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世界を知る八村世代に直撃! 牧隼利「塁が頑張っている姿を見て、ただすごいと思っているだけではダメ」

青木崇Basketball Writer
沖縄の地でプロキャリアをスタートした牧 写真提供:琉球ゴールデンキングス

 昨年のインカレ、キャプテンとして筑波大の優勝に大きく貢献した牧隼利は、その余韻に浸る暇がないまま、特別指定選手として琉球ゴールデンキングスに入団。合流から1か月が経過すると先発ガードとして起用されるようになり、2月16日の秋田ノーザンハピネッツ戦では33分間のプレーで自己最多の10点を記録した。インカレからB1デビューへの道のり、自身が感じた手応えや課題について次のように振り返る。

「(インカレで)優勝できてうれしかったんですけど、1週間もしない間に沖縄へ行かせてもらって、インカレがまるで夢のようでした。優勝したなというところから、すぐに沖縄で始まったなという印象でした。

 Bリーグでいざ試合をやってみて感じたことは、フィジカル的な面においては高校・大学と地道に積み重ねてきたものが生きています。そのあたりは世界と比べたらまだという話ですけど、Bリーグという中ではできると思います。今まで自分はディフェンスとか全然得意と思っていなかったんですけど、大きい選手よりも貢献できる部分が多いのかなということで、ディフェンスを今後の課題としてあげたいです。ツーメンゲームでオフェンスのユーザーになった時、外国籍選手を生かすのもそうですし、それに加えて自分が得意とするシュートといったプレーの幅をいかに広げるかが、今後の課題かなと思います」

来シーズンに向けて沖縄でのトレーニングの合間を縫って取材に応じた牧 (C)Takashi Aoki
来シーズンに向けて沖縄でのトレーニングの合間を縫って取材に応じた牧 (C)Takashi Aoki

U16で得た自信とU17以降直面した壁

 牧隼利という名前を知ったのは、福岡大附属大濠高1年の時。U16日本代表に選ばれて出場した2013年のアジア選手権では平均18.5点をマークし、八村塁に続く得点源になった。75対71で競り勝った準々決勝の韓国戦で25点、チャイニーズ・タイペイとの3位決定戦でも23点という活躍は、日本がワールドカップ出場権を獲得するうえで大きな意味があった。

「やはり韓国戦ですかね、あれは自分でも印象的だったかなと思います。勝って泣くほどうれしかったのって、本当にインカレ優勝以外だったらあの試合しかないですね。十何年ぶりとか久々の出場権獲得でしたので、ワールドカップに行けるという誇りは確かに、すごいチャンスを自分たちがつかんだと思えました」

 しかし、世界の壁はとんでもなく厚かった。日本は初戦でオーストラリア相手に金星目前のところまで行ったものの、開催地のアラブ首長国連邦戦が唯一の勝利という結果の1勝6敗。アメリカ戦の84点差を最大に、27点差以上の敗戦は4試合を数えた。牧はアジア選手権に続いて八村に次ぐチーム2位平均得点(10.3)を記録したものの、フィールドゴール成功率は26.3%。アメリカ戦では15本中1本しかシュートを決められなかった。

「個人的な話で言えば、試合を重ねていくごとにどんどん(よくなったし)、相手もレベルが高かったんですけど、慣れといった部分もあったと思います。そういった相手と常日頃バスケットをするという環境がすごく大事なのかもしれないと思いましたし、単純に身長やフィジカルもそうですけど、スキル的な面で圧倒的に違ったなと思ったので、その辺は全然練習が足りていないなと改めて感じさせられた瞬間でした。

(アメリカ戦は)衝撃的でしたし、何よりもあれだけ点差が開いてもアメリカの気迫というか、本気でやってくる感じは今でも覚えています。あのようなチームがすごく格好いいなと思ったのを覚えていますね。もちろんモチベーションにはなっています。あの大会を通じて、もっとそういったところを見てやっていかないと、ワールドカップの出場権を手にしても、いざ出たらああいう風になるというのがわかったので、それを身をもってU17世代ですけど経験できたのはよかったなと思います」

U16とU17代表での牧は八村に次ぐスコアラーとして奮闘 (C)FIBA.com
U16とU17代表での牧は八村に次ぐスコアラーとして奮闘 (C)FIBA.com

