Yahoo!ニュース

テーブス海の決断。「NCAAディビジョン1内の転校ではなく、なぜB1を選んだのか?」

青木崇Basketball Writer
テーブスはNCAAの名門ノースカロライナ大と2度対戦している(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

NCAAは転校が日常茶飯事

 12月21日のバンダービルト大戦に敗れた2日後、ノースカロライナ大ウィルミントン校はテーブス海がチームから離れることを発表した。C.B.マッグラスヘッドコーチは昨季、ミスが出ることを覚悟の上で1年生のテーブスを先発ポイントガードとして起用し、ジャ・モラント(マレー州立大、現メンフィス・グリズリーズ)に次ぐNCAAディビジョン1で2位となる平均7.7アシストを記録。しかし、今季は13試合で7アシスト以上がわずか2度しかなく、チームも連敗地獄に陥っていた(1月18日に連敗が12でストップ。20日時点のシーズン成績は6勝15敗で、テーブスをリクルートしたマッグラスヘッドコーチも1月13日付で解任)。そんな状況を考えれば、このような発表が出ることに驚きはない。自分にとってベストだと思える環境を求めての転校が、NCAAでは日常茶飯事に起こっている。

 その好例をあげるならば、渡邊雄太が在籍していた時のジョージ・ワシントン大だ。2014-15シーズンに1年生として一緒に入学してきた選手は、渡邊以外の4人がいずれも2年以内でチームを去り、1年生の渡邊にスターターの座を奪われたキーサン・サベージは、そのシーズン終了後にバトラー大へ転校。1年後輩のジョーダン・ローランドも2年生のシーズン終了後にノースイースタン大へと移り、4年生となった今季は平均22.3点(1月18日時点)と素晴らしい活躍をしている。それぞれの選手やチームの事情によって理由が異なるとはいえ、NCAAのバスケットボール選手たちは転校することへの抵抗感がないのだ。

 テーブスの名前がNCAAのトランスファー(転校生)リストに掲載されると、ネームバリューのあるチームが興味を示し、カリフォルニア大バークレー校やブリガムヤング大からはスカラシップのオファーがあったという。現在富士通の女子チームでヘッドコーチを務める父のB.T.は、より高いレベルにあるディビジョン1の大学でプレーすることを望んでいた。カリフォルニア大バークレー校に転校していた場合、NCAA制覇11回の名門UCLAやNBA選手を数多く輩出するアリゾナ大などが所属するパック12でプレーできる。もし、アトランティックコースト、サウスイースタン、ビッグテン、ビッグ12といった強豪ぞろいのカンファレンスに所属するチームに転校し、ハイレベルな環境下で成長する機会を得られるのであれば、テーブスにとってはメリットでしかない。

なぜシーズンの途中、12月下旬にチームを去ることにしたのか?

 NCAAの学生アスリートは転校しやすい一方で、犠牲も伴う。バスケットボール選手の場合は一部の例外を除き、転校先でプレーできるのが1年後という規定がある。もし、NBA選手になることを目標にしているテーブスが今季終了後に転校を決断した場合、試合に出られるのが2021-22シーズンからで、出場資格を得られた時の年齢は23歳。才能ある選手ならば若いほどチャンスを得られやすいというNBAの現状からすると、大学卒業時に24歳というのは明らかに不利なのだ。

 昨年12月にチームを辞めて転校生リストに登録したのは、来季の同じ時期になれば試合に出られる可能性を残しておきたいという理由があったに違いない。ノースカロライナ大ウィルミントン校からより高いレベルの大学に転校すれば、来年の今ごろには3年生として出場資格を得られるだけでなく、強豪校で活躍を続ければNBAスカウトの目に留まる機会も増える。

 しかし、テーブスは海外からの注目度が上昇し、ゲームの質もレベルアップしているBリーグでプレーすることを選択した。宇都宮ブレックスの入団記者会見で口にした「アメリカのディビジョン1の大学でやっていたけど、もっとレベルの高いところでプレーをしたい気持ちが強かったです」という言葉は、ディビジョン1でもチーム間に大きなレベルの差があることを示すもの。テーブスが通っていたノースカロライナ大ウィルミントン校は353校あるディビジョン1のネット・ランキングで317位で、所属カンファレンスのコロニアル・アスレティック・アソシエーション(CAA)でトップ100に入っているチームは1校もない。

 カンファレンスのリーグ戦が始まる年明け前には、ノースカロライナ大やスタンフォード大といった実績のあるチームと対戦できた。しかし、ディビジョン1とはいえ決して高いレベルにないCAAのリーグ戦でプレーし続けることが、自分にとってプラスなのかとテーブスが考えてもおかしくない。どこに転校するにせよ、ケガをしていない状態で1年間試合に出られないというのは、10代後半から20代前半の選手にとって心身両面で辛いもの。特別指定選手でBリーグのチームに入団すれば、NCAAディビジョン1の大学に転校することで強いられるブランクを回避できる。また、B1東地区の宇都宮に入団したことで、富樫勇樹(千葉ジェッツ)、安藤誓哉(アルバルク東京)、ベンドラメ礼生(サンロッカーズ渋谷)と実戦でマッチアップする機会が得られることも、日本代表入りを目指すテーブスにとっては大きな魅力と言っていいだろう。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

青木崇の最近の記事