Yahoo!ニュース

辻直人こそワールドカップ出場を決めたバスケットボール日本代表に必要な真のシューターだ!

青木崇Basketball Writer
カタール戦でシュート力が日本に欠かせないことを示した辻 (C)FIBA.com

 勝てばワールドカップ進出が決まるという2月24日のカタール戦。日本は試合序盤にシュートがなかなか入らず、迷いからくるターンオーバーもいくつか犯してしまう。しかし、7点リードして迎えた2Qで試合の主導権を握るきっかけの一つは、辻直人がシューターとして存在感を発揮したことだった。

 カタールは2-3のゾーンディフェンスで日本のリズムを崩そうとしたが、9分15秒に富樫勇樹のアシストから辻が右ウイングから3Pシュートを成功。辻がメンバーに入ってなかった富山でのカザフスタン戦は、3Q終盤までアウトサイドのジャンプシュートがまったく入らなった。しかし、インサイドで着実に得点できるニック・ファジーカスがいることでスペースが作りやすいことに加え、カタールのプレッシャーがいまひとつなところもあり、オープンになった瞬間に辻は躊躇することなく3Pを打った。

 6分42秒に2本目、5分34秒に3本目を成功させたことで日本のリードは15点に広がり、富樫と比江島慎も辻に続いて決めていく。2月21日のイラン戦も3P成功率50%(14本中7本成功)と高かったが、カタール戦の2Qは9本中7本成功という大当たり。ニック・ファジーカスというインサイドで頼りになる得点源がいることで、スペースを作りやすくなったのはまちがいない。そんな中にシュート力に絶対の自信を持つ辻が活躍できる状況になれば、日本のオフェンスがより強力となることは、ウィンドウ6の2試合で証明。「ゾーンもそうですけど、マンツーマンの時でもチームとしてゴールにアタックできる選手が何人もいるので、そこでスペースをとって外にいるだけで、ボールを触らなくてもチャンスメイクができると思っています」と語ったように、ゾーンディフェンスを3Pシュートで粉砕するゾーンバスターとして、辻は今の日本に欠かせない選手と言っていい。

一瞬でもオープンになれば、3Pシュートを決められるのが辻の強み (C)FIBA.com
一瞬でもオープンになれば、3Pシュートを決められるのが辻の強み (C)FIBA.com

 3Qにもう1本決めた辻は、18分55秒間で3Pシュート4本成功させての12点をマーク。アシストも4本記録するなど、オフェンスで日本に勢いをもたらした。11月23日の栃木ブレックス戦で左肩を脱臼したこともあり、ウィンドウ6のメンバーに入れるか微妙な状況だったことからすれば、「本当に満足です。今の代表における仕事としては、これがベストのパフォーマンスだと思う」と辻が納得したのも理解できる。

 8本の3Pシュートを決めたウィンドウ2のチャイニーズ・タイペイ戦以降、辻の出場時間は減少していった。昨年8月にはワールドカップ予選を一緒に戦ってきたメンバーと別のチームで、ジャカルタで開催されたアジア大会に出場。メンバー4人が不祥事によって強制帰国となった事態発生により、辻は疲労困憊の中で戦い続けることを強いられた。何とかウィンドウ4のメンバーに入ったものの、カザフスタン戦とイラン戦はいずれも出場時間0分。日本代表の中における状況は厳しいものとなり、栃木戦の左肩脱臼というアクシデントが拍車をかけてしまう。それでも、辻は決してあきらめなかった。

 2月21日のイラン戦はわずか2分51秒間のプレータイムだったが、1Q残り1分17秒に比江島に代わって登場すると、残り41秒に最初のシュートとなる3Pを見事に成功。どんな状況で起用されてもフリオ・ラマスコーチの期待に応えられるように、心身両面で準備万端だったことは明らか。ほんのわずかな時間でも得意の3Pシュートで貢献できたことは、カタール戦の2Qにゾーンバスターとして決めた3本につながった。

「今回のウィンドウもケガ(左肩脱臼)でどうなるかわからなかったんですけど、それでも選んでもらったことには本当に感謝しています。ウィンドウ6まででいろいろな経験やケガ、悔しい思いを乗り越えた中でコートに立てて、こういう結果に終わることができたのは、本当にあきらめずひたむきにやってきてよかったなと思います。一時期代表に選ばれてもプレータイムをもらえなかったりして、代表活動が自分にとってどうすべきなのかを正直考えたこともあったんですけど、それでも選んでもらって日の丸を背負うということはそれなりに責任が重たいものがある。コートに立ててワールドカップの出場権を獲得できたというのは、本当によかったと思います」

 

 カタール戦後にこう話した辻には、ワールドカップのメンバーに選ばれるための新たな競争が待ち構えている。ディフェンスやフィジカル、シュートをより確実に決めるといった課題を口にしたものの、今の日本には3Pシューターとして欠かせない戦力ではないだろうか? 

 そう思える理由は、2016年にセルビアのベオグラードで行われた五輪最終予選でチェコ相手に5本の3Pシュートを決めていたからだ。サイズのあるヨーロッパの選手相手でも、辻は一瞬でもオープンになれば決められることをハイレベルな国際試合で証明済。相手にとって厄介なシューターとして、ワールドカップを戦う日本に欠かせない戦力であることは、カタール戦で改めてアピールすることに成功したという気がしている。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

青木崇の最近の記事