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桜花学園の強さは指揮官の学びに対する強い姿勢が選手に浸透していることにあり

青木崇Basketball Writer
井上コーチの下で学び、成長してきた3年生たち (C)Takashi Aoki

 インターハイ、国体、ウインターカップの通算で66回の全国制覇を果たしている桜花学園。チームを率いる井上眞一コーチの下、能力の高い選手たちが集結している。しかし、常勝チームとして高校女子バスケットボール界を牽引することは容易でない。では、強さの原点はどこから来ているのか? そのキーワードは学びという気がしている。

指揮官の強い学習意欲の源は負けず嫌い

 井上コーチは練習以外の時間に映像チェックやスカウティングをするなど、バスケットボールを学ぼうという姿勢がまったく失われていない。若いころは元韓国代表コーチのチョン・ジュヒョンや現在デトロイト・ピストンズを率いるドウェイン・ケイシー、今はインカレ3連覇を成し遂げた東京医療保健大学の恩塚享といった若いコーチからも何かを得ようとしている。

「最初は韓国のテイ(チョン)さん。そこへ毎年、合宿に10年くらい行っていた。コーロンという彼のチームと合同練習したりして、そのあとドウェイン、カナダのケン・シールズと会って、自分もケンタッキーに1か月くらい行っていた時期もある。ケンタッキーにドウェインが戻った時に彼の家に行ったりして、中学校、大学女子とかいろいろなところへ見に行った。もちろん、ケンタッキー大学の試合も。今は恩塚とか、ドウェインとつながっている佐藤(智信:白鴎大学コーチ)。恩塚はデューク(大学:五輪3連覇を成し遂げたアメリカ代表のヘッドコーチを務めたマイク・シャシェフスキーが率いるNCAAの強豪)に通っているので、彼らから勉強しようとしている。去年と同じチームは作らないようにしようとはしています。

 去年と同じことをやって今年勝てるかといったら、そんな保証はどこにもない。やっぱり変えるべきところは変えるし、バスケットも世界的な流れがあるわけだから、それに合わせたバスケットをやりたいなと思っている」

 こう語る井上コーチの学びに対する強い姿勢は、勝利に対する貪欲さから来ている。バスケットボールに関しては元々負けず嫌いであり、守山中(愛知県名古屋市)のコーチをしていた時にその思いがより強くなったという。

理論的に矛盾のないように教えたい

 練習時の井上コーチは、部員に対して厳しい声で指導することが非常に多い。ちょっとしたミスも見逃さない洞察力は、長いコーチ人生で積み重ねた経験と学びから来ている。しかし、ミスに対してただ厳しく注意するのではなく、なぜそうなってしまったのかを問い、選手に答えさせることを忘れない。コーチ自身でデモンストレーションしながらミスの局面を丁寧にやり直すことで、頭と身体に覚えるさせるのだ。

 学びやすい環境を作るうえで気をつけている点について質問したところ、井上コーチからは「ファンメンタルをやることと、理論的に矛盾のないように教えること」という答えが返ってくる。だからこそ、やらされている感のない能動的に取り組む姿勢が選手全員に浸透し、学びへの意識も自然と高くなる。だからこそ、コーチとのコミュニケーションがしっかり取れているのだ。キャプテンの平下愛佳はこう語る。

「先生がすごいなと思うところは、自分たちが提案をしても取り入れてくれるところ、選手の要望を受け入れてくれることです。自分たちが言ったことを次に生かしてくれたり、すごく意見を取り入れてくるのはいつもすごいなと思います」

(C)Takashi Aoki
(C)Takashi Aoki
(C)Takashi Aoki
(C)Takashi Aoki

 井上コーチにとって教えたことを部員たちが学んだと感じる瞬間は、正しい状況判断からいいプレーを決めた時だ。「要するにセットオフェンスが20くらいあるんだけど、そこの中で空回りしてセット、セットで行くのではなく、チャンスがあったらドライブして行く、1オン1をやるかというところ。そういうチャンスは必ずやってくるので、それをやれと言った時に逆サイドのスクリーンでディフェンスがそっちに集中した時に、ボールマンがドライブすることがうまくいった時だね」と説明する。3年生フォワードの岡本美優は「最初の方は先生が言ったことに対して、何をすればいいのかわからなかったんです」と語っていたが、理論的かつ詳細な教えをしっかり学ぶことによって、ゲームの理解度が上がっていったという。平下も「IQがすごく上がったなと思います」と同意する。

 日本代表選手を数多く輩出した桜花学園の中でも、井上コーチはデンソーに所属する高田真希をここ10年で学習能力が最も素晴らしい選手と評価。「上級生にポストプレーを教えている時に、それを見ながら要領よく覚えていった」という言葉は、高田が日本代表の主力として身長がより大きな相手とも互角以上に戦えている要因と言っていいだろう。

練習後の円陣で活発なコミュニケーションを行う桜花学園の選手たち (C)Takashi Aoki
練習後の円陣で活発なコミュニケーションを行う桜花学園の選手たち (C)Takashi Aoki

 桜花学園の選手として出場機会を得るには、井上コーチの言うことをいかに学び、身につけるかが絶対条件。厳しい競争の中で練習が行われることで、選手個々のレベルアップと比例してチーム力も上がっていく。「春からずっとこのチームで話しているのは、このメンバーで決勝の舞台に立ったことある選手がいない。まずはメインコートに立ち、決勝戦でしっかり桜花のバスケットをやって三冠を取りたいと話しているので、なんとしてでもやり遂げたいと思っています」という平下を筆頭に、桜花学園の選手たちはウインターカップで3年ぶりの頂点に立つためにハードな練習の日々を過ごしている。特に、3年生たちは井上コーチから学べる日が少なくなっていることを実感しながら…。

「コーチングでは日本一の先生だと思いますし、ここで学べているのが自分たちの将来に絶対役に立つはずなので…」(岡本美優)

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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