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U17日本代表:アジアと世界の間にあるレベルの違いを改めて体感したワールドカップ

青木崇Basketball Writer
高い世界レベルを体感した日本 写真提供:@nextgenhoops

 八村塁(現NBAワシントン・ウィザーズ)を擁した2014年以来のU17ワールドカップに出場した日本は、順位決定戦でのレバノン戦が唯一の勝利。8年前同様、通算1勝6敗で14位という成績で大会を終えた。

 U16アジア選手権でMVPとなった川島悠翔(福岡大附属大濠高)は、常に厳しいディフェンス対応に直面し続けたこともあり、36.3%というFG成功率に終わった。それでも最後までチームの大黒柱として戦い続け、平均19.1点という数字はランキング2位。「アジアと違って高さも速さももっと強くなってきたという部分で、自分はたくさん挑戦した中でいろいろな失敗がありました。状況判断やフィニッシュの能力、ハンドリングもまだまだ足りないことがわかりました」と振り返る。

 平均3.7ターンオーバーという数字は、自身の得点機会のクリエイトだけでなく、オフェンスの起点となってボールを持つことが多かったことの証。状況判断とフィニッシュの精度を高めること、フィジカルな相手でもリバウンド争いに勝つという課題は、8月にイランで行われるU18アジア選手権で少しでも改善したいところだ。

オールラウンダーとしてさらなる成長が期待される川島 写真提供:@nextgenhoops
オールラウンダーとしてさらなる成長が期待される川島 写真提供:@nextgenhoops

大苦戦の要因はリバウンドとターンオーバー

 アジアでの戦いと違い、ワールドカップでは腕の長さと身体能力の高さへの順応に苦労し、リバウンド争いにおけるフィジカルの部分でも圧倒された。これらの要素は、日本国内だと体感できないのが現実だ。

 今回のU17ワールドカップに出場した日本は、200cmを超える選手2人を含む190cm以上が7人と、2014年のチームに比べるとサイズアップしていた。しかし、1試合平均30.3本は最下位で、15番目のドミニカ共和国よりも6.1本少ない。2014年のチームと比較してみると、やはり6.4本の差があった。チームの大黒柱だった八村(6.6本)と川島(6.7本)の平均リバウンド数は0.1本差。2014年に平均5.3本、7試合で21本のオフェンシブ・リバウンドを奪った平岩玄(現アルバルク東京)のような存在がいたら、もう少し状況は違っていたのかもしれない。

 リバウンドがなかなか取れないことにより、ペイント内とセカンド・チャンスからの失点は日本に大きなダメージを与えた。大敗したフランス戦はペイント内で82点、セカンド・チャンスで32点を献上。スペイン戦も70点、33点という数字が出ている。日本がセカンド・チャンスから2ケタ得点できた試合は、唯一の勝利となったレバノン戦(11点)のみ。ボックスアウトしてもリバウンドを奪えなかったシーンの多さは、フィジカルの差が明らかだったことを象徴するもの。アンダーカテゴリー代表が今後国際試合で戦ううえで、リバウンド力の向上は最重要課題と言っていいだろう。

マルティネスコーチ 写真提供:@nextgenhoops
マルティネスコーチ 写真提供:@nextgenhoops

 リバウンド同様に目立ったのがターンオーバー。7試合中6試合でターンオーバーからの失点が20を超えていた。平均18.9本という数字は、普段なら通るはずのパスは跳躍力と高さによって弾かれ、ヘルプから長い腕が出てきてボールを失うといったシーンが多かったことを示すもの。また、オフェンス時のベースラインからのインバウンドに苦労し、パスミスから一気に速攻でフィニッシュされることも短時間で複数回起きていた。

「ボールをシェアすればいいバスケットができるけど、逆にそれをしなければ良くない」とアレハンドロ・マルティネスコーチが語ったように、日本はフランス戦で25本のターンオーバーから39点を献上。選手同士の連動性が噛み合わなければ、オフェンスの遂行力は著しく低下してしまい、川島がショットクロック・バイオレーションになる寸前に難しいショットを打たされることも多かった。ただし、大会途中で石口直(東海大付属諏訪高)、ルーニー慧(正智深谷高)、梶谷崇太(広島皆実高)が欠場を強いられ、ポイントガードが崎濱秀斗(福岡第一高)だけとなる不運は、オフェンスの遂行力低下につながったのは間違いない。

 その一方で相手からターンオーバーを誘発させて得点する機会が少なく、28点のリトアニア戦と23点のレバノン戦以外は1ケタの数字。自分たちのターンオーバーを減らし、相手から数多く誘発させて得点に結びつけられるか否かは、U18アジア選手権で結果を出し、U19ワールドカップの出場権を獲得するために欠かせない要素になるだろう。

有効な得点パターンとして今後も使えるカット

 日本のアンダーカテゴリー代表のヘッドコーチに就任後、アレハンドロ・マルティネスコーチは短い準備期間の中で“ボールのシェアとスペーシング”を重視したチームを作ろうとしている。スペースにカットしてからレイアップで得点するパターンは、U16アジア選手権で同様にU17ワールドカップでも十分に通用した。

 特に小川瑛次郎(羽黒高)はコーナーからの3Pを着実に決めるなど、58.1%の成功率が大会No.1。相手ディフェンスが川島をより意識する状況下において、スポットアップのシューターとして小川が機能したことにより、武藤俊太朗(開志国際高)がベースラインをカットしてのフィニッシュは効果的だった。それは、武藤の2P成功率が63.9%と高かったことでも明らかである。

コーナーからの3Pを着実に決めるなど58.1%の成功率が大会1位となった小川 写真提供:@nextgenhoops
コーナーからの3Pを着実に決めるなど58.1%の成功率が大会1位となった小川 写真提供:@nextgenhoops

 世界レベルの高さを痛感させられる大会になったとはいえ、出場した全選手にとって素晴らしい経験・財産になったのは間違いない。マルティネスコーチはドミニカ共和国との最終戦後、次のようなコメントを残している。

「世界とは身体的な差がもちろんありますし、技術面や戦術面もこれから向上していかなければなりません。最後の試合はプレーできるのが9人と限られる中で、選手たちが本当に努力をしてくれました。最初の試合から比較して、今日の試合は着実に選手全員が成長していたことがうれしかったです。(川島を除いた他の)選手たちはアジア選手権からが初めての国際試合になりましたが、ターンオーバーが増えてしまうことなど、まだまだ学ぶことが多いです。シューターにいい選手がいますので、そういった課題を解決できればもっと良くなると思います」

 U18アジア選手権では、川島を筆頭に何人かのU17代表選手がメンバーに選ばれても不思議でない。川島と将来を嘱望されているジェイコブス晶(横浜ビー・コルセアーズ)がワンツーパンチとして機能すれば、U19ワールドカップ出場権獲得は十分期待できる。マルティネスコーチの下、U18代表をどんなチームに成長していくのか? その答えを知るには、アジア選手権まで待たなければならない…。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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