 U17ワールドカップから4か月強、牧の福岡大附属大濠と八村の明成がウィンターカップの決勝で対戦した。大濠が終始リードを奪う展開で進んだ試合は、4Qになってから明成の追撃が始まり、残り1分強で69対69の同点。明成のゾーンディフェンスにオフェンスが停滞していた中で、左ウイングでボールをもらった牧はゾーンのギャップを見つけると、一気にゴールに向かってアタックする。U17ワールドカップで嫌というほど感じた強くフィニッシュするという意識を持っていた牧は、ダンクを叩き込むつもりだった。

 しかし、八村がヘルプ・ディフェンスで反応して思い切りジャンプすると、リングの手前で牧のショットをブロック。「今では考えられないくらい貧弱というか、子どもっぽくて陽気な感じでした」という初対面時の印象から想像つかないくらい、八村のブロックショットは強烈であり、多くのファンの記憶に残っているはずだ。八村のビッグプレーによって、明成は牧と大濠の夢を打ち砕く大会2連覇を達成。しかし、残り49秒のシーンで牧がブロックショットをかわすような逃げのプレーをせず、疲労が蓄積している状況でもダンクを叩き込もうとした姿勢は、日本のバスケットボール界にもっと浸透させなければならないことを示すものだった。

リーダーシップを模索して自信をつけた大学4年間

 高3になった牧は大濠のキャプテンになったが、インターハイもウィンターカップもまさかの初戦敗退。リーダーとしてチームを牽引できなかったことへのフラストレーションは、悔し涙を流すというところに至らず、自信喪失に陥りかけた。しかし、筑波大での4年間で牧は、リーダーシップの発揮という点で大きな飛躍を遂げる。筑波大の吉田健司コーチも4年生のキャプテンが先発になれなかった事情があり、3年生の時からゲームキャプテンを任せる決断を下す。牧自身もキャプテンを務めることの意味、リーダーシップとは何かを突き詰める生活を続けた。

 なかなか結果が出ずにもがき苦しんできたが、大学生として最後のインカレで頂点に立つと、牧はだれよりも感情を表に出し、泣いた。自分なりに模索してきたリーダーシップで結果を出し、人間として大きな自信を手にしたのである。また、プロのバスケットボール選手としてのキャリアをスタートするにあたり、心身両面で準備が整ったことを意味していた。

「プレー面でもフィジカル面でもそうなんですけど、僕はキャプテンをやらせていただいてリーダーシップに自信がつきました。今はルーキーだけど試合中にハドルで集まることをしたり、発言したりということが前よりも自信を持って、やらなければ気が済まないというメンタリティになっているので、それに関してはすごくよかったかなと思います」

 

U17代表で一緒に世界を戦った前田悟のディフェンスを前にシュートを打つ牧 写真提供:琉球ゴールデンキングス
U17代表で一緒に世界を戦った前田悟のディフェンスを前にシュートを打つ牧 写真提供:琉球ゴールデンキングス

 ウィンターカップで牧の前に立ちはだかった八村は渡米後にさらなる飛躍を遂げ、NBAという世界最高レベルで能力を存分に発揮している。同世代として刺激を受けている一方で、牧は沖縄が開催地になっている2023年のワールドカップに出場したいという強い思いがある。

「大学の時からですけど、あいつが頑張っている姿を見て、ただすごいなって思っているだけではダメだなと思いました。“塁がすごい、すごい”とみんな思うし、言うと思うんですけど、それに負けじと僕らも頑張っていかないと…。あの時(ワールドカップで)一緒に戦った仲間だし、あの悔しさは共有していると思うし、塁自身も絶対僕らに“すごいな、お前”という風になってほしいわけではないはず。その刺激を持って僕らに頑張ってほしいと思っているだろうし、そういった面でいい刺激をもらっているという感じです」

 琉球ゴールデンキングスでチームメイトとなったナナーダニエル弾、アルバルク東京の平岩玄とは、今もU17ワールドカップの話をすることがあるという。牧が再び世界と戦う機会を得るためには、U17代表のキャプテンで昨シーズンのB1新人王を獲得した前田悟(富山グラウジーズ)のように、2020−21シーズンで活躍するシーンを増やすことがその第一歩になる。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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