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緊急B1昇格宣言の佐賀バルーナーズ。FIBAワールドカップ制覇を経験した指揮官の下で着実に成長中

青木崇Basketball Writer
ルイス・トーレスコーチ(中央)の下でB1昇格を目指す佐賀 写真/B.LEAGUE

 チーム創設1年目にB3からB2昇格を果たした佐賀バルーナーズは、第16節終了時点で19勝11敗の成績で西地区の首位に立っている。2019年のFIBAワールドカップで優勝したスペイン代表のアシスタントコーチを務めるルイス・ギル・トーレスの指揮下、チームとして着実に成長していることを示すもの。1月9日と10日の群馬クレインサンダーズに連敗した翌日に「緊急B1昇格宣言」を発表するなど、佐賀が貪欲な上昇志向を持ったチームであることは間違いない。

 スペイン代表でディフェンスを担当しているトーレスコーチは、佐賀でもアグレッシブさとタフさを選手たちに求めている。群馬との2試合を見て印象的だったのは、オンボールでもオフボールでも激しく、ボールが動いた際のローテーションもしっかり行い、ショットには必ず手を上げ、フェイクで一度かわされたとしても決して諦めず、すぐコンテストしていた点だ。

「ローテーションや手をしっかり動かすということでは納得している。選手たちが(私のやり方を)信用し、理解してくれているし、よくやっている」という指揮官の言葉は、ただ一生懸命にやるというのではなく、基本に忠実かつ、システムをきちんと理解していた上でディフェンスしている証である。

 群馬の平岡富士貴コーチが9日の試合後に「少し意表を突かれた」と話したように、佐賀はB2を独走する強豪相手に今までとまったく違うディフェンスで試合に臨んだ。アグレッシブさが仇になり、数多くのファウルを吹かれたことにトーレスコーチは不満を感じ、外国籍選手のマルコス・マタを故障で欠いたことも痛手だった。それでも、2試合とも2Q残り3分くらいまで互角の戦いをしていたことで、トーレスコーチはB1昇格を目指す今後の戦いに向けて手応えを感じている。

「今日のディフェンスは初めて挑戦したものだ。いつもと違う戦術で臨み、群馬が違うバスケットボールをやるような手を打った。ハードなディフェンスを心がけ、機能した時はゲームをコントロールできていたのではないかと思う。群馬はすごくいい選手たちを揃えているので、自分たちが簡単なミスをしてしまうと全部得点につなげられてしまう。この1週間におけるディフェンスの準備については満足している。うちの選手たちができるということを証明してくれた」

将来が楽しみな若きポイントガード

 22歳の若き司令塔の澁田怜音が1戦目で15点・6アシスト、2戦目もケニー・ローソンと並ぶ19点という活躍を見せたことも、B1昇格を目指した戦いに向けて大きなプラス材料。トーレスコーチの期待度が高いことは、「怜音は自分にとってすごく重要な選手で、日本の将来でもある。自分はスペインで素晴らしい才能を持ったポイントガードを育ててきたけど、将来トップ選手となっていくために必要なことが2つある。1つはフィジカル面、もう1つがアウトサイドのショットの強化。まだ若いけどよく働いてくれる」という言葉でも明白だ。しかし、澁田は決して現状に満足していない。

「得点とかアシストにこだわるのはプロ選手として当たり前のことなんですけど、僕が求められているものとチームとして求められているものを出して勝つというのがベストだと思うので、スタッツにこだわることよりも、今はチームにどんなプレーで貢献できるかというところに意識を向けています。結果としてチームが負けているので、ポイントガードとして勝たせることは役割の1つだと思うので、まだまだ練習と経験が必要かなと思います」

非凡な得点センスとゲームメイク力を持つ澁田 写真/B.LEAGUE
非凡な得点センスとゲームメイク力を持つ澁田 写真/B.LEAGUE

 練習と経験の積み重ねということでは、レイナルド・ガルシアの存在が澁田の成長を助けている。フィジカルの強さとスピードを持つキューバ人ポイントガードは、澁田と練習でマッチアップすることが多い。

「一瞬でも気を抜くとドライブしてきますし、僕よりも体が2回りも大きく体格のいい選手なので、毎日体をぶつけながら本当に全力でやっても勝てない相手。ガルシアとマッチアップするのは、B1の選手とマッチアップしているくらいのレベルなので、自分にとっていい環境だと思っています」と語る22歳の司令塔は、佐賀がさらなる飛躍を成し遂げる上で重要な存在だと言っていい。

