると公式戦の経験が少ない選手ばかりということもあり、加賀谷寿コーチは今年度のチーム作りで苦労することを覚悟していた。

 県総体に優勝して関東大会に出場したものの、6月に行われたインターハイ予選では新島学園に76対80のスコアで敗戦。県内の高校に公式戦で負けたのは、2017年のインターハイ予選準決勝で滋賀レイクスでプレーする野本大智を擁していた高崎戦以来のことだった。

 今の3年生は新型コロナウィルス感染拡大の影響により、先輩たちに比べると練習と試合の積み重ねが不足していた。加賀谷コーチは基本的にローテーション入りする選手に下級生を含めるのだが、昨年のチームで出場時間を占めていたのは3年生ばかり。今年の主力メンバーは今年度になるまで公式戦の経験値が低かったのに対し、新島学園はエースの柄澤日向ら昨年の3x3 U18日本選手権で優勝したメンバーが主力。インターハイ予選決勝での前橋育英は経験不足を露呈する試合展開に陥ったことに加え、ショットが大当たりだった柄澤を止めるための答えを出せなったことが敗因になった。

 インターハイに出られなかったことは、選手個々とチームとしての経験値を上げるという点で大きなマイナスになってしまう。しかし、前橋育英は先輩たちが残した成果と恩恵によって、U18日清食品トップリーグで強豪校と公式戦で戦える機会を得た。

 9月11日の中部大第一、17日の東海大付属諏訪、24日の福岡大附属大濠戦は、いずれも攻防両面で圧倒されて40点以上の差をつけられての敗戦。しかし、全国トップレベルのプレーを体感してきた経験から学び、仙台大附属明成戦は10点差、10月8日の帝京長岡戦も2Q途中まで互角に渡り合っていた。帝京長岡戦後、加賀谷コーチは次のように語っている。

「点差が離れましたけど、前半にやるべきことはやっていましたし、チームとしてまとまってきていますし、成長していると思います。技術的な部分もそうですけど、試合の流れもインターハイ予選の時に比べると随分よくなっています。インターハイ予選の時はチームができていない状況で、逆に相手は去年から試合に出ていたので、経験の部分で負ける要素がありました。この大会は強いチームばかりで、実力的にうちが参加してもいいのかという感じですけど、フィジカルな部分は慣れてきましたし、尚且つシュートを決められるようになってきました。負けていますけど、チームとしては非常にプラスです」

 前橋育英は190cmの神原太陽が最長身と、トップリーグに出場している他校に比べるとサイズがない。トップリーグでは0勝5敗と結果が出ていないものの、高さで優位に立つ相手と公式戦で戦えることは、ウインターカップを目指すチームにとって大きな財産になっている。

 しかし、11月6日に行われた新島学園とのウインターカップ予選決勝は、“トップリーグ参加校だから出場権を逃すわけにはいかない”というプレッシャーに直面するため、40分間タフに戦い抜けるメンタルの強さが必要。前橋育英は試合開始からいきなり9連続失点というスロースタートを切りながらも2Qで逆転に成功し、3Qにはリードを2ケタに広げる時間帯を作った。

 インターハイの藤枝明誠戦で47点を奪った柄澤を抑えるのに苦労し、4Qで序盤で同点に追いつかれるも、粘り強いディフェンスと積極的にゴールへアタックするオフェンスを継続したことで、新島学園に逆転されることはなかった。残り1分51秒で矢野匡人がヘルプディフェンスでドライブを試みた柄澤からボールを奪って得点するなど、前橋育英は肝心な局面でビッグプレーを連発。最後はキャプテンの永井学翔が残り38秒から6本のフリースローを全部成功させたことが決め手となり、100対94というハイスコアの激戦を制し、ウインターカップの出場権を獲得した。

「戻ってきたからには自分の仕事をきちんとやろうと思っていた」とコメントした永井は、ひざのケガを理由にトップリーグを欠場していた。新島学園戦はベンチからのスタートになったが、プレーし始めて数分で試合開始早々の悪い流れを断ち切る原動力になった。キャプテンの完全復活は、チームとしての自信が揺らいでしまう事態を回避できた点でも、大きな意味があったと言える。

 ウインターカップの出場権獲得という最低限の目標を達成した前橋育英は、トップリーグで11月19日に福岡第一、26日に正智深谷と対戦する。過去5試合と変わらず苦戦に直面するかもしれないが、ウインターカップに向けて新たなチャレンジに挑める最高の機会なのは明白だ。

「選手はきっかけがあれば自信を持ってやるし、指導者のほうも覚悟してやることになるので、僕自身改めて勉強している状況です。相手が強くて失敗をたくさんしていますけど、その中でできたことは他のチームの1、2年生に比べると遥かに喜びがあると言うか、成功という意味になります。こういったリーグをどんどんやったほうがいいと思います」

 こう語る加賀谷コーチは、フロントラインでプレーする下級生のディアロ阿慈素、原澤快吏、丸山颯太の成長に期待を寄せている。彼らが神原の負荷を軽減できる存在として計算できる戦力になれれば、前橋育英はウインターカップのダークホースになるかもしれない。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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