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遠藤祐亮が手にしたスコアラーとしての自信は、ディフェンス・スペシャリストからの卒業を意味する

青木崇Basketball Writer
天皇杯でベスト5に選出されるなど、今季の遠藤は3Pシューターとしても活躍中(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 大東文化大に在学していた時の遠藤祐亮は、攻防両面で活躍できるオールラウンドな選手だった。4年生のシーズンにはエースとして活躍したものの、チームは2〜3年生時に関東リーグの2部所属。Bリーグ創設から3年目を迎えた今と違い、当時JBLの企業チームに新卒で入れる選手は、関東1部でプレーするトップレベルが数人という状況だ。プロとして活動するならば、bjリーグという選択肢もあった。しかし、遠藤はJBLのプロチームとして活動していたリンク栃木ブレックスと2012年に育成契約を結び、TGI Dライズでキャリアをスタートさせた。

 1年目の途中でコールアップされたことで、遠藤はトップリーグでの出場機会を得た。口数の少ない性格と比例するかように、コート上での遠藤は黙々とプレーするタイプの選手。栃木でプレーし始めたころのある試合で、遠藤はフリーでボールをもらっても3Pシュートを打たなかった。それを見たファンからは、「打たなはいれへんぞ!」とヤジを飛ばれたことがある。シュートに対して積極性が欠けていたことは、チームメイトも感じていた。それは、ライアン・ロシターとジェフ・ギブスの言葉が象徴している。

「我々はいつでも“彼はできる”と思っていたし、私や(田臥)勇太は常に“シュートを打て!”と言い続けていたよ。たとえ外れたとしても、彼はいいシュートを打っている。だから、我々は“打て!”と叫んでいたものさ」(ロシター)

「自分とライアンは彼に対して自信を持っているし、自分は彼に対して常にシュートを打つようにこのチームのどの選手よりも言っている。オープンになってもシュートを打たなければ、彼に対して腹が立つくらいさ。オープンのショットをミスするのは受け入れられる」(ギブス)

 遠藤の出場機会が増えた理由は、運動能力の高さをディフェンスで生かすことができるようになったからだ。元々うまかったわけではなく、自身もディフェンスが苦手と口にしていた時期もあったが、ハードワークは裏切らない。Bリーグの1年目となった16-17シーズンには、出場時間が前のシーズンよりも5.7分多い24.1分まで増加。アルバルク東京の元NBA選手、ディアンテ・ギャレットとのマッチアップでステップアップし、栃木の勝利に大きく貢献している。当時、「Bリーグ初代王者を狙うブレックスに欠かせない存在となった遠藤祐亮」というタイトルで筆者は取り上げ、B1制覇を成し遂げた後ベストディフェンダー賞も文句なしの選出だった。

 昨季の遠藤はプレシーズン中に足首を故障し、万全な状態でプレーできないまま試合に出続けることを強いられながらも、平均8.2点、2.2アシストの数字を残す。万全なコンディションでシーズンに臨めたら、もっと活躍できるという雰囲気はあった。さらに、昨年夏に喜多川修平が今季絶望となる右ひざ前十字じん帯断裂および右ひざ外側半月板損傷というケガに見舞われたことで、遠藤のシュートに対する意識は否応なく変わることを強いられる。昨年の10月下旬に体調不良で3試合欠場したが、復帰2戦目となった11月4日の滋賀レイクスターズ戦で6本中5本の3Pシュートを決めるなど22点の大活躍。3日後の千葉ジェッツ戦でも16点を奪って勝利に貢献したことは、積極的に得点を狙いに行く姿勢の表れが要因だった。

 11月24日の川崎ブレイブサンダース戦で今季3度目の20点以上となる22点を記録した遠藤は、栃木がアウェイで貴重な勝利を手にする原動力となる。試合後に残した「今年は修平さんがいない分、自分が取らなければいけないということと、3Pの数を増やすためには自分が打たなければならないというのがあります」という言葉は、意識の変化とスコアラーとしての自信がついてきたことを示すもの。ベスト5に選ばれた天皇杯ファイナルラウンドでは、準々決勝のサンロッカーズ渋谷戦と準決勝の京都ハンナリーズ戦でいずれも18点を記録していた。

「まちがいなく自信がついていると思います。思い切りシュートを打っているし、クリエイトできるという自信がついているのが、好調の要因かなと思います。彼もディフェンダー、ディフェンダーと言われて嫌気がさしていると思いますし、それだけじゃなく素晴らしい運動能力を持っていましたし、あとは経験とスキルの向上だったと…。それが今追いついてきて、僕なんかが言うのは偉そうかもしれないけど、それくらい立派になっているので、僕もボールを預けられる。スコアリングリーダーになっているくらいなので、ディフェンスだけじゃなくて、オフェンスも成長していて素晴らしいなと思います」

 ガード陣を一緒に構成する渡邉裕規がこう語るように、遠藤を”ディフェンダー”と呼ぶのは止めたほうがいいのかもしれない。デトロイト・ピストンズのビッグマンとして、4度ディフェンシブ・プレーヤー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた実績を持つベン・ウォレスが、2004年にNBA制覇を成し遂げた後に「オレはディフェンス・スペシャリストなんかじゃない。バスケットボール・プレーヤーだ」と口にしたのを思い出した。これはオフェンスの機会をまったく与えなかったコーチたちへの皮肉だったが、ピストンズを頂点に導いたラリー・ブラウンだけはウォレスに得点を奪わせるセットを作り、躊躇することなく使っていたのだ。

 今季の遠藤を見ていれば、攻防両面で素晴らしい仕事をしている。今季ベストの25点を記録して勝利に貢献した2月3日の千葉ジェッツ戦では、ウォレスの言葉を改めて思い起こさせるようなパフォーマンスを見せていたし、富樫勇樹も「ディフェンスのよさはもちろん皆さん知っているものだと思うんですけど、オフェンス面での今年の活躍というのは本当にすごいと対戦していて思います」と語っていた。

「本人も自信を持っていると思うし、そういうところの責任を取れるというメンタルになってきている。ああいう時に逃げたいという選手もいると思うんですけど、遠藤は今年自分が決めなくて負けたら自分のせいというメンタルができあがっていると思うので、それが自信になっていると思いますし、今いい方向にどんどん出ていると思います」という安齋竜三コーチのコメントからも、遠藤は栃木にとって欠かせない中心選手になったのがわかる。

 今季3分の2を経過した時点で、遠藤の3P成功率45.6%はB1で2位、出場した37試合中33試合で最低1本決めている。相手からすれば厄介なシューターになっただけでなく、シーズンの経過とともにドライブからフローターでフィニッシュしての得点も増えつつある。”確固たる自信”を手にしたことは、1月26日の川崎戦後の「自分が消極的になってパスしてミスするよりは、自分で攻めて決めきれなかったほうがメンタル的にも次につながるような気がする」という言葉でも明らか。ワールドカップ予選のウィンドウ6のメンバーに選ばれなかったが、日本代表候補として2月上旬の合宿に召集されたことへの驚きはない。

 それは、遠藤がディフェンス・スペシャリストからオールラウンドなバスケットボール選手へと進化したことの証と言っていいだろう。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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