外国籍選手補強のカギを握っていた中西の加入

 Bリーグ初のキューバ人選手となるガルシアが佐賀に入団できたのは、202cmの中西良太を熊本ヴォルターズから獲得できたことが大きい。トーレスコーチが「チームを作る際、中西をリクルートすることを最優先にしていた。彼がインサイドにいればアメリカ人のリクルートは一人でよかった」と語ったように、外国籍選手に対応できるサイズと強さ、インサイドで得点できる術を持つ中西の存在は、外国籍のガードを獲得できる状況を作り出したのだ。

インサイドで欠かせない存在となっている中西 写真/B.LEAGUE
インサイドで欠かせない存在となっている中西 写真/B.LEAGUE

 ガルシアは得点機会をクリエイトできるだけでなく、「今までのコーチ人生で最も素晴らしいディフェンダーと思える1人」とトーレスコーチに言わせるくらい、攻防両面で佐賀にとって欠かせない選手。若い澁田だけに限らず、日本人ガードたちの成長を促進できるという意味でも大きな補強だった。

 ケニー・ローソンとマルコス・マタは、3Pショットで相手の脅威になれるビッグマンであり、「中西をよりインサイド、外国籍選手がインサイドもアウトサイドもできるタイプにすること」というトーレスコーチの考えにマッチしている外国籍選手。マタが欠場した群馬との2連戦、ローソンは12本中9本の3Pショットを成功させた。スクリーン後にアウトサイドへと移るポップアウトだけではなく、相馬を起点としたスペインピックからゴール下へとダイブした中西にボールが渡り、そこからキックアウトのパスをもらって決めたコーナーからの3Pショットは、ローソンがオフボールでも堅実に仕事することを示すものだった。

 佐賀がオフェンスで重視している点は、トランジションとボールのシェア。「ローポストやピック&ロールといった典型的なセットだけでなく、違ったコンセプトのオフェンスも展開できる」と話すように、トーレスコーチはローソンとマタのシュート力を生かすため、ガルシアや相馬といったガードのポストアップを使うことも佐賀の特徴である。

4年間B1を経験している相馬は得点源の一人として重要な戦力 写真/B.LEAGUE
4年間B1を経験している相馬は得点源の一人として重要な戦力 写真/B.LEAGUE

緊急B1昇格宣言の実現に向けて

 人口81万人弱の佐賀県というスモール・マーケットに本拠地を置き、創設2年目ということからもチームの知名度アップはこれから。Bリーグ選手のクライアントが多いエージェントによれば、選手への人件費はB2の平均レベルよりも低い額だという。思い切った補強が功を奏している群馬とは対照的であり、B1経験者も相馬と西祐太郎しかいない。

「常にチャンピオンシップ獲得を目指しているから、ディフェンスが重要。ディフェンスに対するフォーカスはとても高く、ゲームの状況によって異なるオプションがあり、ピック&ロールやマッチアップにおいても、対戦相手によって変える。オフェンスでは常に走ること、トランジションを意識し、いいスペースを作ってベストの選手がベストのショットを打つこと。私の哲学は選手たちがボールをシェアすることだ」

 こう話すトーレスコーチが目指すバスケットボールの遂行レベルが着実に上がっていることは、佐賀がシーズン前半を西地区首位で終えたことでも明らか。しかし、11敗のうち80失点以上が9試合を数えていることもあり、質の高いディフェンスを徹底できるかが、緊急B1昇格宣言を現実にするために欠かせない要素になるだろう。

「我々は今、プレーオフに進むためにハードワークを続けている」と言うトーレスコーチの下、佐賀バルーナーズはこれからB1昇格への長くて険しい道のりを歩む覚悟を持っている。23日から再開されるレギュラーシーズン、ホームに山形ワイヴァンズを迎えての2連戦は、群馬戦の2連敗から立て直し、正しい方向へと前進していることを示さなければならない。

 試合中のトーレスコーチは体育館中に響くくらい大きな声で指示を出す 写真/B.LEAGUE
 試合中のトーレスコーチは体育館中に響くくらい大きな声で指示を出す 写真/B.LEAGUE

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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