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【バスケットボール日本代表】約3か月間の活動で若い世代が台頭したフロントライン

青木崇Basketball Writer
代表定着に前進しつつある吉井と井上 (C)FIBA.com

 昨年11月27日の中国戦を皮切りに、トム・ホーバスコーチ率いる日本はワールカップ予選で8試合、アジアカップで5試合、イランと2度の強化試合を戦ってきた。オフェンスでは5アウトのシステムを採用し、ペイントアタックからのフィニッシュ、展開しての3Pショットで得点するというスタイルが、試合を重ねるごとに少しずつ浸透しつつある。

 8月30日に沖縄アリーナで行われたワールドカップ予選ウインドウ4のカザフスタン戦は、ショットの精度が低く苦戦を強いられた。3Qでリードを2ケタに広げることに成功したのだが、73対48のスコアで勝利するきっかけは、井上宗一郎が富樫勇樹のアシストから2本連続で3Pを決めたことだった。

「元々得意だと思っていたんですけど、3Pシュートは自分の武器だと割と胸を張って言えるかなと思いました。(ホーバスコーチが)信用してくれるし、入らなくてもすごく期待してくれます。最近はシュートが最初全然入らないのですが、後から入ってくる感じなので、そこを裏切らないようにしっかりシュートを打ち続けることが大事かなと思っています。僕自身は前半でオフェンスもディフェンスもあまりいいプレーができていなかったので、そういった意味でも自分にとっても勢いがほしかったし、チームにも勢いを与えたかったというのがありました。最初から3Pを狙う気で(パスを)待っていました」

 カザフスタン戦後にこう語った井上は、今年の春に筑波大を卒業した201cmのパワーフォワード。昨年12月にプロ契約したサンロッカーズ渋谷では、18試合で平均4.8分と出場機会が少なかった。しかし、ホーバスコーチは6月4日から始まったデベロップメントキャンプに招集。3Pを決められるビッグマンとしてチャンスを与えられた井上は、オーストラリアで行われたワールドカップ予選ウインドウ3で代表デビューを果たし、チャイニーズ・タイペイ戦で3本の3Pを決めるなど14点と活躍する。ウインドウ4のイラン戦とカザフスタン戦で先発起用されていることは、23歳の井上に対する指揮官からの信頼度が高まっている証だ。

 井上同様にウインドウ3で代表メンバー入りした吉井裕鷹は、アジアカップでも平均出場時間が20分を超えていた。8月25日のイラン戦で8リバウンドを奪うなど、196cmという身長で205cmを超えるビッグマン相手にフィジカルな対応で奮闘している。アルバルク東京で質の高い外国籍選手と練習でマッチアップしてきた経験が、代表活動でもしっかり生かされているのは明らか。カザフスタン戦の3Qに河村のアシストでダンクを叩き込んだような強いフィニッシュも、吉井が持っている魅力の一つだ。

 島根スサノオマジックとのクォーターファイナル第3戦で3本の3Pを含む17点と活躍したように、ホーバスコーチは吉井のシュート力にも期待を寄せている。代表メンバー定着に向けて大きく前進した感じもするが、吉井は自身の現状に決して満足することなく、もっとうまくなりたいという思いが強い。

「技術の成長は自分自身あまり感じていないです。これまであったものを出し続けて(代表に)選んでもらっているという感じなので、もっとステップアップしなければいけないと思います。こういう経験をさせてもらったので、それがここからの自信になると思いますし、その都度その都度(代表に)選ばれたら自信がつきます。井上から刺激を受けることはたくさんありますし、僕に持っていないものを持っています。井上だけに限らず、これまで一緒に代表活動をしてきた選手、例えば渡邊雄太さんとかは本当にマッチアップしてすごいなと思いましたし、真似できるところは真似したいです。いろいろな選手のいいところを吸収して、刺激を受けつつも負けるのは嫌なので、チーム内でも負けないという意識があります」

 ガードやスイングマンに比べてビッグマンの人材が少ないことは、日本が国際試合で戦うチームを構成するうえで必ず直面する要素。フロントラインでプレーする候補についてホーバスコーチは、谷口大智(201cm)のようなシュート力がある選手たちにチャンスを与えてきた。ワールドカップ予選のウインドウ1〜4、アジアカップ、合宿でいろいろ試してきた中で、井上と吉井の台頭はフロントラインの選手層を厚くすることに加え、いい意味でワールドカップでの代表入りに向けた競争がより高いレベルになることも期待できる。ホーバスコーチは次のように話す。

「井上はパワーフォワードとして小さいけど、ディフェンスを広げられるという点で相手にプレッシャーをかけられる。彼は本当に素晴らしい仕事をしています。吉井も小さいけど、とてもフィジカルだし、常に動いているし、パスもでき、アクティブです。彼ら2人が加わったことで状況は一変しました。井上をセンター、吉井をパワーフォワードで使うことに問題を感じません。というのは、お互いをうまく補完しているから。井上はいい3Pシューターだけど、吉井はまだストロークが戻っていません。井上はディフェンスで少しアグレッシブさに欠けるところがあるけど、吉井はとてもアグレッシブです。2人について私はすごく満足しています。張本(天傑)もずっと我々にとっていい仕事をしてくれていますし、永吉(佑也)も少し驚きを与えてくれるプレーをしていました。今からチームにとってベストな帰化選手を見つけ、そこから一体となって機能させること。この夏の進歩についてはとてもハッピーです」

 ニック・ファジーカスがカザフスタン戦に出場したことによって、ワールドカップでの帰化選手枠を巡る競争は激しくなるだろう。ワールドカップにおけるチームの主力は八村塁と渡邊雄太になることが濃厚も、2人をベンチで休ませる時間を作る必要がある。そういった意味でも、フロントラインの選手層を厚くし、質を上げていくことは重要であり、井上と吉井の台頭が夏の3か月間における大きな収穫になったのはまちがいない。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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